結論:細菌性髄膜炎を疑ったら、画像や腰椎穿刺の完了を待って治療を遅らせない
成人の急性髄膜炎は時間依存性の救急疾患です。最も大切なのは、細菌性髄膜炎を疑った時点で血液培養を採取し、適応があればデキサメタゾンを初回抗菌薬の直前または同時に投与し、経験的抗菌薬を速やかに開始することです。
頭部CTが必要な患者でも、CTの順番待ちをしてから血液培養や治療を始めてはいけません。
最初の10分
- ABCDE、血糖、意識、けいれん、紫斑、ショックを評価する
- 飛沫感染対策が必要な状況を判断する
- 血液培養を複数セット採取する
- CBC、電解質、腎肝機能、凝固、CRP、血糖などを提出する
- 腰椎穿刺前CTが必要かを判断する
- 細菌性を否定できなければ、CT・腰椎穿刺の完了を待たず経験的治療を開始する
- 意識変容、局在症状、けいれんがあれば脳炎を考え、アシクロビル追加を相談する
抗菌薬選択は年齢、免疫状態、薬剤アレルギー、地域の耐性率、院内採用薬で変わります。成人では第3世代セフェムを軸に、耐性肺炎球菌を考えた薬剤を併用し、Listeriaリスクがあればアンピシリンを追加するのが基本です。必ず院内プロトコルと感染症専門医に合わせます。
髄膜刺激徴候がなくても除外できない
発熱、頭痛、項部硬直、意識変容のすべてが揃うとは限りません。高齢者、免疫不全、抗菌薬投与後では典型像が乏しくなります。jolt accentuation、Kernig徴候、Brudzinski徴候の陰性だけで髄膜炎を除外しません。
次があれば疑いを上げます。
- 新規の強い頭痛と発熱
- 意識変容、人格変化、傾眠
- 項部硬直、羞明、嘔吐
- 新規けいれん、局在神経症状
- 紫斑、ショック、急速な悪化
- 免疫不全、頭部手術、髄液シャント、耳・副鼻腔感染
CTを腰椎穿刺より先にする患者
頭蓋内占拠性病変や著明な頭蓋内圧亢進が疑われるときは、腰椎穿刺前に画像を検討します。代表例は次のとおりです。
- 新規の局在神経症状
- 著明な意識障害
- 乳頭浮腫
- 新規発症のけいれん
- 重度の免疫不全
- 中枢神経の占拠性病変や脳卒中の既往
基準はガイドラインや施設で細部が異なります。大切なのは「CTが必要=治療を待つ」ではないことです。血液培養後、抗菌薬とデキサメタゾンを先行し、CT後に安全性を再評価して腰椎穿刺します。
髄液で必ず揃えるもの
- 初圧
- 細胞数・分画
- 蛋白
- 髄液糖と同時刻の血糖
- Gram染色と培養
- 病原体PCR
臨床状況に応じ、HSV/VZV、結核、真菌、HIV、細胞診、自己免疫性脳炎の検査を追加します。抗菌薬後でも、髄液細胞、蛋白、糖、PCRから得られる情報はあり、安定後できるだけ早く穿刺します。
| 髄液パターン | 典型像 | 注意点 |
|---|---|---|
| 細菌性 | 好中球優位、蛋白高値、糖低値 | 初期や抗菌薬後は非典型になりうる |
| ウイルス性 | リンパ球優位、蛋白軽度上昇、糖は保たれやすい | 発症早期は好中球優位もある |
| 結核・真菌 | リンパ球優位、蛋白高値、糖低値 | 免疫不全では細胞数が少ないことがある |
「無菌性髄膜炎=ウイルス性」ではない
無菌性髄膜炎とは、通常の細菌培養で原因菌が証明されない髄膜炎の臨床像です。ウイルス性のほか、抗菌薬投与後の細菌性、結核、真菌、薬剤性、自己免疫疾患、悪性腫瘍も含みます。
NSAIDs、抗菌薬、免疫グロブリンなどの薬剤歴、海外渡航、動物、蚊・ダニ、性行動、免疫状態、皮疹を聞きます。HSV PCRは発症早期に偽陰性となることがあり、脳炎を強く疑う場合は治療を続けながら再検を相談します。
VZV髄膜炎・脳炎では皮疹がないことがあります。高齢者や免疫不全では血管障害を起こし、脳梗塞や出血につながるため、新規局在症状を「髄膜炎の一部」で済ませず再評価します。
デキサメタゾンとアシクロビル
デキサメタゾンは細菌性髄膜炎が疑われる成人で、初回抗菌薬の直前または同時に開始するのが原則です。抗菌薬開始後に遅れて投与する利益は不確実です。起因菌と経過が判明したら継続適応を見直します。
アシクロビルは「無菌性髄膜炎全例」ではなく、意識障害、人格変化、局在症状、けいれんなど脳炎を疑う場合に特に急ぎます。腎機能に応じて調整し、十分な補液と腎機能監視を行います。
よくある失敗
- 項部硬直がないので除外する
- CT結果を待って抗菌薬が遅れる
- 血液培養を抗菌薬後に採る
- 「髄液がリンパ球優位=ウイルス」と断定する
- PCR陰性1回でHSV/VZVを完全に否定する
- 意識障害を髄膜炎だけで説明し、脳炎を見落とす
カルテ記載例
「発熱、頭痛、傾眠を認め、急性髄膜炎/脳炎を疑う。血液培養を採取。意識障害と新規けいれんがあり腰椎穿刺前に頭部CTが必要だが、画像待機で治療を遅らせず、院内プロトコルに基づく経験的抗菌薬、初回同時のデキサメタゾン、腎機能調整したアシクロビルを開始。CT後に穿刺安全性を再評価する。」
Take-home message
- 細菌性髄膜炎では抗菌薬の遅れが最大のリスク
- CTが必要でも、血液培養と治療は先に進める
- 髄膜刺激徴候の陰性では除外できない
- 無菌性髄膜炎は病原名ではなく、結核・薬剤・自己免疫も含む
- 意識障害、けいれん、局在症状があれば脳炎を同時に扱う