結論:新規腹水と、肝硬変患者の入院・急変では、診断的腹水穿刺を早く行う
腹水は身体所見や画像だけでは原因を決められません。新規腹水、または肝硬変患者が腹痛、発熱、腎機能悪化、低血圧、脳症、消化管出血などで入院したときは、診断的腹水穿刺を早期に行います。
自発性細菌性腹膜炎(SBP)は腹膜刺激徴候や発熱がないこともあります。「腹痛がないから穿刺しない」は危険です。
最初の10分
- ABCDE、敗血症、消化管出血、肝性脳症を評価する
- 腹水が新規か、肝硬変・心不全・悪性腫瘍の既往があるか確認する
- ベッドサイド超音波で腹水と安全な穿刺部位を確認する
- 腹水穿刺を準備し、細胞数・分画、Alb、総蛋白、培養を提出する
- 同時刻の血清Albを測る
- SBPが疑わしければ、検体採取後に抗菌薬を開始する
- 腎機能、Na、K、尿量、薬剤を評価する
誰に穿刺するか
- 原因不明の新規腹水
- 肝硬変で入院した患者
- 腹痛、圧痛、発熱、低体温
- 低血圧、腎機能悪化、低Na血症
- 肝性脳症
- 消化管出血
- 原因不明の全身状態悪化
穿刺を「明日の回診後」に延ばすと、SBPの治療開始が遅れます。入院時評価に組み込みます。
最初に提出する腹水検査
- 細胞数・白血球分画
- 腹水Alb
- 腹水総蛋白
- 培養
培養は、採取した腹水をベッドサイドで好気・嫌気の血液培養ボトルに接種すると検出率が上がります。血清Albは同時刻に採り、SAAGを計算します。
臨床状況に応じ、細胞診、アミラーゼ、中性脂肪、LDH、糖、抗酸菌検査などを追加します。すべてを routine に提出しません。
SBPはPMN 250/μL以上で疑う
腹水中の多形核白血球(PMN)が250/μL以上なら、培養結果を待たずSBPとして経験的治療を開始します。培養陰性でもPMN基準を満たせば治療対象です。
血性腹水では赤血球由来の白血球混入を補正する場合がありますが、重症患者の治療を計算待ちで遅らせません。抗菌薬は地域の耐性、院内感染リスク、既往培養、重症度に合わせます。
SBPでは腎障害リスクを下げるためアルブミン投与が推奨される患者がいます。適応と用量は腎機能・ビリルビンなどを踏まえ、院内プロトコルで確認します。
二次性腹膜炎を見逃さない
消化管穿孔や腹腔内感染による二次性腹膜炎はsource controlが必要です。次を認めたら疑います。
- 強い局在痛、腹膜刺激徴候
- 複数菌が培養される
- 抗菌薬への反応不良
- 腹水総蛋白高値、糖低値、LDH高値
- 画像で穿孔、膿瘍、虚血
SBPと決めつけて抗菌薬だけを続けず、造影CTと外科相談を急ぎます。
SAAGをどう読むか
SAAG = 血清Alb − 腹水Albです。
| SAAG | 主な機序 | 代表的原因 |
|---|---|---|
| 1.1 g/dL以上 | 門脈圧亢進 | 肝硬変、心不全、Budd–Chiari症候群 |
| 1.1 g/dL未満 | 門脈圧亢進以外 | 腹膜播種、結核性腹膜炎、膵性腹水など |
高SAAGの中で腹水総蛋白が比較的高ければ心原性を考え、低ければ肝硬変を支持します。ただし閾値は絶対ではなく、心エコー、肝画像、尿蛋白、病歴と統合します。
穿刺前にINRを一律補正しない
肝硬変ではINRや血小板数だけで穿刺出血リスクを正確に予測できません。通常の診断的・治療的穿刺前に、新鮮凍結血漿や血小板を一律投与することは推奨されません。
明らかなDIC、重度線溶亢進、穿刺部位の感染、著しい腸管拡張などは個別に評価します。超音波で血管を避け、安全な部位を選びます。妊娠や腹部手術歴だけで絶対禁忌とはしません。
治療的穿刺とアルブミン
緊満腹水では大量腹水穿刺が症状改善に有効です。大量に排液した場合、循環不全と腎障害を予防するためアルブミン補充を行います。一般に5 Lを超える排液では、除去1 Lあたり6〜8 g程度が目安ですが、製剤、腎・心機能、院内手順に合わせます。
穿刺後は血圧、脈拍、腎機能、Na、穿刺部位を再評価します。
よくある失敗
- 腹痛・発熱がないのでSBPを除外する
- 肝硬変患者の入院時穿刺を翌日に回す
- 培養を通常容器だけに提出する
- PMN 250/μL以上でも培養結果を待つ
- SAAGを腹水総蛋白と混同する
- INR高値を理由に一律で血漿を投与する
- SBP治療不応時に二次性腹膜炎を再評価しない
カルテ記載例
「肝硬変、腹水あり。発熱はないが腎機能悪化と脳症で入院しておりSBPを除外できない。超音波で安全な穿刺部位を確認し、細胞数・分画、Alb、総蛋白を提出。同時刻の血清Albを採取し、腹水はベッドサイドで血液培養ボトルへ接種する。PMN 250/μL以上なら培養結果を待たず治療開始する。」
Take-home message
- 新規腹水と肝硬変患者の入院・悪化では早期穿刺
- 最初は細胞分画、Alb、総蛋白、ベッドサイド培養
- PMN 250/μL以上なら培養陰性でもSBPとして治療する
- SAAGは門脈圧亢進の有無、総蛋白は原因の絞り込みに使う
- 穿刺前のINR・血小板補正は一律に行わない