ABCDアプローチの全体像から、気道・呼吸への具体的な介入、バッグバルブマスク換気、意識レベル評価までを、第2回から第6回の説明順にまとめています。

第2回:ABCDアプローチの全体像と初期評価

ABCDアプローチとは

ABCDアプローチは、「まず、生命を脅かすものから治療する」という原則に基づく考え方です。

  • A:Airway(気道)
  • B:Breathing(呼吸)
  • C:Circulation(循環)
  • D:Dysfunction of CNS(Central Nervous System、意識障害)

この順番は、命に直結するものから評価するという意味があります。異常があれば、その場で介入しながら進みます。

もともとは1970〜80年代、外傷初期診療の教育コースで生まれました。現在では外傷に限らず、重症患者を診るときの救急の共通言語として使われています。

第一印象で行う初期ABCD評価

患者さんと出会ってから移動中などの短時間、10秒以内に行う初期ABCD評価と、初療室に入ってから行う二次ABCD評価の二段階で考えます。

A:Airway(気道)

気道が開通しているかどうかは、発声の有無、つまり声が出るかどうかで判断します。すでに会話していれば、その時点で気道は開通していると判断できます。

会話がなければ、「わかりますか」「大丈夫ですか」と声をかけます。返答があれば、気道は保たれていると判断できます。

一方、返答がない、うめき声しか出ない、吸気時にストライダーが聞こえる場合は、この時点でAの異常と判断します。

B:Breathing(呼吸)

Aを見ながら、同時にBも評価します。この段階では、数値よりも見た目を確認します。

  • 胸郭の動きと左右差
  • 呼吸のパターン
  • 呼吸の深さと速さ
  • 苦しそうな印象がないか

呼吸が速いかわかりにくい場合は、患者さんの呼吸に自分も合わせ、それでしんどければ呼吸が速いと判断する方法があります。

C:Circulation(循環)

短時間でできる評価として、橈骨動脈が触れるか、皮膚が冷たくないか、湿っていないかを確認します。明らかに橈骨動脈が触れていれば、収縮期血圧はある程度保たれていると推測できます。

D:Dysfunction of CNS(意識障害)

Aで声をかけた流れで、名前、場所、日付を聞き、見当識を大まかに評価します。

さらに、橈骨動脈を触った流れで「手をグーパーしてみてください」と指示し、従うことができるかを評価します。

「手を握ってください」だけでは、把握反射により指示に従わなくても反射的に握ることがあります。「手を握ってください」と伝える場合も、最後に「手を開いてください」まで確認し、指示動作が入るかを判断します。

初期ABCD評価は、患者さんと出会ってすぐに始まります。最終的には、これらを同時に行い、10秒以内に体系的に状態を把握します。

初療室で行う二次ABCD評価

初療室では、モニター装着、バイタルサイン測定から必要に応じた介入まで、評価の幅を広げます。異常があればその場で介入します。

A:気道の詳細評価

会話ができるかに加えて、気道狭窄のサインを拾い上げます。

  • 声が枯れていないか、嗄声がないか
  • シーソー呼吸や陥没呼吸がないか
  • 聴診でストライダーがないか

異常があれば、頭部後屈・顎先挙上などの用手的気道確保、経口・経鼻エアウェイを検討します。侵襲的な手段として気管挿管や気管切開も考慮されます。気道確保にはそれぞれ適応と禁忌があるため、確認が必要です。

口腔内が喀痰や出血であふれている場合や誤嚥が疑われる場合は気管内吸引、アナフィラキシーが疑われる場合はアドレナリン筋注が必要です。

B:呼吸の詳細評価

重要なバイタルサインは呼吸数とSpO₂です。特に呼吸数は、バイタルサインの中で病態の悪化を早く反映する指標です。

心拍数や血圧は、内服薬、慢性疾患、代償機構の影響で異常が目立ちにくいことがあります。呼吸数は低酸素、高二酸化炭素血症、代謝性アシドーシスなど全身の破綻を早期に反映しやすく、相対的にマスクされにくいため、確実に評価します。

