ABCD評価のB(Breathing、呼吸)では、酸素化と換気を別々に評価します。 SpO₂と酸素投与量で酸素化を確認し、呼吸数・深さ・胸郭の動き・意識から換気が保たれているかを見ます。

酸素を投与してSpO₂が上がったあとも、呼吸が浅くなったり、眠気が強くなったりしていれば、換気の補助が必要なことがあります。

電話を受けたら、SpO₂と一緒に聞くこと

架空の症例です。「術後の患者さんです。普段は室内気でSpO₂ 97%でしたが、今は87%です」。こう連絡が来たら、病室に向かいながら次の情報を確認します。

  • いつから、どの条件で下がったか。 直前の値、現在の酸素デバイスと流量、酸素を始めた後の変化を聞きます。
  • 会話と呼吸はどうか。 呼びかけへの反応、文章で話せるか、呼吸数、呼吸が浅い・苦しそうといった変化を聞きます。
  • 循環は保たれているか。 脈拍、血圧、冷汗などを確認してもらいます。

看護師には患者さんのそばで呼吸と意識を観察し、院内手順に沿って酸素投与とモニター、バイタル測定を進めてもらいます。

強い努力呼吸、意識の悪化、酸素投与量の急増があれば、到着を待たず上級医や迅速対応チーム(RRT)へ連絡します。 反応がなく、正常な呼吸がない場合は院内救急コールを要請し、蘇生手順へ進みます。

ベッドサイドでA・B・Cを確認する

着いたら患者さんに声をかけ、発声、口元の空気の流れ、胸郭の動き、脈を素早く確認します。吸気時に頸部で強い音がする、声がかすれる、気道を保てないといった所見があれば、応援を呼び、A(気道)の評価と対応を優先します。血圧低下や冷汗、末梢冷感があれば、C(循環)の評価と対応も並行します。

呼吸数と胸郭の動きを見る

Bでは呼吸数を実測し、呼吸の深さ・リズムと、胸郭が左右同じように広がるかを見ます。 短い言葉でしか話せない、肩を使って呼吸する、胸郭と腹部の動きがちぐはぐといった所見は呼吸負荷の手がかりです。

呼吸が速かった患者さんで、胸の動きが弱くなり反応も鈍くなったときは、呼吸筋の疲労や換気不全を疑います。左右の肺音を聴き、急に片側の音が弱くなって血圧も下がるなら、緊張性気胸を考えてすぐに上級医・RRTと対応します。

SpO₂の表示と酸素投与を確かめる

SpO₂の表示が不安定なら、波形、プローブの位置、体動や末梢冷感を確認し、表示される脈拍を実際の脈や心電図と照合します。酸素投与中なら、酸素源、流量計、チューブの外れや屈曲、マスクの装着も確認します。患者さんに呼吸困難や意識変化があれば、測り直しと初期介入を並行します。

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SpO₂低下の連絡から、酸素投与とモニター、気道・換気・循環の評価、原因検索へ進むフローチャート。別タブで拡大

図のSpO₂ 90%や各段階の時間は、病棟での行動を組み立てるための目安です。

患者ごとの目標SpO₂や院内の起動基準を確認し、重症所見があれば図の時間を待たずに介入と応援要請を行います。

酸素化と換気を支える

酸素投与と目標SpO₂

酸素化が低下していて自発呼吸が保たれていれば、重症度と必要な酸素濃度に応じて、鼻カニューレやマスクなどを選びます。

高度の低酸素や切迫した状態では、高濃度酸素で初期対応しながら応援を呼びます。その後は患者ごとの目標域に向けて、SpO₂、必要な酸素量、呼吸の様子を見ながら調整します。

CO₂貯留の既往などから高二酸化炭素血症のリスクがある成人では、切迫した状態への初期対応を優先したうえで、血液ガスが得られるまでSpO₂ 88〜92%を暫定目標とする場合があります。図の88〜92%は、こうした背景を考慮する場面での目安です。普段の指示や動脈血ガスに沿って見直します。

