急性冠症候群の定義から、症状の拾い上げ、心電図、STEMIの初期対応、NSTEMIのリスク層別化までを、第7回から第11回の説明順にまとめています。

第7回:急性冠症候群の概念と心筋梗塞の定義

急性冠症候群は「5キラーチェストペイン」の一つ

急性冠症候群は、見逃すと致死的になり得る「5キラーチェストペイン」の一つです。

  • 急性冠症候群
  • 大動脈解離
  • 肺血栓塞栓症
  • 緊張性気胸
  • 特発性食道破裂

これらは救急外来で必ず鑑別に挙げる必要がある胸痛です。

急性冠症候群とは

急性冠症候群は、不安定プラークの破綻と、それに伴う血栓形成によって冠動脈内腔が急速に狭窄・閉塞し、心筋が虚血、壊死に陥る病態です。

プラークは「血管内のニキビ」に例えられます。ニキビが突然破れるようにプラークが破綻すると、中の脂質が露出し、血液が異物と認識して血栓を形成します。これがアテローム血栓性の心筋梗塞です。

一方、重度の貧血やショックなど、酸素需要と供給のミスマッチで起こる心筋梗塞もあります。

急性冠症候群の分類と診断の流れ

急性冠症候群は、救急外来での暫定診断です。まず心電図を確認します。

ST上昇があればST上昇型急性冠症候群とし、心筋バイオマーカーを確認できればST上昇型心筋梗塞(STEMI)が最終診断となります。

ST上昇がなければ非ST上昇型急性冠症候群として扱います。心筋バイオマーカーに上昇と下降、つまり変動があれば非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)、バイオマーカーが正常であれば不安定狭心症が最終診断となります。

心筋梗塞の定義

心筋梗塞とは、「心筋虚血が示唆される臨床状況において、心筋壊死が証明されたもの」です。

つまり、心筋虚血を疑う状況と、実際に心筋が壊れている証拠の両方がそろって、初めて心筋梗塞と診断されます。

心筋壊死の証明と高感度トロポニン

心筋壊死の証明には、現在、高感度トロポニンの測定が推奨されています。以前はCKやCK-MBが使われていましたが、測定できる環境では高感度トロポニンが基本です。

ただし、CKをまったく測定しないわけではありません。CKは梗塞サイズの評価、再梗塞の確認、リハビリ開始の目安など、フォローアップで重要な役割があり、初回から測定が必要です。

時間経過には違いがあります。トロポニンは約1日半でピークとなり、2週間程度陽性が持続します。CK-MBは数時間で上昇し、数日で陰性化します。

トロポニン陽性は心筋梗塞とは限らない

トロポニンが陽性でも、ただちに心筋梗塞と判断するわけではありません。

  • 重度の貧血やショックなど、酸素需要と供給のミスマッチで起こる心筋障害
  • 手術、心筋炎、心膜炎、心毒性のある薬剤など、虚血に起因しない心筋障害
  • 心不全、腎不全など、複数の要因で起こる心筋障害

これらでもトロポニンは上昇するため、臨床状況と組み合わせて考えることが重要です。

心筋虚血を捉える三つの評価

心筋虚血が示唆される状況について、救急外来で実施できる評価として整理すると、次の三つです。

  • 問診、身体診察による症状の評価
  • 心電図評価
  • 心エコー評価

疾患を定義から説明し、必要な評価を根拠に沿って進めます。

第8回:胸痛の問診とOPQRST

心筋梗塞とは、「心筋虚血が示唆される臨床状況において、心筋壊死の証明がなされたもの」です。心筋壊死は高感度トロポニンで証明します。ここでは、もう一つの要素である「心筋虚血が示唆される臨床状況」を整理します。

心筋虚血が示唆される五つの状況

心筋虚血が示唆される臨床状況として、次の五つが挙げられ、このうち少なくとも一つを満たすことが条件です。

  • 心筋虚血の症状
  • 新規のST変化、左脚ブロック
  • 異常Q波の出現
  • 新規の生存心筋の喪失、局所壁運動異常を示す画像所見
  • 冠動脈造影、血管内イメージング、剖検による冠動脈内血栓の同定