SpO₂が低下している場合は酸素投与を行います。低流量酸素療法には鼻カヌラ、フェイスマスク、リザーバーマスク、高流量酸素療法にはネーザルハイフローやNPPVがあります。

呼吸が遅い場合や、動脈血ガスでCO₂貯留とpH低下を認めた場合は低換気を考えます。用手的気道確保のほか、NPPVやバッグバルブマスクによる換気補助を検討します。

胸郭の動きと左右差、聴診で呼吸音の左右差と副雑音も評価します。片側の呼吸音低下や消失があれば、気胸や胸水を考えます。特に緊張性気胸が疑われる場合は、レントゲンを待たず緊急ドレナージが必要です。

C:循環の詳細評価

血圧低下はショックの後半に現れます。血圧だけで判断せず、身体所見、血圧を含むバイタルサイン、血液検査所見、尿量などから総合的かつ迅速に判断します。

身体所見では、末梢冷感、網状皮斑、毛細血管再充満時間(CRT)の延長を確認します。CRTは爪を3〜5秒間、白くなるまで圧迫し、解除後に赤みを帯びるまでの時間を見ます。2秒以上であればショックの可能性を考えます。

血圧低下のほか、頻脈か徐脈かも確認します。ショック状態と判断した場合は点滴ルートを確保し、輸液の全開投与を考えます。それでも、または原因疾患へ介入しても血圧維持が難しい場合は、循環作動薬の使用を考えます。

D:意識と神経所見

意識レベルはGCS(Glasgow Coma Scale)やJCS(Japan Coma Scale)で評価します。

神経所見として、瞳孔径、対光反射、四肢麻痺の有無を確認します。重要なのは変化があるかどうかです。

特に、瞳孔不同、対光反射の消失、GCSの急激な低下は「切迫するD」で、脳ヘルニアを示唆する見逃してはいけない所見です。

意識障害を認めた場合は、低血糖を除外するため簡易血糖測定を行います。

まとめ

ABCDは、患者さんの命を守るための優先順位です。評価と介入は、患者さんが見えた時点から始められます。焦ったとき、迷ったときほど、ABCDに立ち返ります。

E:Exposure(全身観察)と体温

全身を一段見て、外傷、皮疹、浮腫、脱水所見がないかを確認します。

体温も重要なバイタルサインです。低体温、高体温のいずれの場合も対応を検討します。

第3回:気道・酸素・換気の基本

A:Airway(気道確保)

Aで最も重要なのは、気道が保たれているかどうかです。まず、用手的気道確保の方法を確認します。

頭部後屈顎先挙上法

頭と顎先に手を当て、顎先を持ち上げることで気道を確保します。

頸髄損傷が強く疑われる場合は、頸部を動かすと状態を悪化させるリスクがあるため避けるべきとされています。

下顎挙上法(Jaw Thrust)

左右の下顎を把持し、前方に押し出しながら引き上げます。熟練は必要ですが、頸髄損傷が疑われる場合でも使用できることが特徴です。

それでも気道確保が難しい場合は、状況を見ながら軽度の頭部後屈を追加せざるを得ないこともあります。

エアウェイ

エアウェイは、主に意識障害が原因で舌根沈下しているときに気道を確保する方法です。

経鼻・経口エアウェイは、いつでも使用すべきものではありません。喉頭蓋炎などの耳鼻科疾患で気道が狭窄している場合、機械的な刺激で窒息するリスクがあるため、症例を適切に選択します。

経鼻エアウェイ

サイズは、鼻先から耳たぶ(耳珠)にエアウェイを合わせて選びます。

  1. 潤滑剤をエアウェイに塗布する
  2. 先端の斜めの切断面を鼻中隔側に合わせ、鼻孔へ挿入する
  3. 安全ピンを鼻の外側につけ、奥へ入りすぎないようにする

