結論:AKIでは「腎前性か腎性か」を当てる前に、緊急度と治せる原因を探す
クレアチニン(Cr)上昇や乏尿に気づいたら、研修医が最初に整理するのは次の5点です。
- 高K血症、重症アシドーシス、肺水腫、尿毒症症状など、直ちに介入が必要な合併症はないか
- 尿路閉塞はないか
- 循環血液量減少か、静脈うっ血・体液過剰か、あるいは両者が混在していないか
- 尿所見と薬剤歴から、糸球体・尿細管・間質・血管病変を疑う手がかりはないか
- 原因への治療、腎排泄薬の用量調整、尿量・Cr・電解質の再評価が計画されているか
AKIは病名というより、腎機能が急に悪化していることを示す症候群です。「腎前性だから輸液」「Crが高いから透析」と短絡せず、患者全体、時間経過、治療への反応を見て判断します。
本記事は成人の院内発症AKIを中心とした教育用フレームです。個別の輸液、昇圧薬、利尿薬、薬剤中止、造影検査、腎代替療法は、患者の病態、院内手順、添付文書、上級医・腎臓内科・集中治療科・泌尿器科の判断に従ってください。
最初の10分:Cr上昇・乏尿を見たら同時に進めること
1.過去のCrと尿量を確認し、本当にAKIかを判定する
KDIGO基準では、次のいずれかを満たすとAKIです。
- 48時間以内に血清Crが0.3 mg/dL以上上昇
- 7日以内に血清Crが基準値の1.5倍以上へ上昇
- 尿量が0.5 mL/kg/時未満の状態が6時間以上持続
「基準値」は今回の入院時だけでなく、過去の外来・入院検査まで遡って探します。筋肉量の少ない高齢者では、Crが一見正常範囲でも大きな腎機能低下があり得ます。一方、非定常状態のCrから算出されるeGFRは変化に遅れて動くため、薬剤投与量を機械的に決める数値ではありません。
尿量はCrより早く変化することがあります。体重当たりの時間尿量、導尿の有無、尿道カテーテルの屈曲・閉塞、入出量記録の信頼性まで確認します。基準Crが不明なら、無理に正常値を仮定して確定診断せず、「AKI疑い」として安全側に評価を進めます。
2.「今すぐ危ない」を探す
ABCDEで評価し、バイタル、意識、呼吸仕事量、SpO2、心電図、尿量を確認します。採血では少なくともCr、尿素窒素、Na、K、Cl、重炭酸または血液ガス、Ca、P、血算を病態に応じて確認します。
次があれば、上級医、腎臓内科、集中治療科へ直ちに相談します。
- 内科的治療に反応しない、または再燃する高K血症
- 循環・呼吸に影響する重症代謝性アシドーシス
- 低酸素血症を伴う肺水腫・治療抵抗性の体液過剰
- 尿毒症性脳症、心膜炎、出血傾向などを疑う症状
- 治療可能な中毒物質の蓄積が疑われる
- 急速な悪化、無尿、ショック、多臓器不全
「Kが何mEq/Lなら」「BUNが何mg/dLなら」「pHがいくつなら」という単独の数字だけで透析開始を決めません。内科的治療への反応、悪化速度、全身状態、原因、回復見込みを合わせて判断します。
3.閉塞を早く除外する
膀胱膨満、排尿困難、前立腺疾患、骨盤内腫瘍、結石、神経因性膀胱、単腎、尿路手術歴を確認します。尿道カテーテル留置中なら、まずチューブの屈曲、閉塞、位置異常を確認します。
膀胱スキャンや腎・尿路超音波は有用です。原因不明または閉塞リスクがあるAKIでは、NICEは24時間以内の尿路超音波を推奨し、感染性閉塞を疑う場合はさらに緊急の評価を求めています。
ただし、発症早期や脱水時には水腎症が目立たないことがあり、超音波が正常でも臨床的に閉塞が強く疑われれば再評価が必要です。通常、片側性閉塞だけでは両腎機能は急低下しにくいものの、単腎や対側腎機能低下があれば例外です。感染性閉塞、両側閉塞、閉塞した単腎は泌尿器科への緊急相談が必要です。
