結論:発熱+血球減少では、刺し口がなくてもSFTSを鑑別に置く
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、マダニ媒介を中心に発生するウイルス感染症です。初期像は発熱、倦怠感、食欲低下、嘔気、下痢など非特異的ですが、白血球減少・血小板減少・肝逸脱酵素上昇が重なれば鑑別に挙げます。
重要なのは、刺し口が見つからないことを除外根拠にしないことです。発症前約2週間の農作業、草むらへの立ち入り、マダニとの接触に加え、体調不良の犬・猫への接触や血液・体液曝露も具体的に聞きます。疑った時点で標準予防策に必要な追加対策を組み合わせ、感染管理部門・管轄保健所・感染症専門医へ早めに相談します。
最初の10分で行うこと
- ABCDE、意識、呼吸・循環を評価し、ショックや出血の有無を確認する
- 発症日、居住・訪問地域、屋外活動、動物接触、患者の血液・体液曝露を確認する
- 皮膚を観察する。ただし刺し口がなくても否定しない
- CBC、末梢血液像、AST・ALT・LDH・CK、腎機能、電解質、凝固系、尿検査を提出する
- 標準予防策を徹底し、血液・体液が飛散する処置では眼・顔面を含む個人防護具を使う
- 院内の感染管理担当、感染症専門医、保健所へ相談し、検体採取と搬送方法を確認する
重症感がある、意識障害がある、出血傾向がある、臓器障害が進んでいる場合は、一般外来で結果を待たず入院管理と高次施設への相談を進めます。
問診は「ダニに刺されましたか?」だけでは不十分
患者はマダニ刺咬を自覚していないことがあります。次のように生活場面へ分解して尋ねると、曝露歴を拾いやすくなります。
| 確認項目 | 具体的な質問 |
|---|---|
| 屋外曝露 | 畑・山・草むら・河川敷へ入ったか、農林作業や草刈りをしたか |
| 動物曝露 | 犬や猫の体調不良、動物の血液・唾液・排泄物との接触、咬傷があったか |
| ヒトからの曝露 | SFTSが疑われる患者の血液・体液に、防護なく触れた可能性があるか |
| 時間軸 | 発症前おおむね2週間に該当する曝露があったか |
| 服薬・併存症 | 免疫抑制薬、抗凝固薬、基礎疾患、妊娠可能性を含めて確認する |
地域流行が知られる西日本に限らず、患者の移動歴や活動歴を基に判断します。「都市部在住」「刺し口なし」だけで除外しません。
検査所見の組み合わせで疑う
典型的には白血球減少、血小板減少、AST・ALT・LDH上昇を認めます。蛋白尿・血尿、CK上昇、凝固異常、腎障害が加わることもあります。しかし、単一の数値に特異性はありません。
鑑別には、敗血症、他のウイルス感染症、リケッチア症、日本紅斑熱、つつが虫病、レプトスピラ症、血球貪食症候群、血液疾患、薬剤性障害などがあります。発疹、痂皮、ダニ刺咬痕、リンパ節腫脹を探しつつ、培養採取や必要な経験的治療を遅らせないことが大切です。
確定診断には行政検査を含む病原体検査が必要です。検体の種類・採取時期・包装・搬送には地域の手順があるため、自己判断で通常検体として送らず、保健所と検査部へ確認します。
感染対策:血液・体液曝露を具体的に防ぐ
SFTSでは、患者の血液・体液との濃厚接触による感染が報告されています。通常診療では標準予防策が基本ですが、嘔吐、下痢、出血、吸引、気管挿管、採血、ライン確保など曝露リスクに応じて、手袋、長袖ガウン、サージカルマスク、眼の防護を追加します。エアロゾルが生じる処置では施設手順に従い呼吸用防護具を選びます。
針刺しや粘膜曝露が起きたら、直ちに洗浄し、院内の職業感染対応ルートへ報告します。接触者の範囲と健康観察は、感染管理部門と行政機関が連携して決めます。
治療:支持療法に加え、ファビピラビル適応を専門医と検討する
輸液、酸素投与、循環管理、DIC・臓器障害への対応など支持療法が基盤です。細菌感染やリケッチア症を否定できない段階では、鑑別に応じた検査・治療も並行します。
日本ではファビピラビルが2024年6月にSFTSの適応追加承認を受けました。ただし、投与対象、開始時期、安全管理、妊娠可能性への対応には専門的判断が必要です。妊婦には投与できず、男女ともに避妊に関する確認と説明が必要です。研修医が単独で開始せず、最新の添付文書と診療の手引きを確認し、感染症専門医と相談のうえ入院下で使用します。
よくある落とし穴
- 刺し口がないためSFTSを除外する
- 屋外曝露だけを聞き、体調不良の犬・猫や患者体液への曝露を聞かない
- 血小板減少をDICだけで説明し、白血球減少と曝露歴を統合しない
- 確定検査の相談まで通常の感染対策のまま処置を続ける
- 「治療は支持療法のみ」という古い知識のまま、ファビピラビルの適応を検討しない
- 検査確定を待ってから転院や集中治療の相談を始める
カルテ記載例
「発症4日前から発熱、食欲低下、下痢。発症10日前に草刈りあり。マダニ刺咬の自覚なし。飼い猫の体調不良なし。WBC 2,100/μL、Plt 6.8万/μL、AST/ALT/LDH上昇を認め、SFTSを含むダニ媒介感染症を疑う。標準予防策に接触・飛沫曝露対策を追加。感染管理部門、感染症科、管轄保健所へ連絡し、行政検査と入院管理を調整する。」
Take-home message
- 発熱、消化器症状、白血球・血小板減少の組み合わせでSFTSを考える
- 刺し口がなくても除外せず、屋外・動物・血液体液曝露を聞く
- 疑った時点で感染対策と保健所への相談を始める
- 支持療法を徹底し、ファビピラビルは最新手引きに沿って専門医と検討する
- 確定診断を待たず、重症化を見越して入院・集中治療を準備する