通常は右から挿入することが多いとされています。

頭蓋底骨折がある場合は、頭蓋内に迷入するリスクがあるため使用できません。

経口エアウェイ

サイズは、下顎角から口角に合わせて選びます。

  1. 経口エアウェイを180度反転させた状態で口腔へ挿入する
  2. 舌を奥へ押し込まないようにする
  3. 軟口蓋まで挿入できたら、正しい向きに回転させる

高度の意識障害がある場合に使用します。意識がある状態で使用すると、嘔吐反射を誘発する可能性があります。

B:Breathing(呼吸)

Bの異常には低酸素と低換気があります。

低酸素血症への酸素療法

低酸素血症がある場合は、原因にかかわらず速やかに酸素療法を開始します。

慢性II型呼吸不全がない場合、SpO₂ 90〜95%程度が一般的な目標です。慢性II型呼吸不全がある場合はCO₂ナルコーシスの懸念があるため、SpO₂ 88〜92%程度と低めに設定します。

病態が判然としない場合は、II型呼吸不全も考慮し、SpO₂ 90%台前半を目標に設定します。

低流量酸素療法

  • 鼻カヌラ:1〜5L/分
  • フェイスマスク:5〜10L/分
  • リザーバーマスク:8〜12L/分

鼻カヌラは、5L/分を超えると鼻腔の乾燥による疼痛などの不快感をきたすことがあります。

フェイスマスクは、5L/分未満の低流量で使用すると、呼気ガス(CO₂)の再吸入リスクがあります。

吸入酸素濃度の目安は次のとおりです。

  • 鼻カヌラ:FiO₂(%)=20+酸素流量×4。0.5L/分では22%
  • 酸素マスク:5〜6L/分で40%、6〜7L/分で50%、7〜8L/分で60%
  • リザーバー付きマスク:酸素流量×10%程度

病棟から「SpO₂ 90%未満」と連絡があった場合、2〜3L/分の鼻カニューレで開始し、適宜増減する方法があります。

高流量酸素療法

高流量酸素療法の適応として、次の2点が挙げられます。

  • 病態的に高流量酸素療法を選択したほうが予後を改善する可能性がある場合
  • 低流量酸素療法で酸素化を維持できない場合

フェイスマスクで酸素化を維持できない場合に高流量酸素療法を用いることがありますが、早めに人工呼吸管理へ移行したほうがよい場合もあります。上級医や指導医へ相談します。

NPPVが有効な病態として、急性心不全による呼吸不全と、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪に伴うII型呼吸不全が挙げられます。

ネーザルハイフローは、低流量酸素療法で酸素化を維持できない場合の選択肢です。酸素流量40〜60L/分、FiO₂ 1.0(100%)で開始し、SpO₂を見ながら調整します。経口摂取や会話をしやすいことが特徴です。

酸素配管だけでなく空気配管も必要なため、病棟で使用する場合は使用可能な部屋を調整します。

低換気への対応

低換気への対応には、バッグバルブマスクやジャクソンリースによる換気補助、意識状態に応じたNPPV、気管挿管、人工呼吸器管理があります。

バッグバルブマスクやジャクソンリースは一時的な方法です。NPPVや人工呼吸器管理は高度な判断となるため、補助換気が必要な場合は速やかに指導医や上級医へ連絡します。