AKIの重症度:ステージは「現在地」と「悪化速度」を共有する道具
成人のKDIGOステージは次のように整理できます。
| ステージ | 血清Cr | 尿量 |
|---|---|---|
| 1 | 基準値の1.5〜1.9倍、または0.3 mg/dL以上上昇 | 0.5 mL/kg/時未満が6〜12時間 |
| 2 | 基準値の2.0〜2.9倍 | 0.5 mL/kg/時未満が12時間以上 |
| 3 | 基準値の3倍、4.0 mg/dL以上への上昇、または腎代替療法開始 | 0.3 mL/kg/時未満が24時間以上、または無尿12時間以上 |
Cr基準と尿量基準が異なるステージを示す場合は、より重い方で扱います。ステージだけで原因や透析適応は決まりませんが、重症度、モニタリング頻度、相談の緊急性を共有する助けになります。
原因検索:「腎前性・腎性・腎後性」は入口であって結論ではない
腎前性:不足だけでなく、うっ血と低灌流も考える
嘔吐・下痢、出血、摂取不良、発熱、利尿薬、敗血症などから循環血液量減少を探します。同時に、心不全、肝硬変、右心不全、肺高血圧などによる静脈うっ血も評価します。
見るべき所見は、血圧だけではありません。
- 病前体重からの変化、口渇、粘膜、皮膚、浮腫
- 頸静脈圧、肺ラ音、起坐呼吸、肝腫大
- 末梢冷感、毛細血管再充満、意識、乳酸
- 直近の入出量、食事・飲水、出血、下痢、ドレーン排液
- ベッドサイド超音波による心臓、肺、静脈系の所見
下大静脈径だけで輸液の要否を決めるのは危険です。呼吸様式、右心機能、人工呼吸、腹腔内圧などの影響を受けるため、病歴、身体所見、他の超音波所見、介入後の反応と組み合わせます。
腎性:尿検査と沈渣を「その日のうち」に見る
NICEはAKIを疑った時点で、血尿、蛋白、白血球、亜硝酸、糖を含む尿定性を速やかに行うよう推奨しています。可能なら新鮮尿で沈渣を確認します。
| 尿所見 | 考える病態の例 | 次の行動 |
|---|---|---|
| 顆粒円柱、尿細管上皮細胞 | 急性尿細管障害 | 虚血、敗血症、薬剤・色素などを検索 |
| 赤血球円柱、変形赤血球、血尿+蛋白尿 | 糸球体腎炎 | 血清学的検査と腎臓内科への早期相談 |
| 白血球、白血球円柱 | 腎盂腎炎、間質性腎炎など | 培養、薬剤歴、感染源を評価 |
| 血尿強陽性なのに赤血球が少ない | 横紋筋融解、溶血 | CK、病歴、血算・溶血所見を確認 |
| 結晶 | 薬剤、尿酸、エチレングリコールなど | 結晶の種類と曝露歴を確認 |
沈渣が目立たないから腎性AKIを否定できるわけではありません。反対に、カテーテル留置や月経などによる血尿を糸球体腎炎と誤認しないよう、採尿条件も確認します。
FENa・FEUNは補助所見であり、二択判定機ではない
FENaは次式で算出します。
FENa(%)=(尿中Na × 血清Cr)÷(血清Na × 尿中Cr)× 100
低値はNa保持を示唆しますが、敗血症、急性糸球体腎炎、造影剤関連、色素性腎症、早期の尿細管障害などでも低くなり得ます。CKDや利尿薬使用では高値になりやすく、FEUNも利尿薬の影響を完全には回避できません。尿採取と採血の時間差も解釈を崩します。
したがって、FENa 1%、FEUN 35%などの境界で「腎前性」「腎性」を確定せず、病歴、体液評価、尿沈渣、経時変化、治療反応の一部として使います。
治療:AKIそのものより、原因と合併症を治す
輸液は「AKIだから」ではなく、補液で改善し得る低容量に行う
循環血液量減少があり、輸液反応性が期待できる場合は、等張晶質液を患者の心機能・呼吸状態に合わせて投与し、少量ごとに再評価します。血圧、末梢灌流、尿量、呼吸、肺・静脈うっ血の変化を確認し、効果が乏しいのに反復しません。
