結論:吸収不良症候群は病名ではなく、原因を4経路に分けて考える

吸収不良症候群は、栄養素の消化・吸収・運搬が障害された結果として、慢性下痢、脂肪便、体重減少、浮腫、貧血、ビタミン・微量元素欠乏などを来す病態の総称です。

原因を次の4経路に分けると、検査を選びやすくなります。

  1. 管腔内消化の障害:膵外分泌不全、胆汁酸不足
  2. 小腸粘膜の障害:セリアック病、Crohn病、薬剤、感染など
  3. 解剖・細菌叢の変化:胃・腸管術後、短腸、SIBO
  4. リンパ・蛋白輸送の障害:腸リンパ管拡張症、蛋白漏出性胃腸症

浮腫と低アルブミン血症を見ただけで吸収不良と決めず、まず心・腎・肝疾患、炎症、低栄養を評価します。

最初に重症度を評価する

次があれば入院、消化器科・栄養チームへの早期相談を考えます。

  • 循環不全、重度脱水、電解質異常
  • 著明な体重減少・筋力低下
  • 重度低アルブミン血症と全身浮腫・胸腹水
  • 出血、発熱、強い腹痛、閉塞症状
  • 重度貧血、凝固異常、神経症状
  • 再栄養症候群の高リスク

栄養補充は必要ですが、高度低栄養ではリン・K・Mgと体液量を監視し、急速な再栄養を避けます。

本当に吸収不良らしいか

症状

  • 悪臭の強い、量が多く、油が浮く便
  • 慢性水様下痢、腹部膨満
  • 意図しない体重減少
  • 全身浮腫
  • 舌炎、口角炎、骨痛、夜盲、出血傾向、末梢神経症状

検査の組み合わせ

  • Alb、総蛋白
  • CBC、鉄、フェリチン、葉酸、ビタミンB12
  • Ca、P、Mg、25-OHビタミンD
  • PT-INR、必要に応じ脂溶性ビタミン
  • 腎機能・尿蛋白、肝機能、CRP

単一の欠乏では摂取不足も多く、複数の栄養素欠乏と症状・便性状を統合します。

病歴で検査の方向を決める

  • 胃切除、膵切除、小腸切除、盲係蹄などの手術歴
  • 慢性膵炎、膵癌、嚢胞性線維症など膵疾患
  • 胆道閉塞、胆汁酸代謝へ影響する疾患
  • 海外渡航、井戸水、免疫不全
  • オルメサルタン、コルヒチン、免疫抑制薬など薬剤
  • 放射線治療歴
  • 自己免疫疾患、炎症性腸疾患
  • 食事内容、飲酒、意図的な除去食

胃切除後は、鉄・ビタミンB12欠乏、ダンピング、膵胆汁との混和不良、SIBOなどが重なることがあります。

原因別の初期検査

1.膵外分泌不全を疑う

慢性膵炎歴、膵切除、上腹部痛、脂肪便が手掛かりです。便中エラスターゼは非侵襲的な補助検査ですが、水様便では希釈により偽低値になることがあり、結果を便性状と画像所見に合わせて解釈します。膵CT・MRIなども病歴に応じて検討します。

2.セリアック病を疑う

慢性下痢、鉄欠乏、骨量低下、自己免疫疾患、家族歴などで考えます。原則としてグルテンを摂取している間にtTG-IgAと総IgAを測定し、IgA欠乏ならIgG系検査を使います。成人の確定では上部内視鏡による十二指腸複数生検を消化器科と検討します。

検査前に自己判断でグルテン除去食を始めると、血清・組織検査が陰性化し診断が難しくなります。

3.SIBOを疑う

腸管手術、狭窄、運動障害、盲係蹄など事前確率が高い患者で考えます。グルコースまたはラクツロース呼気試験は非侵襲的ですが、腸管通過が速いと偽陽性になるなど限界があります。膨満だけで安易にSIBOと診断し、抗菌薬を繰り返さないことが重要です。

4.蛋白漏出性胃腸症を疑う

低アルブミン血症が強い一方、尿蛋白・肝合成能低下・摂取不足では説明しにくい場合に考えます。便中α1アンチトリプシンクリアランスなどを用い、心疾患、リンパ管障害、胃腸粘膜疾患を検索します。

便検査と内視鏡の役割

便中脂肪の定性検査は脂肪便の手掛かりになりますが、食事と採便条件に影響されます。必要に応じ定量評価を検討します。慢性下痢で感染リスクがあれば、Giardiaなど病歴に合わせた便検査を選びます。

上部・下部内視鏡では見た目が軽微でも、十二指腸や回腸・大腸の生検が診断に重要なことがあります。依頼時にセリアック病、薬剤性、Whipple病、CMV、アミロイドーシスなどの鑑別を病理医へ伝えます。

低アルブミン血症の整理

機序 確認すること
産生低下 肝不全、重度低栄養、炎症
腎から喪失 尿蛋白、尿蛋白/Cr比
消化管から喪失 下痢、α1アンチトリプシンクリアランス、内視鏡
血管外へ移動 心不全、敗血症、毛細血管漏出

Alb値だけでアルブミン製剤の適応を決めず、原因、循環、浮腫、臓器障害を評価します。

上級医への報告例

「胃切除後で3か月の下痢、8kgの体重減少と浮腫があります。Alb 2.0 g/dLですが尿蛋白は少なく、心・肝疾患だけでは説明困難です。鉄・B12・葉酸・脂溶性ビタミンを評価し、便中脂肪と膵外分泌、SIBO、蛋白漏出性胃腸症を順に調べます。再栄養リスクが高いため栄養チームへ相談します」

よくある失敗

  • 低Albをすべて摂取不足と考える
  • 心・腎・肝疾患を除外せず吸収不良と診断する
  • セリアック検査前にグルテン除去を始める
  • 水様便での便中エラスターゼ低値を確定診断にする
  • 膨満だけでSIBOとし、呼気試験の限界を考えない
  • 栄養補充を急ぎ、再栄養症候群を見落とす

Take-home message

  • 吸収不良を管腔内消化・粘膜・解剖/SIBO・リンパ/蛋白漏出に分ける
  • 浮腫では心・腎・肝・炎症を先に評価する
  • 欠乏栄養素の組み合わせが障害部位の手掛かりになる
  • 検査は便性状、手術歴、薬剤、宿主背景で選ぶ
  • 高度低栄養では原因検索と安全な栄養再建を同時に進める