マスクフィット

バッグバルブマスクで重要なのはマスクフィットです。マスクが顔に密着していないと空気が漏れます。

  • 頭部後屈、開口、顎先挙上を十分に行う
  • 小指で下顎を持ち上げ、下顎挙上を保つ
  • 親指と人差し指でマスクを密着させる

多少のリークは酸素流量を上げることで対応できます。右口角から酸素が漏れる場合は、首を傾ける方法もあります。

ECクランプ法

片手法では、母指と人差し指でマスクを押さえ、残った小指・薬指・中指で下顎を挙上します。もう一方の手でバッグを押して換気します。

換気量と換気回数

胸郭が軽く上がる程度、1回500〜600mLが目安です。成人用バッグの容量は1500mLであり、バッグをすべて押すと過剰になるため注意します。

補助換気は1回あたり1〜1.5秒かけ、6秒に1回、1分間に10回程度が目安です。

CO₂貯留が強い場面では、過換気としてCO₂を排出させ、PaCO₂を低下させる工夫ができることがあります。場面に応じて対応します。

二人法

一人で行うECクランプ法が難しい場合、二人法を使うことで換気効果が上がります。一人が両手でマスクを保持し、もう一人がバッグを押します。

両手での保持には、両手ECクランプ法と、両手の母指と母指球でマスクを押さえる両手母指球法があります。

C:動脈触知と血圧の関係

動脈触知から予想する最低収縮期血圧の目安は次のとおりです。

  • 橈骨動脈:80mmHg以上
  • 大腿動脈:70mmHg以上
  • 頸動脈:60mmHg以上

血圧計を使えない場面でも、動脈触知から血圧を予想する目安になります。

第4回:気道確保と酸素療法

A:Airway(気道)の補足

Aで最も重要なのは、気道が保たれているかどうかです。まず、用手的気道確保の方法を確認します。

頭部後屈顎先挙上法

頭と顎先に手を当て、顎先を持ち上げることで気道を確保します。

頸髄損傷が強く疑われる場合は、頸部を動かすと状態を悪化させるリスクがあるため避けるべきとされています。

下顎挙上法(Jaw Thrust)

左右の下顎を把持し、前方に押し出しながら引き上げます。熟練は必要ですが、頸髄損傷が疑われる場合でも使用できます。

それでも気道確保が難しい場合は、状況を見ながら軽度の頭部後屈を追加せざるを得ないこともあります。

エアウェイ

エアウェイは、主に意識障害による舌根沈下があるときに気道を確保する方法です。

喉頭蓋炎などの耳鼻科疾患で気道が狭窄している場合は、機械的刺激で窒息するリスクがあるため、経鼻・経口エアウェイを使用する症例を適切に選択します。

経鼻エアウェイ

サイズは、鼻先から耳たぶ(耳珠)に合わせて選びます。

  1. 潤滑剤をエアウェイに塗布する
  2. 先端の斜めの切断面を鼻中隔側に合わせ、鼻孔へ挿入する
  3. 安全ピンを鼻の外側につけ、奥に入りすぎないようにする

通常は右から挿入することが多いとされています。

頭蓋底骨折がある場合は、頭蓋内に迷入するリスクがあるため使用できません。

経口エアウェイ

サイズは、下顎角から口角に合わせて選びます。

  1. 経口エアウェイを180度反転させたまま口腔へ挿入する
  2. 舌を奥に押し込まないよう注意する
  3. 軟口蓋まで挿入したら、正しい向きに回転させる

高度の意識障害がある場合に使用します。意識がある状態で使用すると、嘔吐反射を誘発する可能性があります。

B:Breathing(呼吸)の補足

Bの異常には、低酸素と低換気があります。ここでは、低酸素血症に対する酸素療法を扱います。

低酸素血症がある場合は、原因にかかわらず速やかに酸素療法を開始します。

慢性II型呼吸不全がない場合、SpO₂ 90〜95%程度が一般的な目標です。慢性II型呼吸不全がある場合は、CO₂ナルコーシスの懸念があるため、SpO₂ 88〜92%程度と低めに設定します。

病態が判然としない場合は、II型呼吸不全も考慮し、SpO₂ 90%台前半を目標に設定します。

低流量酸素療法

  • 鼻カヌラ:1〜5L/分
  • フェイスマスク:5〜10L/分
  • リザーバーマスク:8〜12L/分

鼻カヌラは、5L/分を超えると鼻腔の乾燥による疼痛などの不快感をきたすことがあります。

フェイスマスクは、5L/分未満で使用すると呼気ガス(CO₂)の再吸入リスクがあります。

吸入酸素濃度の目安は次のとおりです。

  • 鼻カヌラ:FiO₂(%)=20+酸素流量×4。0.5L/分では22%
  • 酸素マスク:5〜6L/分で40%、6〜7L/分で50%、7〜8L/分で60%
  • リザーバー付きマスク:酸素流量×10%程度