敗血症性ショックなどで血管作動薬が必要な病態では、輸液だけを続けず早期に上級医・集中治療科へ相談します。一方、うっ血性心不全では、Crが一時的に上がったことだけを理由に必要な除水を止めると、腎うっ血と呼吸状態が悪化することがあります。利尿薬はAKIを治す薬ではありませんが、体液過剰の治療には用いられます。
薬剤は「中止するもの」と「腎機能に合わせるもの」に分ける
処方薬、頓用薬、市販薬、サプリメント、直近の抗菌薬・造影剤まで、開始日と増量日を含めて確認します。
- NSAIDs、ACE阻害薬/ARB、利尿薬など、血行動態に影響する薬
- アミノグリコシド、バンコマイシンなど、血中濃度や曝露量に注意する薬
- 抗菌薬、抗ウイルス薬、抗凝固薬、鎮痛薬など、腎排泄性で蓄積し得る薬
- PPI、抗菌薬、NSAIDsなど、間質性腎炎の原因になり得る薬
- 造影剤、抗がん薬、漢方・健康食品など、最近の曝露
中止の利益と原疾患悪化の害を比べ、必要に応じて薬剤師と相談します。AKI中のeGFRは定常状態を前提とするため、用量調整ではCrの推移、尿量、薬物血中濃度、腎代替療法の有無も考慮します。
薬剤性間質性腎炎では、発熱・発疹・好酸球増多の古典的三徴がそろうとは限りません。尿中好酸球だけで診断・除外せず、薬剤の時間関係、尿所見、他疾患を評価し、必要なら腎臓内科へ相談します。
造影CTは、腎機能だけを理由に救命診断を遅らせない
造影後のCr上昇は「造影関連AKI」と表現し、造影剤が原因と証明された場合の「造影剤誘発AKI」と区別します。AKIや高度CKDではリスクと予防策を検討しますが、大動脈解離、肺血栓塞栓症、感染源検索など、結果が緊急治療を変える検査をCrだけで遅らせないことが重要です。
NICE 2024は、緊急画像検査を遅らせないこと、特に高リスク例では造影量、投与経路、反復、補液の可否などを個別に評価することを示しています。放射線科・腎臓内科と相談し、診断利益と腎リスクを患者ごとに比較します。
腎臓内科・他科へ早く相談する場面
次の状況では「Crの再検を待ってから」ではなく、早期相談を考えます。
- 腎代替療法が必要になり得る合併症がある
- KDIGOステージ3、無尿、または急速に悪化している
- 原因が不明、初期治療への反応が不十分
- 血尿+蛋白尿、赤血球円柱など糸球体腎炎を疑う
- 血小板減少・溶血・神経症状など血栓性微小血管症を疑う
- 血管炎、間質性腎炎、骨髄腫、急速進行性腎炎が鑑別にある
- 腎移植後、CKD G4〜G5、単腎など腎予備能が低い
- 薬物中毒、特殊な血液浄化、腎生検の適応を検討する
- 感染性閉塞、両側閉塞、閉塞した単腎を疑う場合は泌尿器科へ緊急相談する
NICEでは、腎代替療法適応は直ちに、原因不明、治療反応不良、合併症、ステージ3、腎移植、CKD G4〜G5などは原則24時間以内に腎臓専門医と協議する枠組みを示しています。院内の相談基準があればそれを優先します。
モニタリングと退院後:Crが下がってもAKIは終わりではない
入院中は病態に応じて、次を経時的に記録します。
- 尿量、入出量、体重
- Cr、尿素窒素、K、重炭酸、Na、Ca、P
- 血圧、酸素化、呼吸状態、浮腫・うっ血
- 原因治療への反応と薬剤変更
- AKIステージの推移、腎代替療法の要否
退院時には、基準Cr、最大Cr、退院時Cr、推定原因、休薬・減量した薬、再開条件、次回採血日を明記します。回復が不十分、蛋白尿・血尿、高血圧、重症AKI、反復AKIがある患者は、より早い外来評価が必要です。
