結論:処方前に「目的・経路・再栄養リスク」を決める
消化管が機能し、経口摂取だけでは必要量を安全に満たせないなら、経腸栄養を優先して検討します。ただし、チューブを入れて栄養剤を流すこと自体が目的ではありません。治療目標、本人の意思、嚥下予後、消化管機能、リフィーディング症候群のリスクを先に評価します。
開始前チェックリスト
- 栄養療法の目的と期待できる利益を確認する
- 本人の意思、事前指示、家族との共有、治療全体の目標を確認する
- 腸閉塞、消化管穿孔、制御不能なショックなど、経腸栄養が不適切な状況を除外する
- 身長、現在体重、通常体重、体重減少率、摂取量低下の期間を記録する
- Na、K、Mg、P、血糖、腎・肝機能、体液量を確認する
- 投与経路とチューブ先端位置を確認する
- エネルギー、蛋白、水分、電解質の目標と増量計画を栄養士・薬剤師・看護師と共有する
リフィーディング高リスクを見抜く
NICEは、BMI 16未満、3〜6か月で15%を超える意図しない体重減少、10日を超えるほぼ無摂取、開始前のK・P・Mg低値のいずれかがあれば高リスクとしています。BMI 18.5未満、体重減少10%超、5日を超えるほぼ無摂取、アルコール多飲や一部薬剤歴のうち複数がある場合も高リスクです。
高リスクでは、栄養開始前から専門チームへ相談し、チアミン、電解質、循環血漿量を整えます。NICEでは最大10 kcal/kg/日程度から開始し、4〜7日で徐々に目標へ近づける方法を示しています。極端な低栄養ではさらに慎重な開始と心電図監視が必要です。
開始後の低P血症だけを待つのではなく、呼吸不全、心不全、不整脈、浮腫、意識変化も監視します。
必要量は「仮の初期処方」として置く
重症でなく、再栄養リスクが低い成人では、NICEは総摂取量の目安として次を示しています。
- エネルギー:25〜35 kcal/kg/日
- 蛋白:0.8〜1.5 g/kg/日
- 水分:30〜35 mL/kg/日
これは固定処方ではありません。肥満、腎・肝不全、心不全、発熱、熱傷、人工呼吸、透析、ドレーン排液などで変わります。静脈輸液、薬剤に含まれる水分・電解質・糖質も総量へ加えます。
栄養剤は商品名より病態で選ぶ
消化吸収機能が保たれていれば、一般的なポリマー型栄養剤を起点に考えます。吸収不良、短腸、膵外分泌不全などでは、消化態・成分栄養剤を含む調整を専門チームと検討します。
確認する要素は次のとおりです。
- 必要エネルギーと蛋白量
- 水分制限または追加水分の必要性
- 脂質、食物繊維、乳糖、電解質の組成
- 腎・肝機能、糖代謝、下痢・便秘
- 投与経路が胃内か幽門後か
投与開始とモニタリング
再栄養リスクが低くても、重症患者では過剰投与を避けて段階的に増量します。毎日、次を評価します。
- 実投与量と中断時間
- 腹部膨満、嘔気・嘔吐、便回数・性状
- 誤嚥徴候、呼吸状態
- 体重、入出量、浮腫
- 血糖、Na、K、Mg、P、腎機能
- チューブ固定、閉塞、皮膚・粘膜障害
鼻胃管は、初回位置確認後も施設手順に従い、投与前に位置を確認します。呼吸器への誤挿入を疑う状況で栄養を開始してはいけません。
下痢が出ても、まず栄養剤だけを犯人にしない
経管栄養中の下痢では、次の順に確認します。
- 下剤、Mg製剤、抗菌薬、糖アルコールを含む薬剤
- C. difficileを含む感染性腸炎のリスク
- 便塞栓に伴う溢流性下痢
- 投与速度、1回量、温度、汚染、調製方法
- 吸収不良、膵機能、胆汁酸性下痢、基礎疾患
- 栄養剤の浸透圧、脂質、食物繊維
原因を評価しながら、投与速度を下げる、持続投与へ変更する、必要に応じて製剤を調整します。下痢だけを理由に栄養を長期間中止すると、低栄養を悪化させます。
レッドフラッグ
- 新規の呼吸不全、誤嚥疑い
- 強い腹痛、腹膜刺激徴候、著明な腹部膨満
- 嘔吐の反復、消化管出血
- 急速なP・K・Mg低下、不整脈、心不全、意識変化
- チューブ位置が確認できない
- 高血糖、脱水、体液過剰が制御できない
よくある落とし穴
- 25〜30 kcal/kgを初日から全量投与する
- Pだけを測り、K・Mg・チアミン・体液量を見ない
- 商品名で栄養剤を選び、蛋白・水分・電解質を計算しない
- 下痢が出るたびに製剤だけを変更する
- 経管栄養の継続が治療目標に合うか再評価しない
FAQ
「腸が使えるなら腸を使う」は絶対ですか?
原則ですが、消化管の安全性、循環動態、誤嚥リスク、治療目標が優先です。経腸と静脈栄養を組み合わせる場合もあります。
胃残量だけで中止しますか?
単一の数値だけで決めません。嘔吐、膨満、誤嚥、全身状態、薬剤、便通と合わせ、施設プロトコルで判断します。
適用範囲
成人入院患者の一般的な経管栄養開始を想定しています。小児、妊娠、重症熱傷、短腸、集中治療、在宅経管栄養では専門ガイドラインと多職種評価を優先してください。