結論:妊娠を確認し、臨床基準を満たせば検査結果を待たず治療する
骨盤内炎症性疾患(PID)は、子宮頸管から子宮内膜、卵管、卵巣、腹膜へ及ぶ上行性感染の総称です。症状が軽く、発熱や炎症反応が乏しい例もあります。治療の遅れは卵管性不妊、異所性妊娠、慢性骨盤痛につながるため、診断の特異度を上げすぎず、疑えば早期に経験的治療します。
同時に、妊娠可能年齢の下腹部痛では妊娠反応を最初に確認し、異所性妊娠、卵巣・付属器捻転、虫垂炎など緊急疾患を除外します。
最初の10分
- バイタル、敗血症、腹膜刺激症状を評価
- 尿または血中hCGを確認
- 異所性妊娠、捻転、虫垂炎、尿路感染などを並行鑑別
- 痛み、出血、帯下、性交痛、最終月経、避妊、妊娠希望を確認
- プライバシーを確保して性歴を聴取
性歴は5Ps、すなわちPartners、Practices、Protection from STIs、Past history of STIs、Pregnancy intentionを参考に、価値判断を挟まず必要な範囲で聞きます。パートナー同席時は、本人だけで話せる時間を作ります。
経験的治療を始める最小基準
他に明らかな原因がない下腹部・骨盤痛があり、内診で次のいずれかを認めれば、PIDの経験的治療を低い閾値で開始します。
- 子宮頸部移動痛
- 子宮圧痛
- 付属器圧痛
発熱、膿性帯下、頸管脆弱性、白血球増多、炎症反応上昇、淋菌・クラミジア検査陽性は診断を支持しますが、必須ではありません。NAAT陰性でも上部生殖器感染を否定できません。
必要な検査
- 妊娠反応
- 淋菌・クラミジアNAAT。部位は曝露歴に合わせる
- HIV、梅毒検査
- 尿検査、血算、炎症反応などを病態に応じて
- 重症・敗血症では血液培養
- 腟分泌物の評価を可能な範囲で
経腟超音波は、卵管卵巣膿瘍、異所性妊娠、捻転などの評価に有用です。画像が正常でもPIDを否定できません。
外来治療の一例
CDC 2021では成人外来例の標準例として、セフトリアキソン500 mg筋注単回(体重150 kg以上では1 g)に、ドキシサイクリン100 mgを1日2回14日間、メトロニダゾール500 mgを1日2回14日間併用するレジメンを示しています。
日本での実際の処方は、承認用法、薬剤入手性、地域の耐性、アレルギー、妊娠可能性、日本のガイドラインを確認し、産婦人科・感染症科と調整します。妊娠中はドキシサイクリンを含む外来レジメンを自己判断で使用せず、入院と専門診療を検討します。
入院を考える条件
- 外科的緊急疾患を除外できない
- 卵管卵巣膿瘍
- 妊娠
- 重症、悪心嘔吐、高熱、敗血症
- 内服困難、アドヒアランスやフォローが難しい
- 外来抗菌薬で臨床的に改善しない
卵管卵巣膿瘍では入院、静注抗菌薬、画像フォローを行い、改善不良ならドレナージや手術を検討します。
72時間以内に再評価する
外来治療後は72時間以内に、解熱、圧痛、腹痛、全身状態が改善しているか確認します。改善しなければ、診断の見直し、入院、画像、膿瘍、耐性・服薬状況を再評価します。
治療完了と症状消失まで性交を控え、パートナーの検査・治療を手配します。淋菌・クラミジア関連PIDでは再感染が多いため、治療後約3か月の再検査を計画します。
よくある落とし穴
- 妊娠反応の前にPIDと決める
- 発熱や炎症反応がないため否定する
- NAAT結果を待って抗菌薬開始を遅らせる
- 画像正常をPID否定に使う
- パートナー対応と72時間再診を組まない
- 性歴を同席者の前で聞く
適用範囲
本稿は成人のPID疑いに対する初期診療です。妊娠、重症感染、薬剤アレルギー、小児・若年者への対応では、守秘・安全確保を含めて専門科と施設手順を優先してください。