救急外来ですぐにできることに置き換えると、症状は問診と身体診察、ST変化、脚ブロック、異常Q波は心電図、局所壁運動異常は心エコーで評価します。

胸痛の問診:OPQRST

胸痛を迅速に問診するときには「痛みのOPQRST」が役立ちます。

  • O(Onset):発症様式。心筋梗塞は比較的急性に発症し、徐々に悪化するのが典型です。
  • P(Provocation / Palliation):増悪・寛解因子。労作、頻脈、貧血などで悪化し、硝酸薬が効いても一時的なことが多いとされます。
  • Q(Quality):痛みの性質。押しつぶされる、締め付けられるような感じです。
  • R(Radiation):放散。鼻の下からへその上まで放散する可能性があります。
  • S(Site):部位。胸骨後面を中心とした胸部痛です。
  • T(Time):時間。20分以上続くことが多いとされます。
  • A(Associated symptoms):随伴症状。冷汗、悪心、嘔吐があります。

心筋梗塞らしい症状、らしくない症状

心筋梗塞らしい特徴には、胸痛が最も強い症状であること、放散痛、冷汗、悪心、心筋梗塞の既往があります。

一方、呼吸に合わせて痛む胸膜性の痛み、刺すような鋭い痛み、体位で変化する痛み、触診で圧痛がある場合は、心筋梗塞らしくない特徴です。

ただし、心筋梗塞患者の約3分の1は来院時に胸痛を訴えないとされています。特に高齢者、女性、糖尿病患者では注意が必要であり、胸痛がないという理由だけで否定することはできません。

冠動脈疾患のリスク因子

問診では、症状に加えて冠動脈疾患のリスク因子も確認します。

  • 年齢:男性45歳以上、女性55歳以上
  • 既往歴:糖尿病、高血圧、脂質異常症、慢性腎臓病
  • 家族歴:男性55歳未満、女性65歳未満での発症歴
  • 喫煙歴:喫煙の有無だけでなく、本数と喫煙していた年齢

心電図は到着後10分以内に

救急外来到着後10分以内に心電図を記録します。初回心電図だけでは約45%で診断が困難ともいわれるため、心電図を繰り返し記録し、過去の心電図と比較します。

第9回:STEMIの心電図

STEMIを心電図で評価するときは、ST上昇だけでなく、鏡面像(reciprocal change)を確認し、閉塞部位を予測します。閉塞部位が分かると、危険な合併症や避けるべき初期対応を先に考えられます。

ST上昇の基本ルール

ST上昇は、解剖学的に連続する2誘導以上で1mm以上が基本です。ただし、V2〜V3は生理的に上昇しやすいため例外があります。

  • 40歳未満の男性:2.5mm以上
  • 40歳以上の男性:2.0mm以上
  • 女性:1.5mm以上

ST上昇を認めたら、解剖学的に対側に位置する誘導のST低下を探します。

代表的なST上昇パターン

前壁梗塞

V1〜V4でST上昇を認めた場合は、対側のII、III、aVFでST低下を確認します。前壁梗塞が予想され、閉塞血管は左前下行枝(LAD)です。

下壁梗塞

II、III、aVFでST上昇を認めた場合は、対側のV1〜V4でST低下を確認します。下壁梗塞が予想され、閉塞血管は右冠動脈です。

側壁梗塞

I、aVL、V5〜V6でST上昇を認めた場合は、V1やIIIでST低下を確認します。側壁梗塞が予想され、閉塞血管は左回旋枝(LCX)です。

下壁梗塞では右室梗塞を考える

右室梗塞は下壁梗塞の30〜50%に合併し、下壁梗塞の10〜15%で臨床的に問題となります。

右室梗塞では、右室から左室へ血液を送れず、左室内の血液が減少して低心拍出となります。この状態で心不全を併発した場合に利尿薬や硝酸薬を投与すると、重度の低血圧に陥る危険があります。この場合は輸液と、必要に応じたカテコラミン投与が必要です。

