結論:VTEでは「不安定か」「検査前確率は高いか」「血栓はどこか」を先に決める

静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)は、深部静脈血栓症(DVT)と肺血栓塞栓症(PTE/PE)を連続した病態として捉える概念です。

研修医が最初に押さえる判断は、次の3つです。

  1. ショック、低血圧、失神、重い低酸素血症がないか
  2. 検査前確率が高いか、低い〜中程度か
  3. DVTなら中枢型か末梢型か、PTEなら早期死亡リスクが高いか

ここを飛ばしてDダイマーや薬剤を先に選ぶと、過剰検査と治療の遅れが同時に起こります。

本記事は成人のVTEを疑う場面での教育用フレームです。妊娠、活動性がん、重度腎障害、抗リン脂質抗体症候群、出血中、周術期、小児では判断や薬剤選択が異なります。実際の治療は院内手順、添付文書、上級医・専門科の指示に従ってください。

最初の10分:研修医の行動チェックリスト

1.まず不安定性を確認する

次のいずれかがあれば、高リスクPTEを想定して上級医、救急・集中治療、循環器へ直ちに応援を求めます。

  • ショックまたは持続する低血圧
  • 心停止、循環虚脱
  • 新たな意識障害や失神
  • 急速に悪化する低酸素血症
  • 冷汗、末梢冷感、乏尿など臓器低灌流の所見

ABCDEで評価と介入を同時に進め、モニター、静脈路、採血、12誘導心電図を準備します。循環が不安定な患者を、評価なしにCT室へ移動させないことも大切です。ベッドサイド心エコーは右心負荷や他のショック原因を評価する助けになりますが、単独でPTEを確定・除外する検査ではありません。

2.出血リスクと抗凝固療法の禁忌を確認する

治療開始を検討する前に、少なくとも次を確認します。

  • 活動性出血
  • 最近の頭蓋内出血、大手術、重大な外傷
  • 血小板減少や凝固異常
  • 腎機能・肝機能
  • 体重、妊娠可能性
  • 併用する抗血小板薬・抗凝固薬
  • 緊急手術や侵襲的処置の予定

「VTEらしいから、とりあえずDOAC」では不十分です。患者の状態、画像診断までの時間、出血リスク、予定される再灌流療法を踏まえて薬剤を選びます。

3.安定していれば、検査前確率を言語化する

病名ではなく、まず次のように記録します。

「VTEの検査前確率は低い/中程度/高い。根拠は、片側下肢腫脹、最近の臥床、活動性がん、VTE既往、頻脈、代替診断の有無である」

Wellsスコアなどは、この思考を標準化する補助具です。スコアだけで診断せず、入院患者やがん患者では性能が下がりうることにも注意します。

DVTを疑ったときの診断フロー

低い〜中程度の検査前確率

  1. Dダイマーを測定する
  2. 陰性なら、使用した測定法と臨床状況が適切な範囲で急性DVTは否定的
  3. 陽性なら下肢静脈超音波検査などの画像診断へ進む

高い検査前確率

Dダイマーの結果を待って除外しようとせず、下肢静脈超音波検査などの画像診断へ進みます。高い検査前確率では、Dダイマー陰性でも完全には否定できません。

超音波検査を読むときの4項目

  • 血栓の部位:中枢型か末梢型か
  • 新鮮血栓か陳旧性変化か
  • 血栓の広がりと中枢側への近さ
  • PTEを疑う呼吸・循環所見がないか

中枢静脈だけを評価する限定超音波検査が陰性でも、臨床的な疑いが残れば再検の要否を検討します。2025年の国内ガイドラインでは、末梢側を確認できなかった場合に1週間程度での再検が示されています。一方、質の高い全下肢静脈超音波検査が陰性なら、通常は繰り返し検査の必要性は低くなります。

PTEを疑ったときの診断フロー

血行動態が安定している

  1. 病歴・診察から検査前確率を推定する
  2. 低い〜中程度ならDダイマーを使って除外可能性を検討する
  3. 高い場合、またはDダイマー陽性なら、造影CTを中心に画像診断へ進む

Dダイマーは「VTEを見つける検査」ではありません。年齢、感染、悪性腫瘍、手術後、妊娠などでも上昇するため、検査前確率を考えずに測定すると偽陽性が増えます。

血行動態が不安定である

診断と蘇生を並行します。心エコー、下肢静脈超音波、造影CTまたは肺動脈造影のどれを使うかは、患者を安全に移動できるか、検査をどれだけ早く実施できるかで変わります。血栓溶解療法、カテーテル治療、外科的血栓摘除、補助循環の適応は、出血リスクを含めて専門チームで判断します。

DVTが見つかったら:中枢型と末梢型を分ける

中枢型DVT

抗凝固療法の禁忌や継続困難な出血がなければ、急性期から治療を開始し、少なくとも3か月の抗凝固療法を行うことが国内ガイドラインで推奨されています。

3か月を超えて続けるかは、次を再評価して決めます。

  • 一過性の誘因か、持続性の誘因か、誘因不明か
  • VTEの再発歴
  • 活動性がん
  • 出血リスク
  • 患者の価値観と治療負担

末梢型DVT

末梢型DVTは、見つけた全例に画一的な抗凝固療法を行うものではありません。特に陳旧性変化を急性血栓と誤認しないことが重要です。

抗凝固療法を積極的に検討する方向へ傾く所見には、次のようなものがあります。

  • 症候性
  • 膝窩静脈に近い、大きい、新鮮な血栓
  • 経過観察中の中枢進展
  • 活動性がん
  • VTE既往
  • 持続する強い危険因子
  • 連続超音波検査が難しい

