ABCD評価のA(Airway、気道)では、空気が通るか、その状態を維持できるか、分泌物や嘔吐物から気道を守れるかを確認します。呼びかけて声を聞き、口や鼻の空気の流れと胸・腹の動きを見ます。
新しい嗄声や頸部の吸気性喘鳴、声も有効な咳も出せない状態に気づいたら、気道の悪化を疑い、その場で応援を要請して介入します。
成人の病棟急変に対応する研修医を対象に、電話を受けてから初期介入を再評価するまでをたどります。実際の処置は、患者の状態に応じて院内手順と指導医・気道管理チームの判断に従います。
症例「食後からサチュレーションが下がっています」
架空の症例です。脳梗塞後で嚥下機能が低下している78歳の患者さんについて、夕食後に看護師から「むせた後、室内気でSpO₂が84%です。呼ぶと目は開きますが、返事が聞き取れません」と連絡がありました。
電話口では、いつから悪くなったか、普段のSpO₂と酸素投与の有無、今の呼吸・反応・咳の様子を聞きます。
直ちに病室へ向かい、患者さんのそばにスタッフがつけるようにします。食事を中断してもらい、可能な範囲で酸素投与、SpO₂モニターの装着、呼吸数・脈拍・血圧の測定、吸引器と救急カートの準備を依頼します。
声や咳が出ず急速に悪化していると聞いたら、到着を待たずに院内の緊急コールを起動します。
みんほす!本の1pagerで、流れを確認
図の時刻や酸素投与の数値は、病棟で動く順序をつかむための目安です。
気道閉塞が疑わしいときは直ちに応援を呼んで介入し、酸素の目標と投与方法は患者の状態や院内手順に合わせます。
最初に、声と空気の流れを確かめる
「○○さん、聞こえますか?」と短く声をかけます。普段どおりに返事ができれば、その時点で空気は通っています。声が出ていても、新たな声のかすれや吸気性喘鳴があれば狭窄が進む可能性があります。
反応が乏しいときは、発声の有無に加えて口や鼻の空気の流れ、呼吸音、胸・腹の動きを確認します。
| 見つけた所見 | その場で考えること |
|---|---|
| 頸部で強く聞こえる吸気時の高い音(stridor)、新しい嗄声、唾液を飲み込めない | 上気道の狭窄。喉頭浮腫や炎症などを考え、直ちに気道管理に慣れた医師を呼ぶ |
| 意識が低下していびき様の音がする | 舌根沈下などを疑い、頭頸部の状況を確認して用手的気道確保を行う |
| 口元に分泌物や嘔吐物があり、ごろごろした音がする | 分泌物による気道障害や誤嚥を疑い、気道を確保しながら見える範囲を吸引する |
| 努力しても口や鼻で空気の流れを感じず、声や有効な咳も出ない | 重度の閉塞を疑う。完全閉塞では呼吸音が聞こえないことがある |
反応がなく、正常な呼吸がないとき
反応がなく、正常な呼吸がない場合は、院内の心停止コールを起動し、救急カートとAEDを要請します。
医療者は呼吸と頸動脈の拍動を10秒以内に確認し、脈拍が確実に触れなければ直ちに胸骨圧迫を始めます。 脈拍が確実にあって呼吸が不十分なら、気道を開いてバッグバルブマスク(BVM)で換気を補助します。
気道を確保しながら、原因に応じて介入する
気道の通りが悪ければ、上級医と迅速対応チーム(RRT)などへの連絡を依頼します。 同時に酸素投与とモニター装着を進め、吸引器とBVMを手元に準備します。
気道の介入に人手が必要なときは、呼吸数や脈拍・血圧の確認をほかのスタッフに任せると、呼吸と循環の悪化も追えます。
意識低下や分泌物がある場合
頭頸部外傷が疑われない患者で意識が低下し、舌根沈下が疑わしいときは、頭部後屈・あご先挙上で空気の通りが改善するかを確認します。