右冠動脈は心臓のペースメーカーの役割を担う部分への血流も供給しており、障害されると重度の房室ブロックを来すおそれがあります。

右室梗塞は、通常のV3〜V6誘導を反対側に左右対称に貼ったV3R〜V6Rの右側胸部誘導でST上昇を認めることが拾い上げるポイントです。

後壁梗塞と背部誘導

後壁梗塞は、通常の誘導ではV1〜V4のST低下としてしか認識できないことがあり、背部誘導V7〜V9でST上昇を確認する必要があります。

原稿では、背部誘導の貼付位置を「V7は左腋窩線から肩甲骨ライン、V8は肩甲骨、V9は傍脊椎」としています。

aVRのST上昇と広範なST低下

aVRのST上昇と広範なST低下を認めた場合は、左主幹部病変または多枝病変の高度狭窄を考えます。重症病態であるため、迷わず循環器内科へ連絡します。

心筋梗塞以外のST変化

ST上昇は心筋梗塞だけでなく、たこつぼ心筋症、心膜炎、心筋炎、早期再分極、低体温、脳血管障害でも見られます。

ST低下は後壁梗塞を中心とした鏡面像として現れるほか、非貫壁性虚血でも見られます。この場合は虚血部位にかかわらず、V4〜V6でST低下を認めるため注意します。

心エコーで短時間に確認すること

心エコーでは、治療方針に影響する所見を短時間で確認します。傍胸骨左室長軸像と短軸像を描出し、見た目の左室駆出率(eye-ball EF)を60%、40%、20%と大まかに評価します。

次に、心電図所見と照らし合わせながら、短軸像を中心に左室局所壁運動異常の有無を確認します。右室梗塞や機械的合併症も各像を使って評価します。ただし、慣れていないと時間がかかるため、深追いしないことも重要です。

ST上昇を見たら鏡面像を確認し、閉塞部位を予測して、リスクを考慮した対応につなげます。

第10回:STEMIの初期対応とMONA

救急外来に突然の胸痛で搬送された50代男性の心電図で、II、III、aVFにST上昇を認め、下壁梗塞を疑ったとします。結果が出ている検査は心電図だけで、採血結果はまだ出ていません。この場面では、採血結果を待たずに循環器へ連絡します。

STEMIでは心電図で診断した時点で連絡する

STEMIの初期対応では、心電図で診断し、採血結果を待たずに循環器へ連絡することが原則です。

対応のキーワードは早期再灌流です。総虚血時間を短くし、FMC(First Medical Contact)から再灌流療法が行われるまでのFMC-to-device timeを90分未満にすることを常に意識します。

循環器へ連絡するタイミングは、STEMIと診断した瞬間です。採血結果やトロポニンを待たず、症状とST上昇があれば、ただちに連絡します。

初期対応とMONA

救急車が到着したら、バイタルサインを確認し、迅速に問診と身体診察を進めながら、10分以内の心電図記録、静脈路確保、採血を実施します。症状とST変化から心筋梗塞を考えて循環器へ連絡した後、到着までに行う対応としてMONAがあります。ここでは、A、N、M、Oの順に確認します。

A:Aspirin

アスピリン162〜200mgを噛み砕いて内服します。バイアスピリン2錠を噛み砕いて内服する方法があります。

禁忌はアスピリンアレルギーや喘息の既往です。この場合は、クロピドグレル、プラスグレル、エフィエントなどのP2Y12阻害薬を考慮しますが、循環器へ事前に相談してから投与を検討します。

N:Nitrates

硝酸薬は症状緩和を目的に使用します。原稿では「降圧作用での予後改善効果は証明されたが、死亡率減少効果は確認されていない」としています。また、診断目的に使用するものではありません。

重症大動脈弁狭窄症、閉塞性肥大型心筋症、右室梗塞、PDE5阻害薬を内服中の場合は禁忌です。問診、身体所見、心エコーで事前に確認します。

M:Morphine

モルヒネには強力な除痛効果があり、心負荷や肺うっ血の軽減も期待されます。一方、血圧低下、呼吸抑制、悪心、嘔吐に注意します。

モルヒネ10mg/1mLを生理食塩水9mLで希釈し、少量ずつ静注する方法があります。

O:Oxygen

過剰な酸素投与では、原稿に「拘束範囲の拡大を引き起こす可能性」が示されたとの記載があります。また、大量に酸素を投与しても予後は変わらないとされています。

酸素は必要な場合に投与し、SpO₂が90%未満、または呼吸困難や心不全症状があることを目安とします。

総虚血時間を延ばさない

トロポニンを待つ、痛みが軽いため様子を見る、夜間であることを理由に循環器への連絡を遅らせると、総虚血時間が延びます。

STEMIは診断した瞬間に循環器へ連絡し、採血結果やトロポニンを待ちません。初動やMONAの運用は施設によって異なるため、自施設の方法も確認します。

第11回:NSTEMIの0/1時間アルゴリズム

検診で6年前から高血圧を指摘されながら医療機関を受診していない60代男性が、数日前からの胸部圧迫感で救急外来を受診したとします。来院時には症状がなく、冠危険因子として高血圧、脂質異常症、喫煙があります。心電図にST上昇がなく、高感度トロポニンにも有意な上昇がなければ、帰宅できるか判断に迷います。

