この記事の結論

猫の歯は細く、皮膚の傷が小さくても腱鞘・関節・骨まで届きます。特に手指の猫咬傷は感染リスクが高いため、早期の十分な洗浄、深さと可動域の評価、予防的抗菌薬、破傷風確認を同時に行います。腱鞘炎、関節炎、骨髄炎、敗血症を疑う所見があれば、外科的洗浄ができる専門科へ早く相談します。

抗菌薬の選択・用量は、アレルギー、妊娠、腎機能、地域耐性、院内採用薬に応じて決めてください。海外や輸入動物・野生動物による咬傷では狂犬病曝露後予防を緊急に評価します。

最初の10分で行うこと

  1. 咬まれた時刻・場所、猫の飼育状況、ワクチン、海外・輸入歴を確認する
  2. 指輪を外し、止血後に流水・生理食塩水で十分に洗浄する
  3. 穿刺創を全周から観察し、深さ、異物、壊死、膿を確認する
  4. 腱に沿う圧痛、他動伸展痛、関節可動域、知覚・血流を評価する
  5. 糖尿病、免疫抑制、無脾、肝硬変、人工関節を確認する
  6. 抗菌薬予防、破傷風ワクチン・免疫グロブリンの適応を判断する
  7. 深部感染が疑わしければ画像と手外科・整形外科相談を先行する

なぜ猫咬傷は危険か

猫の犬歯は穿刺創をつくり、表面が早く閉じても深部に細菌が残ります。Pasteurella multocidaは猫の口腔内に多く、数時間〜1日程度で急速な発赤・腫脹・疼痛を起こし得ます。感染は多菌種性で、嫌気性菌、連鎖球菌、ブドウ球菌なども想定します。

レッドフラッグ

  • 手指・手関節、関節直上、腱走行上の咬傷
  • 腱鞘に沿う腫脹・圧痛、指を伸ばすと強い痛み
  • 関節可動域制限、骨性圧痛、深部への貫通
  • 急速に広がる発赤、リンパ管炎、膿、壊死
  • 発熱、低血圧、意識変容、菌血症を疑う所見
  • 糖尿病、免疫抑制、無脾、非代償性肝疾患
  • 顔面、眼周囲、神経・血管障害

この場合は抗菌薬だけで帰宅させず、外科的評価、静注治療、入院を検討します。

診察のポイント

手指

  • 屈筋腱鞘炎の4徴候(指全体の腫脹、軽度屈曲位、腱鞘沿い圧痛、他動伸展痛)
  • DIP/PIP/MCP関節の可動域と軸圧痛
  • 2点識別、毛細血管再充満、動脈拍動
  • 手背・手掌の区画をまたぐ腫脹

全身

皮膚感染だけでなく、肺炎、髄膜炎、菌血症、感染性心内膜炎など侵襲性感染は、高齢者・免疫不全者で起こり得ます。動物接触歴を必ず聞きます。

創処置

  1. 十分な鎮痛と止血を行う
  2. 大量の水道水または生理食塩水で洗浄する
  3. 汚染物・明らかな壊死組織を除く
  4. 深部構造が見える、異物・骨折が疑われる場合は画像・専門科へ相談する
  5. 手指の穿刺創は原則として密閉する一次縫合を避ける

顔面など整容上の利益が大きい部位は、十分な洗浄と抗菌薬を前提に専門家と閉創方法を決めます。

抗菌薬

皮膚を破り出血した猫咬傷は、国際ガイドラインでは予防的抗菌薬の対象です。第一選択は、Pasteurellaと嫌気性菌を含む混合感染を覆うアモキシシリン/クラブラン酸が一般的です。

  • 予防は短期間(NICEでは3日)が目安
  • 感染成立例は通常5日を基本に、深部感染・反応不良で延長
  • 重症、内服困難、深部感染では静注治療を選ぶ
  • ペニシリンアレルギーは反応型、妊娠、年齢、腎機能を確認し専門家と代替を選ぶ

セファレキシン単剤やクリンダマイシン単剤はPasteurellaを十分に覆わない場合があり、反射的に選びません。

破傷風と狂犬病

動物咬傷は唾液を含む汚染創です。破傷風の基礎接種完了と最終接種時期を確認し、汚染創の基準でワクチン、必要時は破傷風免疫グロブリンを検討します。

国内の通常の飼い猫でも、海外での受傷、輸入動物、野生動物、異常行動のある動物では狂犬病リスクを別に評価します。疑わしい曝露は創洗浄後、保健所・感染症専門家へ直ちに相談し、曝露後ワクチンと免疫グロブリンを遅らせません。

検査と画像

  • 軽症の新鮮咬傷では培養は通常不要
  • 膿・滲出液がある感染創は培養する
  • X線:骨・関節損傷、歯など異物、ガス
  • 超音波:膿瘍、腱鞘液、異物
  • MRI:骨髄炎、深部感染を疑う場合
  • 血液培養:発熱、敗血症、免疫不全

よくある落とし穴

  • 傷が2〜3mmなので浅いと判断する
  • 手指の可動域を記録しない
  • 洗浄より先に創を閉じる
  • 抗菌薬を出して、24〜48時間後の再評価を設定しない
  • 破傷風歴を「たぶん接種済み」で済ませる
  • 猫ひっかき病とPasteurella感染を同じ経過と考える
  • 海外受傷で狂犬病評価を後日に回す

よくある質問

Q. 猫に引っかかれただけでも同じですか?

皮膚が破れ、爪が唾液で汚染されていればPasteurella感染は起こり得ます。深さ、部位、患者背景で同様に評価します。亜急性の所属リンパ節腫脹は猫ひっかき病も考えます。

Q. 発赤がなければ抗菌薬は不要ですか?

猫咬傷、とくに手の穿刺創は発赤前でも予防対象です。受傷時刻、深さ、部位、免疫状態で判断します。

Q. いつ再診にしますか?

手指や高リスク患者は24〜48時間以内の再評価を設定し、発赤拡大、疼痛増悪、発熱、可動域低下があれば前倒しで受診するよう説明します。

適用範囲

成人の猫咬傷・掻傷を対象とします。小児、顔面、眼球、妊娠、免疫不全、海外曝露では小児科・形成外科・眼科・感染症科などの指示を優先してください。

まとめ

猫咬傷では創の大きさより、深さと解剖学的位置が重要です。十分な洗浄、腱・関節・神経血管評価、適切な抗菌薬、破傷風・狂犬病確認をセットで行い、手指の異常は早めに外科へつなぎましょう。