KDIGO 2012は、AKI発症から3か月後に回復、新規CKD、既存CKD悪化を評価するよう提案しています。3か月まで何もしないという意味ではありません。退院時の腎機能と安定性に応じて数日〜数週で再検し、その後もCKD・心血管リスクを見直します。
なお、KDIGO 2026 AKI/AKDガイドラインは2026年8月1日時点で公開レビュー草案です。最終版公開後は、定義、バイオマーカー、輸液・血行動態管理、造影関連AKI、腎代替療法、フォローアップの記載を再確認する必要があります。
研修医が避けたい7つの落とし穴
- Crが正常範囲だからAKIではない:小柄な高齢者では、小さなCr上昇にも意味があります。
- AKIだからとりあえず輸液する:うっ血性心不全では害になり得ます。
- FENaだけで腎前性と決める:病態と薬剤で大きく変わります。
- 水腎症がないので閉塞を除外する:発症早期などでは目立たないことがあります。
- BUNやKの単独閾値で透析を決める:患者全体と治療反応で判断します。
- 薬剤を全部止めて終わる:用量調整、代替薬、再開条件まで設計します。
- Crが下がったのでフォロー不要とする:AKI後はCKDと再発のリスクがあります。
30秒で使えるAKI報告テンプレート
「〇歳、基準Crは〇月の〇mg/dL、現在〇mg/dLで〇倍、尿量〇mL/kg/時が〇時間のKDIGOステージ〇です。K〇、pH/HCO3〇、肺水腫・尿毒症症状は〇で、緊急腎代替療法を示唆する所見は〇です。血圧・体液所見は〇、膀胱内尿量と水腎症は〇、尿定性・沈渣は〇です。原因は〇を第一に考え、〇を中止/調整し、〇を治療します。〇時間後に尿量・K・Cr・呼吸状態を再評価し、〇科へ相談します。」
FAQ
Q1.Crが0.8から1.1 mg/dLになっただけでもAKIですか?
48時間以内の上昇なら0.3 mg/dLに達するため、KDIGOのAKI基準を満たします。絶対値が正常範囲でも、変化量と時間を見ます。検査変動や体液変化も考慮しつつ、原因評価と再検を行います。
Q2.尿が出ていれば重症AKIではありませんか?
非乏尿性AKIもあります。尿量が保たれていてもCr上昇、K、酸塩基平衡、体液状態、原因疾患を評価します。反対に、乏尿はCr上昇より早い警告になることがあります。
Q3.乏尿ならフロセミドを投与してよいですか?
利尿薬はAKIの腎回復を促す治療ではありません。体液過剰・うっ血の治療目的なら適応になり得ますが、低容量なら悪化させます。まず体液状態、閉塞、循環を評価します。
Q4.造影CTは避けるべきですか?
AKIや高度CKDではリスク評価と予防策が必要ですが、救命に必要な緊急画像検査をCrだけで遅らせません。検査が治療をどう変えるかを明確にし、放射線科・腎臓内科と相談します。
Q5.AKIが改善したらACE阻害薬やARBは再開できますか?
原疾患、血圧、K、体液状態、腎機能、再発リスクで判断します。休薬理由が解消し、適応が残る薬を漫然と中止し続けないよう、再開条件と確認採血を退院時に明記します。
まとめ
- AKIを見たら、まず緊急合併症、閉塞、循環・うっ血、尿所見、薬剤を同時に評価する
- AKIはCr上昇だけでなく尿量でも診断し、より重い基準でステージを共有する
- 輸液は低容量に、利尿薬は体液過剰に使い、「AKIだから」という反射で選ばない
- FENa・FEUN、IVC、尿沈渣はいずれも補助所見であり、単独で原因を確定しない
- 腎代替療法は固定の数値ではなく、治療抵抗性の合併症と患者全体で判断する
- 退院時に薬剤の再開条件と再検日を決め、AKI後のCKDリスクを追跡する
AKI対応の質は、珍しい検査を知っているかよりも、危険な合併症を先に拾い、閉塞と循環を早く直し、尿と薬剤を丁寧に見て、再評価の時刻まで決めることで上がります。