患者背景や症状から急性冠症候群を疑うものの判断が難しい場合に、高感度トロポニンを活用した0/1時間アルゴリズムを使います。ST上昇がないことは、問題がない根拠にはなりません。NSTEMIは一見軽く見えても、STEMIと予後が同等、または悪いともいわれ、症例数も多いとされています。

0/1時間アルゴリズムの全体像

0/1時間アルゴリズムでは、患者を次の三群に分けます。

  • Rule-in
  • Rule-out
  • Observe

メーカーごとに異なるカットオフ値を基準に判断します。カットオフ値は「非常に低い」「低い」「高い」という絶対値に加え、1時間値との差があるかどうかを判断できるよう設定されています。自施設で用いる検査の基準を確認します。

まず、0時間値の高感度トロポニンを測定します。この時点で発症から3時間が経過し、高感度トロポニン(hs-cTn)が非常に低値、たとえば0.005ng/mL未満であれば除外できます。一方、高値であれば、その時点でNSTEMIとして対応します。

0時間値だけで除外も確定もできない場合は、1時間後に再度、高感度トロポニンを測定します。0時間値と1時間値の差、つまりデルタ値がカットオフ値以上であれば、NSTEMIとして対応します。

たとえばカットオフ値を0.005ng/mLとした場合、1時間値が0時間値より0.005ng/mL以上上昇した場合も、0.005ng/mL以上低下した場合も、非ST上昇型急性冠症候群として対応します。0時間値が低値未満で、1時間後との差に有意な変化がなければ除外できます。

Observe群は「精査中」

Observe群の約2割はNSTEMIといわれ、1年後のMACE(Major Adverse Cardiac Event:主要心血管イベント)発生率はRule-in群と同等とされています。そのため、単なる「様子見」ではなく「精査中」と捉えます。

Observe群では、次の評価を組み合わせます。

  • 心エコー
  • TIMI、GRACEなどのリスクスコア
  • 3時間後の心筋トロポニン追加測定

これらは2020年のESCガイドラインでも推奨されています。ただし、実臨床では各施設の体制や合意に基づいて判断します。

TIMIスコア

NSTE-ACSのTIMIスコアは7項目で、各1点、合計0〜7点です。14日以内の総死亡、心筋梗塞、緊急血行再建の発生率を予測します。

  1. 年齢65歳以上
  2. 冠危険因子が3つ以上(高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙、家族歴など)
  3. 既知の冠動脈疾患(狭窄率50%以上)
  4. 直近7日以内のアスピリン使用
  5. 24時間以内の狭心症エピソードが2回以上
  6. 心電図で0.5mm以上のST偏位がある(ST低下など)
  7. 心筋バイオマーカーの上昇

GRACEスコア

GRACEスコアは8項目から点数を計算し、6か月後の死亡リスクと心筋梗塞発症率を推定します。

  1. 年齢
  2. 心拍数
  3. 収縮期血圧
  4. 血清クレアチニン
  5. Killip分類
  6. 来院時の心停止
  7. ST偏位
  8. 心筋バイオマーカー上昇

リスクによるCAG・PCIの時期

臨床状況とリスクスコアから、入院やCAG(Coronary Angiography:冠動脈造影検査)、PCI(Percutaneous Coronary Intervention:経皮的冠動脈インターベンション)の方針を決めます。

次の場合は非常に高いリスクとし、可能な限り早くCAG・PCIを行います。

  • 血行動態不安定または心原性ショック
  • 薬物抵抗性の胸痛の持続または再発
  • 虚血に伴う心不全
  • 機械的合併症
  • 致死性不整脈または心停止
  • 反復性の動的なST変化

アルゴリズムによるNSTEMIの確定診断、GRACEスコアが140点より高い、一過性のST上昇、動的なST変化がある場合は高リスクとし、24時間以内にCAG・PCIを行います。これらの危険因子がなければ、入院中または待機的なCAG・PCIを考慮します。

入院後は抗血小板薬や抗凝固薬を開始し、モニター管理を行います。症状があれば心電図を記録し、明確な決まりはないものの適宜採血で経過を追います。ST上昇、新規左脚ブロック、トロポニンの明らかな上昇があれば、STEMI対応として循環器へただちに連絡します。それらがなければ、翌朝の循環器紹介を検討します。

NSTEMIは高感度トロポニンを用いた0/1時間アルゴリズムで層別化し、Observe群にも注意して、TIMIやGRACEなどのリスクスコアを併用します。