動脈血ガスで換気を評価する

換気が足りないとCO₂がたまります。酸素投与下ではSpO₂が保たれていても、CO₂貯留が進むことがあります。浅く弱い呼吸、新しい眠気、努力呼吸の増悪があれば、動脈血ガスでPaCO₂とpHを確認します。

PaCO₂が高くpHが低ければ、呼吸性アシドーシスを考え、過去の血液ガスや重炭酸イオン(HCO₃⁻)も参考にして急性の悪化を見極めます。採血時の酸素デバイスと流量を記録し、酸素化の指標であるPaO₂もその条件と一緒に解釈します。

呼吸が不十分なときの換気補助

脈が確実にあり、呼吸が止まったり、深さや回数が明らかに不十分になったりした場合は、血液ガスを待たず、応援を呼んでバッグバルブマスク(BVM)で換気を補助します。

訓練を受けたチームで気道を開き、マスクの密着を保ち、胸が軽く上がることを毎回確認します。可能ならマスクを両手で保持する人とバッグを押す人で分担し、過換気を避けます。

反応がなく正常な呼吸もなく、脈を10秒以内に確実に確認できなければ、胸骨圧迫を開始し、院内の蘇生手順に従います。

上級医と検討する呼吸管理

酸素化が改善しないときは高流量鼻カニューレ(HFNC)など、COPD急性増悪に伴う呼吸性アシドーシスなどでは非侵襲的陽圧換気(NPPV)を、上級医と適応・監視体制を確認して検討します。

気道が保てない、呼吸疲労や意識障害が進む、補助しても改善しない場合は、気管挿管や集中治療が可能なチームを早期に呼びます。

初期対応と並行して原因を絞る

発症のきっかけと身体所見

患者さんとの会話は短くし、直前に何があったかを看護師や記録から集めます。食事中にむせたなら誤嚥、痰が多く咳で出せないなら痰詰まりを考えます。新しい薬剤を投与した直後の呼吸困難ならアナフィラキシー、中心静脈カテーテル留置後に突然の呼吸困難と左右差があれば気胸を疑います。

発熱や痰の変化は肺炎、輸液後の起坐呼吸や湿性ラ音は肺水腫、術後・長期臥床で急に息苦しくなった場合は肺血栓塞栓症を考えるきっかけです。所見を一つずつ発症の経過と結びつけます。

ベッドサイドの検査と移動の判断

動脈血ガスで呼吸不全の程度を見ながら、胸部X線や心電図、可能ならベッドサイドエコーを選びます。

CT室への移動前には、酸素化・換気・循環を移動中も維持できるかを確認し、酸素需要が高いときや状態が不安定なときは上級医・RRTと診療場所や搬送体制を決めます。

対応後の再評価と報告

冒頭の術後患者さんが、酸素投与でSpO₂ 95%になったあとに、呼吸数8回/分で浅い呼吸になり、呼びかけてもすぐ眠るとします。手術や鎮痛・鎮静薬の経過を確認しつつ、気道を保ち、換気補助が必要かその場で判断して、上級医やRRTへ応援を要請します。

「術後の患者さんで、室内気のSpO₂が87%まで下がりました。鼻カニューレ3 L/分で95%ですが、呼吸数は8回/分で胸の上がりが小さく、呼びかけてもすぐ眠ります。気道を確認しています。換気補助が必要か一緒に評価してください」

酸素投与や換気補助の後は、呼吸数・胸郭の動き・努力呼吸・意識・血圧を見直します。 SpO₂が同じでも酸素流量が増えているなら、その変化も引き継ぎます。

ABCDの順番と全体像は、ABCD評価の使い方|研修医向け・重症患者の初期対応フローで確認できます。

みんほす!本で病棟急変の対応を学ぶ

『みんなで楽しくホスピタリストになろう! エビデンスと実臨床の架け橋』の表紙

『みんなで楽しくホスピタリストになろう! エビデンスと実臨床の架け橋』では、「サチュレーションが下がってます!って呼ばれたら」の章で、初期対応に続いて、問診・身体所見・検査から呼吸不全の原因を絞る流れを解説しています。当直前や症例を振り返るときに、図とあわせて読んでみてください。

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