病棟から「SpO₂ 90%未満」と連絡があった場合、2〜3L/分の鼻カニューレで開始し、適宜増減する方法があります。

高流量酸素療法

高流量酸素療法の適応として、次の2点が挙げられます。

  • 病態的に高流量酸素療法を選択したほうが予後を改善する可能性がある場合
  • 低流量酸素療法で酸素化を維持できない場合

フェイスマスクで酸素化を維持できない場合にも使用することがありますが、早めに人工呼吸管理へ移行したほうがよい場合もあります。上級医や指導医へ相談します。

NPPVが有効な病態として、急性心不全による呼吸不全と、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪に伴うII型呼吸不全が挙げられます。

ネーザルハイフローは、低流量酸素療法で酸素化を維持できない場合の選択肢です。酸素流量40〜60L/分、FiO₂ 1.0(100%)で開始し、SpO₂を見ながら調整します。経口摂取や会話がしやすいことが特徴です。

酸素配管だけでなく空気配管も必要なため、病棟で使用する場合は使用可能な部屋を調整します。

第5回:バッグバルブマスク換気

ABCDアプローチにおけるBの異常には、低酸素と低換気があります。ここでは低換気への対応と、循環評価の補足として動脈触知と血圧の関係を整理します。

低換気への対応

換気の方法には、バッグバルブマスクやジャクソンリースを用いた換気補助、意識状態などに応じたNPPV、気管挿管や人工呼吸器管理などがあります。

バッグバルブマスクやジャクソンリースによる換気は一時的な方法です。NPPVや人工呼吸器管理の選択には高度な判断を要するため、低換気で補助換気が必要な場合は速やかに指導医や上級医へ連絡します。

マスクフィットが最も重要

バッグバルブマスクで難しい点の一つがマスクフィットです。マスクが顔に密着していなければ、空気は簡単に漏れます。

まず頭部後屈、開口、顎先挙上を十分に行い、気道を確保します。小指で下顎を持ち上げて下顎挙上を保ち、親指と人差し指でマスクをしっかり密着させます。

多少のリークであれば、酸素流量を上げることで対応できる場合があります。右口角から酸素が漏れる場合には、首を傾けることも一つの工夫です。

ECクランプ法

一人で行う片手のECクランプ法では、親指と人差し指でマスクを押さえてCの形を作り、マスクを密着させます。残った中指、薬指、小指で下顎を挙上し、Eの形を作ります。もう一方の手でバッグを押して換気します。

換気量と換気回数

1回換気量は胸郭が軽く上がる程度、500〜600mLが目安です。成人用バッグの容量は1,500mLであるため、バッグをすべて押すと過剰換気になることに注意します。

補助換気では、1回の換気に1〜1.5秒かけ、6秒に1回、つまり1分間に10回程度が目安です。CO₂貯留が強い場面では、あえて過換気としてCO₂を排出させ、PaCO₂を低下させる工夫を行う場合もあります。場面に応じて対応します。

二人法による換気補助

一人で行うECクランプ法が難しい場合、二人法を用いることで換気効果が大きく上がります。一人が両手でマスクを保持し、もう一人がバッグを押します。

両手でマスクを保持する方法には、片手のECクランプ法を両手で行う両手ECクランプ法と、両手の親指と母指球でマスクを押さえる両手母指球法があります。

動脈触知と収縮期血圧の目安

動脈を触知できる場合の最低収縮期血圧の目安は、橈骨動脈で80mmHg以上、大腿動脈で70mmHg以上、頸動脈で60mmHg以上です。血圧計を使えない状況でも、動脈触知から血圧を推定する際の目安になります。

第6回:JCSとGCSによる意識評価

ABCDアプローチにおけるD、Dysfunction of Central Nervous Systemでは、麻痺、意識レベル、瞳孔所見を確認します。「ま・い・ど」と覚える方法もあります。ここでは意識レベルの評価、特にJCSとGCSを整理します。

JCSとGCSの成り立ち

JCS(Japan Coma Scale)は1974年、破裂脳動脈瘤による出血患者の意識レベル評価を目的に開発されました。当初は、常に覚醒、刺激で覚醒、刺激でも覚醒しない、という3分類をそれぞれ3つに分けた「3-3-9度方式」でした。その後改訂され、1986年に意識清明を示す0を含めた現在の10段階スケールとなりました。

