結論:「原因不明の肝硬変」で終わらせず、治療可能・家族へ影響する原因を探す

肝硬変を新たに認めたら、重症度と合併症を評価すると同時に原因を調べます。原因が分かれば、抗ウイルス治療、禁酒、代謝管理、免疫抑制、胆汁うっ滞性疾患の治療、家族スクリーニングなどに結びつくからです。

最初の枠組みは次のとおりです。

  1. B型・C型肝炎
  2. アルコール関連肝疾患
  3. MASLD/MASH(旧NAFLD/NASH)
  4. 自己免疫性・胆汁うっ滞性疾患
  5. 薬剤・サプリメント
  6. 遺伝性・代謝性疾患
  7. 血管・うっ血性疾患

複数の原因が重なることも多く、「お酒を飲むからアルコール性」で検索を止めないことが大切です。

まず肝硬変らしさと緊急性を確認する

肝硬変を示唆する所見

  • 血小板減少、Alb低下、PT-INR延長
  • 脾腫、側副血行路、肝表面不整
  • 腹水、静脈瘤、肝性脳症
  • 肝硬度上昇など非侵襲的線維化評価

組織診断がなくても、臨床・画像・非侵襲的検査の組み合わせで肝硬変として管理を開始することがあります。

入院中に急ぐ病態

消化管出血、意識変容、感染を伴う腹水、黄疸増悪、急性腎障害、著明な凝固異常があれば、原因精査より先に非代償性イベントへ対応します。腹水が新規または増悪した入院患者では、診断的腹腔穿刺を早期に検討します。

問診が原因診断の半分

飲酒は「飲む・飲まない」で終わらせない

種類、1回量、頻度、期間、直近の変化を数値化します。本人だけでなく、許可を得て家族から補足できることもあります。アルコールとMASLDは併存します。

薬剤・サプリメントを開始日まで確認

処方薬、市販薬、漢方、筋力増強・減量サプリ、健康食品を聞きます。現在中止されていても、発症前に使っていた薬が重要です。

代謝・家族・曝露歴

  • 肥満、2型糖尿病、脂質異常、高血圧
  • 輸血歴、注射薬物、針刺し、透析、母子感染リスク
  • 自己免疫疾患、炎症性腸疾患
  • 若年肝疾患、原因不明の神経症状、家族の肝疾患
  • 心不全、先天性心疾患、血栓症

初期スクリーニング

すべての患者で優先する項目

  • HBs抗原、HCV抗体。結果に応じHBV DNA・HCV RNAなどへ
  • 飲酒量の定量化
  • BMI、腹囲、糖代謝、脂質、血圧
  • AST、ALT、ALP、γGTP、Bil、Alb、PT-INR、CBC
  • 腹部超音波を基本とした肝・胆道・門脈・脾臓評価
  • 薬剤・サプリメント一覧

「AST/ALTが正常だから進行肝疾患ではない」とは言えません。肝硬変では逸脱酵素が目立たないことがあります。

肝障害パターンと背景で追加する検査

疑う病態 手掛かり 追加検査の例
自己免疫性肝炎 女性、他の自己免疫疾患、肝細胞障害型 ANA、ASMA、IgG、必要なら肝生検
原発性胆汁性胆管炎 ALP優位、掻痒、女性 AMA、IgM、画像で閉塞除外
原発性硬化性胆管炎 胆汁うっ滞、炎症性腸疾患 MRCPなど胆管画像
鉄過剰 家族歴、糖尿病、皮膚色素沈着 フェリチン、トランスフェリン飽和度
Wilson病 若年、神経・精神症状、溶血 セルロプラスミン、尿中銅、眼科評価等
α1アンチトリプシン欠乏 若年、肺気腫、家族歴 血中濃度・表現型/遺伝学的検査
うっ血・血管性 心不全、血栓、腹痛・腹水 心エコー、Doppler、造影画像

検査は年齢、病型、事前確率で選びます。フェリチンは炎症でも上がり、セルロプラスミンは肝不全・低栄養でも下がるため、単独で診断しません。

MASLD/MASHは現在の名称で理解する

MASLDは、肝脂肪化に心代謝リスクが合併し、ほかの原因と飲酒量を評価して診断する枠組みです。以前のNAFLD、NASHは現在それぞれMASLD、MASHへ移行しています。

重要なのは名称より、代謝リスクを治療し、線維化を層別化することです。FIB-4などの非侵襲的指標は紹介・追加検査の判断に使えますが、高齢、急性炎症、血小板に影響する別疾患などで解釈が変わります。肝硬変が疑われる場合は、単一スコアだけで除外しません。

肝生検を考える場面

  • 非侵襲的検査が矛盾する
  • 自己免疫性肝炎など組織が治療方針を変える
  • 複数病因が疑われる
  • 原因不明で、診断が管理に影響する

腹水や凝固異常があれば経皮生検の出血リスクを評価し、経頸静脈的生検を含め肝臓専門医と相談します。

原因検索と並行する合併症評価

原因が判明するまで、肝硬変の管理を待ってはいけません。

  • 肝細胞癌サーベイランス
  • 食道胃静脈瘤・門脈圧亢進の評価
  • 腹水・自然発症細菌性腹膜炎
  • 肝性脳症
  • 腎機能、低Na血症
  • 栄養・サルコペニア、ワクチン

具体的な検査間隔や治療は肝硬変の病期と施設方針に従います。

上級医への報告例

「腹水と脾腫、血小板8万で新規肝硬変を疑います。緊急合併症として脳症・出血はなく、診断的腹水検査を予定しています。HBs抗原・HCV抗体、飲酒量、代謝リスク、薬剤を確認し、ALP優位なのでAMA・IgMと胆管画像も追加します。HCCと静脈瘤評価も並行して消化器内科へ相談します」

よくある失敗

  • 飲酒歴だけで病因を決める
  • AST・ALTが低いので慢性肝疾患を否定する
  • 肥満がないためMASLDを除外する
  • 自己抗体やフェリチンの単独異常で確定する
  • 原因検索に集中し、腹水・脳症・HCC・静脈瘤評価を遅らせる
  • 古いNASHという名称と現在のMASLD/MASHを混同する

Take-home message

  • ウイルス、飲酒、代謝、自己免疫、胆汁うっ滞、薬剤、遺伝、血管を系統的に調べる
  • 肝硬変は複数病因が重なることがある
  • 年齢・肝障害パターン・家族歴で追加検査を選ぶ
  • 原因不明で治療方針が変わるなら肝生検を検討する
  • 病因検索とHCC・静脈瘤・腹水・脳症の評価を並行する