結論:梅毒診療は、検査2系統・病期・神経/眼/耳症状・性的接触歴をセットで考える

梅毒は発疹、リンパ節腫脹、肝障害、神経症状など多彩な姿をとります。検査陽性だけで活動性や病期は決まりません。梅毒トレポネーマ抗体と非トレポネーマ試験(RPRなど)を組み合わせ、過去の治療歴、症状、接触時期を統合します。

性的接触歴は「聞きにくい付加情報」ではなく、検査部位、病期、再感染リスク、パートナー対応を決める診療情報です。

最初の10分

  • 主訴だけでなく皮膚、口腔、陰部、肛門、手掌・足底を診る
  • 神経、眼、耳症状を必ず聞く
  • 妊娠可能性・妊娠中かを確認する
  • 梅毒トレポネーマ抗体と定量RPRを確認・提出する
  • HIVと他の性感染症検査を提案する
  • 性的接触歴を、許可を得て中立的に聴取する
  • 治療歴と過去のRPR値を探す

視力低下、眼痛、難聴、耳鳴り、脳神経症状、髄膜炎症状、認知・人格変化があれば、病期にかかわらず神経梅毒・眼梅毒・耳梅毒を疑い、感染症科と眼科/耳鼻科へ早期相談します。

性的接触歴は5Psで聞く

まず守秘と目的を説明し、許可を得ます。

「適切な検査部位と治療を決めるため、すべての患者さんに性的な接触について伺っています。答えにくい質問は飛ばして構いません。聞いてもよいですか」

Partners:パートナー

  • 最近のパートナーの人数
  • パートナーの性別・性器の種類
  • 新しいパートナー、梅毒と診断されたパートナー

Practices:行為

  • 腟、肛門、口腔を使う接触
  • 挿入する側・される側
  • 性具の共有

「男性/女性と性交しましたか」だけでは検査すべき咽頭・直腸を見落とします。患者やパートナーの性自認を推測せず、曝露した解剖学的部位を確認します。

Protection:予防

  • コンドームやバリアを、どの行為でどの程度使うか
  • HIV曝露前予防など

Past STIs:性感染症歴

  • 過去の梅毒・淋菌・クラミジア・HIV検査と治療
  • パートナーの感染、治療後の再曝露

Pregnancy intention:妊娠に関する希望

  • 妊娠中・妊娠可能性
  • 妊娠希望と避妊

検査2系統をどう読むか

トレポネーマ抗体 RPR 主な解釈
陽性 陽性 活動性梅毒、既治療後の残存、再感染を臨床と比較
陽性 陰性 既感染・既治療、早期感染、晩期、偽陽性を追加検査で判断
陰性 陽性 RPR偽陽性、極早期感染などを再検・確認

トレポネーマ抗体は治療後も長く陽性が続くため、治癒判定には使いません。RPRは活動性と治療反応の追跡に使います。同じ検査法・同じ単位で推移を比較します。

臨床的に梅毒を強く疑うのにRPR陰性なら、感染早期、プロゾーン現象、検査法の違いを検査室と相談します。逆アルゴリズムで結果が不一致なら、異なるトレポネーマ試験で確認します。

病期を決める

  • 第1期:通常は無痛性の硬性下疳、所属リンパ節腫脹
  • 第2期:全身性発疹、手掌・足底病変、粘膜病変、扁平コンジローマなど
  • 早期潜伏:無症状で、感染時期を直近と合理的に特定できる
  • 後期潜伏/期間不明:感染時期を特定できない
  • 第3期:ゴム腫、心血管病変など

RPRが高いことだけで早期潜伏とは決めません。病期が不明なら、治療不足を避けるため期間不明として扱うことがあります。

神経・眼・耳梅毒はどの病期でも起こり得ます。RPR値だけを理由に腰椎穿刺を routine に行わず、神経所見と症状で適応を判断します。

治療とフォロー

治療の第一選択はペニシリン系で、病期によりベンザチンペニシリンGの回数が異なります。神経・眼・耳梅毒は別の静注治療が必要です。国内で使用可能な製剤と最新の日本性感染症学会ガイド、院内手順を確認します。

妊娠中は胎児感染予防効果が確立している治療がペニシリンであるため、アレルギーがあれば専門施設で脱感作を検討します。

治療後はRPR定量値と症状を追跡します。治療直後の発熱・悪寒・頭痛はJarisch–Herxheimer反応の可能性がありますが、アナフィラキシーや感染悪化と区別します。

パートナーへの通知・検査・治療、HIV・淋菌・クラミジアなどの検査、再感染予防を一緒に計画します。梅毒は診断時に届出が必要な感染症であり、最新の届出基準を確認します。

よくある失敗

  • RPR陽性だけで梅毒と断定する
  • トレポネーマ抗体陽性だけで再治療する
  • RPRの高さだけで病期を決める
  • 性的指向を推測し、曝露部位を聞かない
  • 神経・眼・耳症状を確認しない
  • 妊娠可能性とパートナー対応を後回しにする

カルテ記載例

「守秘と質問目的を説明し同意を得て性的接触歴を聴取。過去12か月に新規パートナーあり、口腔・腟接触あり。過去の梅毒治療なし。全身皮疹と手掌病変、定量RPR・トレポネーマ抗体陽性から第2期梅毒を疑う。神経・眼・耳症状なし。HIVおよび曝露部位に応じたSTI検査を提案し、国内最新指針に沿って治療・届出・パートナー対応・RPRフォローを計画する。」

Take-home message

  • 梅毒はトレポネーマ抗体と定量RPRの2系統で読む
  • 性的接触歴は5Psと解剖学的曝露部位で聞く
  • RPR値だけで病期や腰椎穿刺適応を決めない
  • 神経・眼・耳症状は全病期で確認する
  • 治療後RPR、他STI、パートナー、妊娠、届出までが診療