この記事の結論

喀血で最も危険なのは失血量そのものより、血液による気道閉塞と低酸素です。「何mLか」だけで重症度を決めず、呼吸状態、排出能力、出血速度、基礎肺機能で生命危機を判断します。出血側がわかれば患側を下にし、吸引・挿管・気管支鏡の準備を進めます。

安定していれば造影CT/CTAで出血部位・原因・責任血管を評価し、生命を脅かすまたは反復する喀血では呼吸器、放射線IVR、麻酔・集中治療、外科へ早期連絡します。気管支動脈塞栓術(BAE)は多くの重症喀血で重要な止血手段です。

本記事は成人の非外傷性喀血を想定した医療者向け教育資料です。実際の気道確保、止血薬、抗凝固薬拮抗、気管支鏡、BAEは院内手順と専門チームの判断に従ってください。

最初の10分で行うこと

  1. PPE、吸引、酸素を準備し、ABC、意識、呼吸仕事量、SpO2、血圧を評価する
  2. 太い静脈路、モニターを確保し、血算、凝固、血液型・交差適合を提出する
  3. 出血が続く、喀出できない、低酸素・循環不安定なら気道確保チームを呼ぶ
  4. 出血側が推定できれば患側を下にして、健側肺への流入を減らす
  5. 抗凝固薬・抗血小板薬、結核、気管支拡張症、癌、血管炎、最近の処置を確認する
  6. 安定していれば造影CT/CTAを手配し、呼吸器・IVRへ早期相談する

本当に喀血かを確かめる

喀血は下気道からの出血です。鼻咽頭からの出血や吐血が紛れるため、口腔・鼻腔を観察し、症状の前後を確認します。

所見 喀血 吐血・上部消化管出血 上気道出血
前駆 咳、胸部違和感 悪心、吐き気、腹部症状 鼻出血、後鼻漏
血液 鮮紅色、泡沫状のことが多い 暗赤色、食物残渣のことがある 口腔・鼻腔に出血源
併存 呼吸器疾患 肝疾患、消化性潰瘍 鼻咽頭病変

色やpHだけで断定せず、診察と画像・内視鏡で確認します。

生命を脅かす喀血の見分け方

従来の「大量喀血」は量の定義が一定しません。次の生理学的影響を重視します。

  • 気道を保てない、血液を喀出できない
  • 低酸素、呼吸仕事量増大、呼吸不全
  • 急速または持続する出血
  • 循環不安定、Hb低下、輸血が必要
  • 片肺、重いCOPD・間質性肺疾患など肺予備能が低い
  • 出血部位が不明で健側肺へ流入する

鑑別診断

  • 気管支拡張症、慢性感染後変化
  • 肺癌・気道腫瘍
  • 肺炎、肺膿瘍、結核、非結核性抗酸菌症、アスペルギルス症
  • 肺血栓塞栓症・肺梗塞
  • びまん性肺胞出血:血管炎、膠原病、薬剤
  • 心不全・僧帽弁疾患
  • 肺動静脈奇形、仮性動脈瘤
  • 抗凝固薬、凝固障害
  • 気管支鏡、生検、カテーテルなど医原性

レッドフラッグ

  • 喀出不能、嗄声・喘鳴、呼吸音左右差
  • SpO2低下、頻呼吸、意識変容
  • 血圧低下、冷汗、乳酸上昇
  • 短時間に反復・増量する出血
  • 胸痛、失神、肺塞栓リスク
  • 発熱、空洞影、結核曝露
  • 血尿、紫斑、腎障害など血管炎を示す所見
  • 癌既往、体重減少、長い喫煙歴
  • 抗凝固薬使用、血小板減少、凝固異常

検査と画像

初期検査は、血算、血小板、PT-INR/APTT、フィブリノゲン、腎肝機能、血液型・交差適合を基本に、血液ガス・乳酸、炎症、感染症、自己免疫、妊娠反応などを追加します。

胸部X線は迅速ですが、出血源や原因を見逃します。状態が安定していれば造影CT/CTAが、肺実質・気道・気管支動脈と肺動脈系の評価、BAE計画に有用です。

気管支鏡は、気道確保、左右の局在、血塊除去、気管支内処置に役立ちます。生命を脅かす出血で気道管理が先行する場合は、CTより先に気管支鏡を選ぶことがあります。

治療と専門チームへの接続

気道を守る

出血側を下にし、大口径の吸引を準備します。気道確保が必要なら、太い内径の気管チューブが気管支鏡と吸引に有利です。片肺挿管や気管支ブロッカーは経験者が行います。

凝固異常を是正する

抗凝固薬・抗血小板薬を確認し、生命を脅かす出血では薬剤ごとの拮抗を検討します。血栓リスクもあるため、軽症で機械的に中止・拮抗せず専門科と判断します。

止血へつなぐ

BAEは生命を脅かす、または反復する喀血で、責任血管が同定される場合の中心的治療です。再出血があり得るため、結核、気管支拡張症、腫瘍、真菌症など原因疾患の治療も続けます。肺動脈由来や破壊性病変、BAE不能・不成功では外科的治療が必要なことがあります。

よくある落とし穴

  • 洗面器の目測量だけで重症度を決める
  • 仰臥位のままにし、健側肺へ血液を流入させる
  • 止血薬を投与して専門チームへの連絡を遅らせる
  • 単純CTだけで責任血管の評価を終える
  • 出血が止まったため悪性腫瘍・結核・血管炎の精査を中止する
  • 抗凝固薬の中止・再開計画を記録しない

よくある質問

Q. 何mLから大量喀血ですか?

単一の閾値では決めません。少量でも急速で喀出不能、低酸素、片肺、肺予備能低下があれば生命を脅かします。

Q. CTと気管支鏡はどちらを先にしますか?

安定していればCTAが原因・血管評価に有用です。気道が危険なら、気管支鏡を含む気道確保を先にします。

Q. 出血が止まれば帰宅できますか?

原因、再出血リスク、呼吸予備能、薬剤、画像所見で判断します。反復、原因不明、悪性・感染・血管病変が疑われる場合は入院または迅速な専門評価が必要です。

適用範囲

成人の非外傷性喀血の救急・病棟初期対応を対象とします。小児、外傷、気管切開後、術後、ECMO中などは個別の専門的経路を優先してください。

まとめ

  • 喀血の主な死亡機序は窒息であり、量より気道・酸素化を重視する
  • 出血側がわかれば患側を下にし、健側肺を守る
  • 安定例はCTA、不安定例は気道確保・気管支鏡を優先する
  • 生命を脅かす・反復する喀血は呼吸器とIVRへ早期相談しBAEへつなぐ