頸椎損傷が疑わしい場合は、訓練を受けた医療者が頸部を保護し、まず下顎挙上を行います。気道が開かず換気できないときは、酸素化と換気を優先し、チームで気道確保を進めます。
口腔内の分泌物や嘔吐物は、見える範囲で吸引します。
用手的気道確保だけで開通を維持しにくければ、訓練を受けた医療者がエアウェイを選択します。咽頭反射が残る場合の経口エアウェイや、頭蓋底骨折が疑わしい場合の経鼻エアウェイは避けます。
食物などの異物で窒息が疑われる場合
意識があり強い咳ができる間は、咳を促しながらそばで悪化を見守ります。
声が出ない、有効な咳ができないなど重度の閉塞があれば、院内の緊急コールと並行して、背部叩打法から院内の異物除去手順を始めます。腹部突き上げ法が適さない患者では院内手順に沿って胸部突き上げ法を選択します。
重度の窒息で反応を失った場合は胸骨圧迫から心肺蘇生を開始します。 口腔内に異物が見え、容易に取れる場合に除去します。指で見えない異物を探ると、奥に押し込むことがあります。
喉頭浮腫や急速に進む狭窄が疑われる場合
新しい嗄声や吸気性喘鳴があり、薬剤投与などの直後に舌・口唇の腫れや血圧低下が出ていれば、アナフィラキシーを考えます。皮膚所見を伴わないこともあります。
投与中の原因薬剤を中止し、応援要請と並行して院内手順に沿ってアドレナリン筋注を急ぎます。
発熱、強い咽頭痛、流涎があれば、急性喉頭蓋炎なども候補です。患者が呼吸しやすい姿勢を保ち、無理な咽頭診察や器具挿入を避けます。検査室への移動に先立ち、麻酔科・耳鼻咽喉科などと気道確保の場所と方法を決めます。
介入の直後にAから見直す
症例では、患者さんはうなずけますが、短い声しか出ず、口元でごろごろした音が聞こえました。口腔内の分泌物を吸引すると空気の流れが増え、返事が聞き取れるようになりました。
ここで口元の音や発声が改善したかを確かめ、呼吸数、胸郭の動き、酸素投与下のSpO₂、脈拍、血圧、意識を続けて確認します。気道が通ってもSpO₂低下や努力呼吸が残れば、B(呼吸)の評価と対応に進みます。
有効な換気ができていないとき
自発呼吸が止まっている、または浅く有効な換気ができていない場合は、気道を開いてBVMで換気を補助します。二人で対応できれば、一人が両手で気道確保とマスクの密着を保ち、もう一人がバッグを押して胸が上がるかを確認します。
胸が上がらなければ気道の開き方、マスクの漏れ、分泌物や異物をすぐに見直します。
気道を開いた状態が保てない、分泌物がすぐにたまる、換気しても胸が上がらない場合は、処置を続けながら気道管理チームに状況を伝え、気管挿管など次の手段を相談します。
応援チームに経過を伝える
応援が到着したら、発症のきっかけ、最も悪かった時の所見、介入前後の変化、今必要な支援を短く共有します。
「夕食直後にむせて、室内気でSpO₂が84%になりました。口元に分泌物があり、吸引後は返事が聞き取れます。まだ酸素投与が必要です。呼吸と循環を再評価しながら、分泌物が再びたまらないか一緒に見てください」
ABCDの順番と全体像は、ABCD評価の使い方|研修医向け・重症患者の初期対応フローで確認できます。
みんほす!本で病棟急変の対応を学ぶ

『みんなで楽しくホスピタリストになろう! エビデンスと実臨床の架け橋』では、「サチュレーションが下がってます!って呼ばれたら」の章で、電話での指示から気道の評価・対応、原因を絞る診察までを解説しています。当直前や症例を振り返るときに、図とあわせて読んでみてください。
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