GCS(Glasgow Coma Scale)も1974年、重症頭部外傷の意識評価を目的に開発されました。検者間誤差が少なく、現在は国際的に広く使われています。

JCSの考え方

JCSでは、患者を覚醒させることができる刺激の強さによって1桁、2桁、3桁が決まります。JCSにおける覚醒は、開眼しているかどうかで判断します。ただし、実際には開眼だけで覚醒を評価できないため、正確な意識評価では論点となります。

1桁:覚醒している

  • JCS 1:今ひとつはっきりしない
  • JCS 2:見当識障害がある
  • JCS 3:名前、生年月日が言えない

評価では、声をかける前に、刺激を加えずに開眼しているかを観察します。先に刺激を加えると、もともと覚醒していたのか、刺激で覚醒したのかを区別できません。

見当識は、時、人、場所の3項目で評価します。「人」は自分の名前を言えるかではなく、他者を正しく認識できるかで評価します。医療スタッフや付き添いの人について、どのような人か、誰かを確認します。

2桁:刺激で覚醒する

  • JCS 10:呼びかけで容易に開眼する
  • JCS 20:大きな声や体を揺さぶる刺激で開眼する
  • JCS 30:痛み刺激で開眼する

3桁:刺激でも覚醒しない

  • JCS 100:痛み刺激を払いのける
  • JCS 200:痛み刺激で顔をしかめる
  • JCS 300:まったく反応しない

JCSでは、大文字の補足表記を括弧内に付けることがあります。自発性低下はA、失禁はI、不穏はRです。大きな声で開眼し、失禁がある場合は「JCS 20(I)」と表記します。

GCSの考え方

GCSは、E(開眼反応)、V(最良言語反応)、M(最良運動反応)の3要素で評価します。合計点は最低3点、最高15点です。合計点だけでなく内容も重要であるため、E、V、Mを併記します。

E:開眼反応

  • E4:自発的に開眼している
  • E3:呼びかけで開眼する
  • E2:痛み刺激で開眼する
  • E1:まったく開眼しない

GCSにおける覚醒は、刺激なしで15秒以上開眼している状態を指します。

V:最良言語反応

GCSのVでは、見当識を時(月日)、人(他人の認識)、場所で評価します。

  • V5:3項目すべてに正答し、見当識がある
  • V4:1項目でも不正解で、混乱した会話がある
  • V3:単語のみの発語で、混乱した言葉がある
  • V2:うめき声など、理解不能な音声がある
  • V1:発語がない

覚え方として、文章から「う」を抜くと4文字でV4、単語はひらがな3文字でV3、声はひらがな2文字でV2と対応させる方法があります。

M:最良運動反応

  • M6:命令に従う
  • M5:痛み刺激部位に手を持ってくる
  • M4:逃避屈曲
  • M3:除皮質硬直(異常屈曲)
  • M2:除脳硬直(異常伸展)
  • M1:まったく動かない

体の動きと数字を結び付けて覚える方法があります。M6は手でOKの形を作ると6に見える、M5は刺激部位の胸に手のひらを置くと手が5を示す、M4はそこから反対側の腰へ手を回すと4の形になる、という覚え方です。M4とM5は、脇が開くかどうかもポイントです。M3は両手の甲を合わせた異常屈曲の姿勢が3、M2は異常伸展した腕が横から2、M1は体が一本の棒になるため1と対応させます。

一般的な痛み刺激の部位には、胸骨部、眼窩上縁部、非麻痺側の爪床があります。一か所だけで判断せず、二か所以上の異なる部位で反応を確認すると評価の信頼性が高まります。左右差がある場合は、最良運動反応として非麻痺側、つまり健側で評価します。

気管挿管や気管切開で発語できない場合は、T(Tube)を付けてV1Tと表記します。

JCSやGCSは数字だけでなく、どのように評価したかを併せて捉えることが大切です。