一方、出血リスクが高く、中枢進展リスクが低く、確実に再検できる場合は、理学療法と連続超音波検査による観察が選択肢になります。抗凝固療法を行う場合の治療期間は、原則として3か月までが目安です。

抗凝固薬を選ぶ前の「6点確認」

薬剤名を覚えるより、次の6点を毎回確認する方が安全です。

  1. VTEの部位と重症度
  2. 腎機能・肝機能・体重
  3. 活動性出血と出血リスク
  4. がん、妊娠、抗リン脂質抗体症候群などの背景
  5. 緊急処置・手術・再灌流療法の可能性
  6. 内服可能性、服薬継続、薬物相互作用

DOAC、未分画ヘパリン、ワルファリンなどには開始方法と適用範囲の違いがあります。古いスライドにある薬価、中和薬の有無、適応の記載は更新されている可能性があるため、当日の添付文書と院内プロトコルを確認してください。

下大静脈フィルターは、抗凝固療法が行える患者へ routine に追加するものではありません。適応は、抗凝固療法ができない状況などに限定して専門科と検討します。

DVT診断後の離床・リハビリはどうするか

「DVTがあるから一律にベッド上安静」も、「DOAC開始後3時間なら必ず歩行可能」も、患者ごとの判断を省略しています。

離床前に確認する項目は次の通りです。

  • 血行動態と呼吸状態が安定している
  • PTEを疑う新規症状がない
  • 抗凝固療法を行う場合、その治療計画が確立している
  • 活動性出血がない
  • 血栓の部位、性状、中枢進展リスクを評価済み
  • 医師、看護師、リハビリスタッフで中止基準を共有している

安定したDVTでは、適切な治療開始後の早期歩行が、ベッド上安静より新規PTEを増やすとは示されていません。固定した待機時間を暗記するのではなく、薬剤特性、患者状態、院内手順を確認して離床します。

離床中に胸痛、呼吸困難、失神、SpO2低下、低血圧、著明な頻脈が出たら中止し、PTEとして再評価します。

よくある落とし穴

落とし穴1:Dダイマー陽性だけでVTEと診断する

Dダイマーは特異度が低く、上昇する原因は多数あります。検査前確率と画像検査を組み合わせます。

落とし穴2:高い検査前確率をDダイマー陰性だけで除外する

高確率なら画像診断へ進みます。検査結果より前に、検査の適用範囲を確認します。

落とし穴3:末梢型DVTを全例同じように治療する

急性か陳旧性か、中枢進展リスク、症状、がん、出血、再検可能性を分けて考えます。

落とし穴4:PTEの重症度をSpO2だけで決める

血圧、ショック、右室機能、心筋障害、併存症を含めて評価します。SpO2が保たれていても重症PTEは否定できません。

落とし穴5:抗凝固薬の選択と治療期間をセットで考えない

治療開始時に「誰が、いつ、再発リスクと出血リスクを再評価するか」まで決めます。

カルテに残す30秒テンプレート

VTEの検査前確率:低/中/高。根拠は__。
血行動態:安定/不安定。PTEレッドフラッグは__。
画像:血栓部位__、急性所見__、右心負荷__。
出血リスク・禁忌:__。腎肝機能・体重:__。
方針:画像追加/抗凝固療法/連続超音波/専門科相談。
再評価時刻と中止基準:__。

FAQ

Q1.臥床が続いた患者は、リハビリ前に全員DVTエコーを行いますか?

全員への一律スクリーニングではなく、VTEリスク、症状、診察、施設の予防手順から検査適応を判断します。予防評価と、症候性DVTの診断を混同しないことが大切です。

Q2.Dダイマーが正常ならDVTは否定できますか?

検査前確率が低い〜中程度で、適切な測定法を使った場合は除外に役立ちます。高い検査前確率では、正常でも画像診断が必要です。

Q3.無症候性の末梢型DVTには抗凝固療法が必要ですか?

全例ではありません。血栓の新鮮さ、部位、大きさ、中枢進展、がん、VTE既往、出血、再検可能性を総合して決めます。

Q4.DVTが見つかったら、いつから歩けますか?

固定した時間だけでは決めません。血行動態、PTE症状、出血、血栓性状、治療計画を確認し、安定していれば早期離床を検討します。

Q5.造影CTができない患者でPTEをどう評価しますか?

心エコー、下肢静脈超音波、換気血流検査などを、腎機能、造影剤アレルギー、妊娠、血行動態、施設の実施可能性に応じて組み合わせます。単一検査だけで機械的に判断せず、早期に専門科へ相談します。

まとめ

VTE診療で研修医が明日から変えられることは、次の5つです。

  1. 最初に血行動態の安定性を確認する
  2. Dダイマーの前に検査前確率を言語化する
  3. DVTは中枢型と末梢型、急性と陳旧性を分ける
  4. 抗凝固療法は出血リスクと患者背景を確認して選ぶ
  5. 離床は固定時間ではなく、状態・治療計画・中止基準で判断する

「Dダイマーが高い」「下腿に血栓がある」という1つの所見で止まらず、重症度、検査前確率、血栓部位、再発・出血リスクを一本の流れで考えることが、安全な初期対応につながります。