この記事の結論
全身性の痙攣が5分続く、または意識が戻らないまま反復する場合は、てんかん重積として原因検索より先に治療します。時刻を記録し、気道・酸素化・血糖を整えながら、十分量のベンゾジアゼピンを投与します。止まらなければ第二選択薬を遅らせず準備します。
見た目の痙攣が止まっても意識が戻らない場合、低血糖、低酸素、薬剤、脳卒中、感染症に加え非痙攣性てんかん重積を考えます。診断名を「痙攣」で終えず、誘発性か非誘発性か、初回か既知のてんかんか、緊急の原因があるかを整理します。
本記事は成人の全身けいれん性てんかん重積と初回発作の初期対応を想定した医療者向け教育資料です。投与量・禁忌は体重、妊娠、肝腎機能、心疾患、院内プロトコルで確認し、神経内科・救急・集中治療へ早期相談してください。
最初の10分で行うこと
- 発作開始時刻を宣言・記録し、応援を呼ぶ
- 外傷を防ぎ、側臥位・吸引・酸素を準備する。口へ物を入れず、無理に押さえつけない
- ABC、SpO2、心電図、血圧、体温を評価し、低換気なら換気を支える
- 血糖を直ちに測定し、低血糖を補正する
- 5分持続または意識回復なく反復なら、十分量のベンゾジアゼピンを投与する
- 静脈路がなければ確保に固執せず、筋注・鼻腔内・口腔粘膜経路を使う
- 第二選択薬を同時に準備し、電解質、妊娠、薬剤、感染、脳卒中を評価する
発作中の第一選択薬
成人の代表的な選択肢です。施設プロトコルを優先します。
| 経路 | 薬剤と代表量 | 注意 |
|---|---|---|
| 静注 | ロラゼパム0.1 mg/kg(最大4 mg)、必要なら1回反復 | 呼吸抑制を監視 |
| 筋注 | ミダゾラム10 mg(体重40 kg超の成人) | 静脈路がないとき有用 |
| 静注 | ジアゼパム0.15〜0.2 mg/kg(最大10 mg)、必要なら1回反復 | 再分布で再発し得る |
「呼吸抑制が怖い」ため少量を小刻みに投与すると、発作持続による低酸素と追加投与が増えます。適正量を投与し、換気補助を準備します。
第二選択薬
十分量のベンゾジアゼピン後も痙攣が続けば、次のいずれかを投与します。ESETTでは3剤の有効性は同程度でした。
| 薬剤 | 代表的な負荷量 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| レベチラセタム | 60 mg/kg、最大4,500 mg | 腎機能、行動・精神症状 |
| ホスフェニトイン | 20 mg PE/kg、最大1,500 mg PE | 心電図・血圧、伝導障害 |
| バルプロ酸 | 40 mg/kg、最大3,000 mg | 妊娠可能性、肝障害、高アンモニア血症 |
薬剤選択は併存症、妊娠、相互作用、発作原因、在庫で決めます。第二選択後も持続する場合は難治性重積として、挿管・持続麻酔薬・持続脳波を含む集中治療へ移行します。
鑑別診断
発作を起こす原因
- 低血糖、Na・Ca・Mg異常、尿毒症、肝性脳症
- 脳卒中、頭蓋内出血、腫瘍、外傷
- 髄膜炎・脳炎、敗血症
- 断薬・服薬不良、アルコール・ベンゾジアゼピン離脱
- 中毒、薬物相互作用
- 妊娠関連の子癇
- 低酸素、心停止後
発作に見える病態
- 痙攣性失神:前駆症状、誘因、短い強直間代、速い意識回復
- 心原性失神:運動時、動悸、家族歴、異常心電図
- 心因性非てんかん発作:長い変動、閉眼、非同期運動など。ただし所見単独で断定しない
- 振戦、ジストニア、悪寒、睡眠関連運動
舌咬傷、失禁、CK・乳酸上昇だけで確定・除外はできません。目撃者の動画が安全に撮影されていれば診断に役立ちます。
レッドフラッグ
- 5分以上持続、意識回復なく反復
- 初回発作、妊娠・産褥
- 発熱、項部硬直、免疫抑制
- 局在神経症状、激しい頭痛、外傷
- 抗凝固薬、癌、既知の脳病変
- 持続する低酸素、低血圧、高体温
- Na・Ca・Mgの重篤な異常、低血糖
- 中毒・離脱が疑われる
- 痙攣停止後も意識が改善しない
検査と原因検索
全例で血糖、12誘導心電図を確認します。状況に応じて血算、Na、K、Ca、Mg、腎肝機能、血液ガス・乳酸、CK、妊娠反応、薬物濃度・中毒検査を行います。
頭部CTは初回発作、局在所見、外傷、抗凝固薬、免疫抑制、癌、持続する意識障害、激しい頭痛などで緊急適応を検討します。発熱・項部硬直・免疫抑制で中枢神経感染を疑えば、培養・画像・腰椎穿刺を計画し、抗菌薬や抗ウイルス薬を検査完了まで遅らせない場合があります。
初回非誘発発作では、緊急性がなくてもMRIと脳波を速やかに計画します。意識が戻らない、微細な運動が続く場合は持続脳波で非痙攣性重積を評価します。
発作後の判断
「誘発性発作」なら低血糖、電解質異常、感染、中毒など原因の是正が中心です。「非誘発性発作」では再発リスク、画像・脳波異常、神経学的背景をもとに抗発作薬開始を神経内科と共有意思決定します。
退院を検討する場合は、意識・神経所見が基準へ戻ったこと、緊急原因が除外されたこと、早期フォローが確保できることを確認します。運転、入浴、泳ぐ、高所、火気、単独作業などの安全指導は地域の法令・制度と個別リスクに沿って行います。
よくある落とし穴
- 5分を過ぎても自然停止を待つ
- 静脈路確保に固執し、ベンゾジアゼピンを遅らせる
- 少量を反復して十分量に達しない
- 痙攣が止まったため低血糖・電解質・中毒を調べない
- 意識が戻らないのを「発作後」と決め、非痙攣性重積を見逃す
- 心因性を疑っても、低酸素・低血糖・心原性失神を除外しない
- 第二選択薬の準備を第一選択薬後に始める
よくある質問
Q. 痙攣中に舌を噛まないよう物を入れますか?
入れません。歯牙・口腔損傷、誤嚥、救助者の外傷につながります。周囲の危険物を除き、頭部を保護し、呼吸と時間を観察します。
Q. ベンゾジアゼピン後に呼吸が悪化したら?
気道確保と換気を直ちに行います。重積そのものも低換気を起こすため、必要な治療を避けるのではなく、換気補助を準備して適正量を投与します。
Q. 初回発作は全員入院ですか?
一律ではありません。誘発原因、神経所見、画像、併存症、回復、再発時の安全、フォロー体制で判断します。
適用範囲
成人の全身けいれん性発作・てんかん重積と初回発作の救急初期評価を対象とします。小児、新生児、妊娠高血圧症候群、外傷、術後、既知の難治性てんかんは個別プロトコルを優先してください。
まとめ
- 5分続けば重積として治療を開始する
- ABC、血糖、時刻記録とベンゾジアゼピンを並行する
- 第二選択薬を早く準備し、難治例は集中治療・持続脳波へつなぐ
- 発作停止後も原因、非痙攣性重積、再発リスクを評価する