結論:最初の問いは「頻脈か」ではなく「心房細動で不安定か」
救急外来で心房細動(AF)を見たら、最初にAFが原因の循環不全があるかを判断します。不安定なら同期下電気的カルディオバージョンを優先します。安定していれば、誘因治療、レートまたはリズム管理、脳梗塞予防を個別に検討します。
モニターの心拍数だけを治療してはいけません。敗血症、低酸素、出血、肺塞栓、急性冠症候群、甲状腺中毒、心不全など、AFを起こした病態の治療がしばしば最重要です。
最初の10分で行うこと
- ABC、血圧、意識、胸痛、呼吸不全、ショック所見を確認する
- モニター、除細動パッド、静脈路、酸素飽和度を準備する
- 12誘導心電図でAFとQRS幅、虚血、pre-excitationを確認する
- 発症時刻または最終洞調律時刻を確認する
- 既往AF、心不全、弁膜症、脳卒中、抗凝固薬の服薬を確認する
- 血算、電解質、腎機能、必要時にトロポニン・TSHなどを採る
- 感染、低酸素、脱水、出血、疼痛、飲酒、薬剤を探して治療する
- 不安定なら鎮静を可能な範囲で行い、同期下カルディオバージョンへ進む
不安定性のレッドフラッグ
- ショック、症候性低血圧
- 急性意識障害
- 持続する虚血性胸痛
- 急性肺水腫、重い呼吸不全
- 進行する臓器低灌流
AFがこれらの主因なら、薬剤で心拍数が下がるのを待たず同期下カルディオバージョンを行います。ただし、敗血症や出血など別のショックが主因なら、電気的治療だけで循環は改善しません。原因治療を並行します。
心電図で見逃してはいけないこと
不規則な頻拍でも、wide QRSかつ非常に速い場合はWPW症候群に伴うpre-excited AFを考えます。この場合、房室結節を抑制する薬剤は危険になり得るため、循環器へ緊急相談し、電気的治療を優先します。
AFと思っても、心房粗動、上室頻拍への期外収縮、心室頻拍、アーチファクトを鑑別します。必ず12誘導を保存します。
安定例:誘因治療の次にレートかリズムか
レートコントロール
β遮断薬または非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬を、血圧、左室機能、急性心不全、気管支攣縮、併用薬から選びます。非代償性HFrEFではベラパミル・ジルチアゼムを避けます。 ジゴキシンは選択肢ですが、効果発現が遅く、腎機能・薬物相互作用・中毒に注意します。
目標心拍数は症状と基礎心疾患で個別化します。数字を正常化するために低血圧を作らないことが重要です。
リズムコントロール
症状、発症時刻、基礎心疾患、再発リスク、患者希望を踏まえて薬理学的または電気的カルディオバージョンを検討します。発症時刻が不明または長時間経過している場合は、左房内血栓と周術期抗凝固を考慮し、経食道心エコーや抗凝固期間を専門科と計画します。
急性疾患に伴うAFも再発と脳卒中リスクがあります。「誘因が治ったから一過性」としてフォローを打ち切りません。
抗凝固は退院時の宿題にしない
CHA2DS2-VAScなどで血栓塞栓リスクを評価し、出血リスク、腎肝機能、相互作用、服薬可能性、価値観を含めて共同意思決定します。出血リスクスコアは修正可能因子を探すために使い、単独で抗凝固を拒否する道具にしません。
機械弁または中等度以上の僧帽弁狭窄がなければ、多くの患者でDOACがワルファリンより推奨されます。用量は年齢、体重、腎機能、併用薬、承認事項で決め、安易な減量は避けます。
カルディオバージョン前後の抗凝固は、AF持続時間と血栓リスクで決まります。緊急カルディオバージョンが必要な不安定例では、抗凝固評価を理由に電気的治療を遅らせません。
よくある落とし穴
- 敗血症性頻脈をAFのレートだけで治療する
- 低血圧患者に房室結節抑制薬を重ねる
- HFrEF増悪にベラパミル・ジルチアゼムを使う
- wide QRS不規則頻拍に通常のAF治療を行う
- 発症時刻不明の安定例を抗凝固計画なしに洞調律化する
- 急性疾患関連AFを「一過性」としてフォローしない
- 出血リスクスコア高値だけで抗凝固を中止する
FAQ
心拍数が150/分なら必ず薬を使いますか?
必ずではありません。循環不全、誘因、左室機能、血圧を確認し、原因治療と同時にレートまたはリズム管理を選びます。
自然に洞調律へ戻ったら抗凝固は不要ですか?
いいえ。洞調律化の有無だけでなく、血栓塞栓リスクとAFの再発可能性で判断します。
甲状腺機能は全例で測りますか?
新規AFや臨床的疑いでは評価します。救命処置を遅らせて結果を待つ検査ではありません。
適用範囲と限界
本記事は成人の急性心房細動の初期対応を扱います。妊娠、小児、術後、心臓手術後、先天性心疾患、pre-excited AF、抗不整脈薬の具体的選択・用量は、循環器と施設プロトコルに従ってください。