結論:DNARは「心停止時にCPRを開始しない」指示であり、急変対応を止める指示ではない
DNAR指示が有効になるのは心停止時です。酸素投与、吸引、抗菌薬、輸液、昇圧薬、気管挿管、人工呼吸器、ICU入室、透析などを行うかどうかは、DNARとは別に患者の目標と医学的妥当性から決めます。
「DNARだから医師を呼ばない」「DNARだから低酸素を治療しない」は誤りです。急変時は通常どおり評価し、患者と合意した治療範囲に沿って対応します。
急変時の最初の5分
- 心停止か、脈拍のある急変かを判断する
- 心停止でなければABCDEで可逆的原因を評価する
- DNAR指示の有無だけでなく、治療の上限に関する記録を確認する
- 不明なら上級医を呼び、苦痛緩和を含む必要な初期対応を行う
- 家族連絡、代理意思決定者、患者本人の過去の意向を確認する
- 実施する治療・実施しない治療と理由をチームで共有する
救命可能な窒息、低血糖、薬剤性呼吸抑制、気胸、アナフィラキシーなどを「自然な経過」と決めつけてはいけません。
DNARと治療の上限を分ける
| 項目 | 決める内容 |
|---|---|
| DNAR | 心停止時に胸骨圧迫、除細動、蘇生目的の薬剤、換気などCPRを開始するか |
| 気道・呼吸 | 挿管、NIV/HFNC、バッグ換気、吸引、酸素投与をどこまで行うか |
| 循環 | 昇圧薬、中心静脈路、輸血、補助循環を行うか |
| 臓器補助 | ICU入室、透析、人工呼吸器を行うか |
| 原疾患治療 | 抗菌薬、手術、内視鏡、化学療法などを行うか |
| 苦痛緩和 | 鎮痛、鎮静、呼吸困難・不安への対応をどう行うか |
治療制限は「DNAR」の一語に押し込めず、項目ごとに話し合います。部分的な蘇生指示は現場で混乱しやすいため、院内方針に従い、心停止時の対応は明確にします。
合意形成の順番
1. 医学的状況を共有する
現在の病態、可逆性、治療選択肢、期待できる利益、負担、予後の不確実性を説明します。「助かる・助からない」の二択ではなく、どの程度の回復が見込めるかを話します。
2. 患者の価値観を確認する
- 何を大切にしてきたか
- どの状態なら治療を受けたいか
- どの負担は避けたいか
- 意思を代弁できる人は誰か
意思決定能力がある患者本人の意向が基本です。能力が不十分なら、事前の発言や価値観をもとに代理意思決定者と最善利益を検討します。
3. 医療・ケアチームで決める
厚生労働省のガイドラインは、多専門職種の医療・ケアチームで慎重に判断し、本人の意思は変化し得るため繰り返し話し合うことを重視しています。意見が割れる場合は倫理コンサルテーションを利用します。
「期間を区切った治療」を使う
予後や治療反応が不確かなときは、time-limited trialが有用です。
例:「48時間は抗菌薬、輸液、NIVまで行う。改善指標を意識、酸素化、血圧、本人の苦痛とし、改善がなければ侵襲的治療を追加せず症状緩和を中心に再検討する。」
開始前に期間、目標、評価指標、改善しなかった場合の方針を合意します。
指示は具体的に書く
「急変時DNAR」「フルコースしない」では情報不足です。少なくとも次を記載します。
- 話し合い参加者と患者の意思決定能力
- 患者の価値観・目標
- 病状と予後の説明内容
- 心停止時のCPR方針
- 心停止前に行う治療・行わない治療
- 苦痛緩和の方針
- 再評価の時期と見直し条件
よくある失敗
- DNARを「Do not treat」と解釈する
- 「急変」と「心停止」を同じ意味で使う
- 家族に「全部しますか、何もしませんか」と二択を迫る
- 医師一人で決め、看護師や当直チームへ共有しない
- 患者本人の意思を確認せず、家族の希望だけで決める
- 病状が変化してもDNAR・治療上限を見直さない
- 緩和ケアを治療中止後だけのものと考える
カルテ記載例
「本人は意思決定能力あり。『会話できる状態を大切にし、回復見込みが乏しい侵襲的治療は望まない』との意向。心停止時は胸骨圧迫・除細動・蘇生目的の挿管を行わない。心停止前は酸素、吸引、抗菌薬、補液、苦痛緩和を行う。NIV・昇圧薬・ICU入室は病状変化時に本人と再協議する。家族、看護師、当直医と共有し、48時間後または状態変化時に再評価する。」
Take-home message
- DNARが有効なのは心停止時
- 急変時はABCDEで可逆的原因を評価する
- 心停止前の治療上限はDNARと別に決める
- 患者の価値観を中心に多職種で合意形成する
- 指示は具体的に記録し、状態変化時に見直す