結論:画像を撮るかではなく、緊急疾患の確率を上げ下げする
急性腰痛の多くは非特異的で、レッドフラッグがなく神経学的異常のない患者にルーチン画像は不要です。一方、腹部大動脈瘤・解離、馬尾症候群、脊椎感染、悪性腫瘍、骨折、腹腔内・後腹膜疾患を見逃すと重大です。
レッドフラッグは「1項目あれば全員MRI」というチェックリストではありません。病歴、診察、事前確率を合わせ、疑う疾患ごとに最適な検査と緊急度を決めます。
最初に生命・神経緊急疾患を確認する
血管・内臓疾患
突然発症、裂けるような痛み、腹痛・胸痛、失神、冷汗、左右差、拍動性腫瘤、循環不安定があれば大動脈疾患を考えます。尿路結石、腎盂腎炎、膵炎、消化管疾患、婦人科疾患も腰痛として現れます。
馬尾症候群・高度神経障害
尿閉・溢流性尿失禁、便失禁、会陰部感覚低下、両側坐骨神経症状、進行する運動麻痺を確認します。疑えば膀胱容量を含めて評価し、緊急MRIと脊椎外科相談を行います。
感染、腫瘍、骨折の手掛かり
脊椎感染
発熱がないから否定はできません。菌血症、最近の感染、静注薬物使用、免疫抑制、透析、脊椎手術・注射、強い持続痛、夜間痛が手掛かりです。疑えば血液培養、炎症反応、MRIを検討し、神経障害・敗血症がなければ生検前の抗菌薬開始時期を専門科と相談します。
悪性腫瘍
がん既往、原因不明の体重減少、夜間痛、治療抵抗性、全身症状から考えます。単に高齢というだけで腫瘍を強く疑うのではなく、既往と経過を重視します。
骨折
強い外傷、骨粗鬆症、長期ステロイド、高齢者の軽微外傷、局所叩打痛を確認します。単純X線やCTは骨折の種類と緊急度に合わせて選びます。
神経学的診察を省略しない
- 歩行、踵歩き・つま先歩き
- 下肢筋力、感覚、腱反射
- 神経根症状に応じStraight Leg Raiseなど
- 会陰部感覚、肛門括約筋、膀胱評価は馬尾症候群を疑う場合
診察結果は左右と髄節を意識して記録し、進行性かどうかを比較できるようにします。
画像検査の選び方
レッドフラッグのない急性非特異的腰痛では、単純X線、CT、MRIをルーチンに行いません。馬尾症候群、感染、腫瘍、重い神経障害が疑わしい場合はMRIが中心です。骨折ではX線またはCT、血管疾患では造影CTなど、疑う疾患に合わせます。
症状が遷延し、適切な保存療法後も改善せず、侵襲的治療を検討する場合もMRIが考慮されます。
非特異的腰痛と判断した後
重篤な原因が低いことを説明し、可能な範囲で通常活動を続けるよう勧めます。長期のベッド上安静は回復を遅らせる可能性があります。温熱、運動、理学療法、薬物療法は併存症と患者の希望に合わせます。鎮痛薬は腎機能、消化管・心血管リスク、眠気、依存リスクを確認します。
受診後に尿閉、会陰部しびれ、筋力低下、発熱、全身状態悪化が出た場合の再受診基準を具体的に伝えます。
よくある落とし穴
- レッドフラッグを1つの万能スコアとして使う
- 発熱がないため脊椎感染を否定する
- 痛みが強いことだけで画像を撮る、または重症でないと決める
- 神経診察を記録せず、進行を比較できない
- 非特異的腰痛に長期安静を勧める
適用範囲
本稿は成人の非外傷性・軽微外傷性急性腰痛の初期評価です。妊娠、小児、重大外傷、術後患者では別の評価経路が必要です。