この記事の結論

熱中症では、問診を完成させてから治療するのではなく、深部体温測定、ABC評価、脱衣、冷却、静脈路確保を並行します。意識障害を伴う重症例は、救命処置と能動的冷却を直ちに開始し、凝固障害、腎障害、肝障害、横紋筋融解などを経時的に追います。

日本救急医学会の2024年分類では、深部体温40℃以上かつGCS 8以下をIV度とします。深部体温が測れなくても、体表温40℃以上または皮膚が熱く、GCS 8以下ならqIV度として同じ緊急度で扱います。III〜IV度では能動的冷却を行い、体表温だけを正常化の目標にしません。

本記事は成人診療の教育資料です。実際の搬送、冷却法、輸液、集中治療は、循環動態、併存疾患、院内手順に従い、救急・集中治療の上級医と相談してください。

最初の10分で行うこと

  1. 気道、呼吸、循環、意識、血糖を評価する
  2. 発症状況、暑熱曝露、運動、服薬、飲水、発症時刻を短く確認する
  3. 直腸温など信頼できる深部体温を測る
  4. 衣服を脱がせ、涼しい環境へ移し、送風・水噴霧など冷却を始める
  5. モニター、静脈路、採血、尿量測定を準備する
  6. 意識障害・ショック・痙攣があれば蘇生と能動的冷却を同時に行う
  7. 搬送前後の体温、意識、冷却開始時刻を記録する

冷却は検査結果を待つ治療ではありません。重症例では「測る、冷やす、運ぶ」を同時に進めます。

重症度の見方

  • I度:めまい、立ちくらみ、生あくび、大量発汗、筋肉痛・こむら返りなど。意識障害なし
  • II度:頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力低下など。医療機関での評価が必要
  • III度:中枢神経、肝・腎、凝固など臓器障害の所見を伴う
  • IV度:深部体温40℃以上かつGCS 8以下
  • qIV度:深部体温を測れず、体表温40℃以上または皮膚が熱く、GCS 8以下

体温が救急外来到着時に下がっていても、搬送中の冷却や発症からの時間で低下した可能性があります。最高体温、意識障害、暑熱曝露、臓器障害を合わせて判断します。

レッドフラッグ

  • GCS低下、せん妄、痙攣、失調
  • 深部体温40℃以上、または熱い皮膚を伴う高度意識障害
  • 低血圧、頻脈、末梢循環不全、乏尿
  • 低酸素、呼吸不全、誤嚥
  • 出血傾向、血小板減少、凝固異常
  • CK上昇、褐色尿、高K血症、急性腎障害
  • AST・ALT、LDH、ビリルビンの経時的上昇
  • 高齢、独居、認知症、心・腎疾患、利尿薬・抗コリン薬の使用

重症ではICU管理、臓器補助、転院を早期に検討します。肝障害は遅れて増悪することがあるため、初回値が軽度でも安心しません。

鑑別診断

高体温と意識障害を熱中症だけで説明しないことが大切です。

  • 敗血症、中枢神経感染症
  • 甲状腺クリーゼ
  • セロトニン症候群、悪性症候群、悪性高熱症
  • 抗コリン薬・交感神経刺激薬中毒
  • 脳卒中、てんかん重積、低血糖
  • アルコール・薬物離脱

感染性発熱では体温の設定値が上がるのに対し、熱中症は放熱不全や熱産生過多による高体温です。ただし両者は併存し得ます。

冷却

III〜IV度では能動的冷却を開始します。選択肢には、脱衣、皮膚への水噴霧と送風、氷水浴、冷却ブランケットなどがあります。患者の状態、施設、搬送環境に応じ、最も早く安全に開始でき、処置を妨げない方法を選びます。特定の方法がすべての状況で優れるとは限りません。

  • 体温と意識を連続的または頻回に再評価する
  • 震えが強ければ冷却効率と酸素消費を考えて対応する
  • 冷却中も気道管理、除細動、採血などを続けられるようにする
  • 解熱薬は熱中症の病態を改善せず、肝障害を悪化させ得るため routine に使わない

冷たい輸液だけでは能動的冷却の代わりになりません。

補液と循環管理

脱水と末梢血管拡張があれば、等張晶質液を少量ずつ投与し、血圧、肺音、尿量、Naを再評価します。高齢者、心不全、腎機能障害では過剰輸液にも注意します。低Na血症・高Na血症は発症機序と補正速度を確認し、機械的に自由水や塩分を追加しません。

昇圧薬が必要なショックでは、十分な冷却と輸液反応性評価を行いながら集中治療へつなぎます。

検査と経過観察

  • 血算、電解質、血糖、BUN、Cr、血液ガス
  • AST、ALT、LDH、ビリルビン
  • CK、尿検査、必要時ミオグロビン
  • PT-INR、APTT、フィブリノゲン、Dダイマー
  • 心電図、必要に応じトロポニン
  • 感染や中毒など鑑別に応じた培養・画像・薬物検査

初回検査が正常でも、重症例では数時間〜翌日に臓器障害が明らかになることがあります。症状、尿量、体温、意識、腎・肝・凝固を経時的に追います。

よくある落とし穴

  • 腋窩温が低いので重症熱中症を否定する
  • 診断確定やCTを待って冷却が遅れる
  • 意識障害を脱水だけと考え、気道保護を遅らせる
  • 解熱薬を投与する
  • 冷却後に体温が下がっただけで帰宅させる
  • 大量輸液を尿量・肺うっ血・Naの再評価なしに続ける
  • 肝障害、凝固障害、横紋筋融解の遅発性増悪を見逃す

よくある質問

Q. 汗をかいていれば重症熱中症ではありませんか?

発汗の有無だけでは除外できません。運動性熱中症では発汗が続くことがあります。意識、深部体温、循環、臓器障害で判断します。

Q. 解熱薬は使いますか?

使いません。熱中症は発熱中枢の設定値上昇ではなく、熱の蓄積が本態です。冷却と全身管理を優先します。

Q. 軽症なら帰宅できますか?

意識清明で症状が改善し、飲水でき、バイタルが安定し、帰宅後の見守りと暑熱回避が確保できる場合に限ります。高齢、独居、腎・心疾患、症状遷延では観察や入院を検討します。

適用範囲

主に成人の非労作性・労作性熱中症を対象とします。小児、妊娠、競技現場、特殊防護服下、悪性高熱症や薬物中毒が疑われる場合は、各領域の手順を優先してください。

まとめ

熱中症の重症度は、体温だけでなく意識と臓器障害で判断します。重症例では深部体温を測りながら、蘇生と能動的冷却を直ちに開始し、遅れて現れる腎・肝・凝固障害まで追跡しましょう。