結論:まず補液、次に「検査・抗菌薬が必要な患者」を選ぶ
急性下痢の多くは自然軽快します。全員に便培養や抗菌薬が必要なわけではありません。一方、血便、強い腹痛、敗血症、免疫不全では、腸管出血性大腸菌(STEC)を含む侵襲性感染や非感染性疾患を見逃せません。
研修医の初期対応は次の順番です。
- 脱水・ショック・腹膜刺激徴候を評価する
- 感染性に似る外科・血管・内分泌疾患を除外する
- 血便、発熱、強い腹痛、敗血症、宿主背景で便検査を選ぶ
- 経口補水を基本とし、抗菌薬は適応がある患者に限定する
- STECが疑われる血性下痢では、抗菌薬と止瀉薬を安易に使わない
最初に重症度を見る
- 血圧、脈拍、呼吸数、意識、末梢灌流
- 口腔乾燥、尿量、起立症状、体重変化
- 腹膜刺激徴候、腹部膨満、腸蠕動音
- 血便・黒色便、反復嘔吐
- 高齢、妊娠、免疫抑制、腎疾患、炎症性腸疾患
ショック、意識障害、重度脱水、腹膜刺激徴候、麻痺性イレウスがあれば、静脈路確保、補液、血液検査、画像、外科・救急への相談を急ぎます。
「胃腸炎」で閉じる前に考える疾患
下痢・嘔吐・腹痛は感染性腸炎以外でも起こります。
- 虫垂炎、腸閉塞、腸管虚血、消化管穿孔
- 炎症性腸疾患
- 薬剤性下痢、下剤
- 甲状腺機能亢進、副腎不全
- 骨盤内炎症性疾患、異所性妊娠
- 心筋梗塞など腹部症状を呈する疾患
痛みが便回数に比べて強い、局在する、反跳痛がある場合は、単純な感染性下痢と考えず画像を検討します。
問診は曝露と時間軸を具体的に
- 発症日、便回数、性状、血液・粘液
- 発熱、腹痛の部位、嘔吐、尿量
- 同じ食事をした人の発症
- 生肉・加熱不十分な肉、卵、魚介、未殺菌乳、井戸水
- 海水・汽水への曝露、海外渡航
- 動物、保育・介護施設、医療・調理業務
- 直近の抗菌薬、入院、胃酸分泌抑制薬
- 性行動、免疫抑制
食事歴は患者が後から思い出しにくいため、初診時に数日前まで遡って聞きます。ただし最後に食べた物が原因とは限りません。
便検査が必要な患者
IDSAは、下痢に次のいずれかを伴う場合、Salmonella、Shigella、Campylobacter、Yersinia、C. difficile、STECなどを対象とした便検査を推奨しています。
- 発熱
- 血性または粘液性便
- 強い腹痛・圧痛
- 敗血症所見
右下腹部痛が持続し虫垂炎様ならYersinia、米のとぎ汁様の大量下痢や生の魚介・汽水曝露ならVibrioを検討します。抗菌薬歴・医療関連下痢では、便性状と臨床像が合う場合にC. difficile検査を行います。
重症の全身症、腸チフス疑い、免疫不全などでは血液培養も検討します。多項目PCRが陽性でも、生菌・発症原因を必ずしも意味しないため、症状と曝露に合わせて解釈します。
STECを見逃さない
血性下痢、強い腹痛、とくに高熱が目立たない場合はSTECを考えます。O157培養だけでなく、Shiga toxinまたは遺伝子検査が必要です。
STEC O157やShiga toxin 2産生株、または毒素型が不明な段階では、抗菌薬がHUSリスクを高める可能性があるため、IDSAは抗菌薬を避けるよう推奨しています。止瀉薬も避けます。
STECが判明・強く疑われる場合は、Hb、血小板、Cr、電解質を経時的に確認し、溶血・血小板減少・急性腎障害を早期に捉えます。感染症法に基づく届出や就業・登園の扱いは、院内感染管理部門と保健所へ確認します。
治療の基本
補液
飲める患者では経口補水液が第一選択です。少量ずつ反復し、嘔吐があっても再挑戦します。ショック、重度脱水、経口摂取不能では等張晶質液を使い、循環・尿量・電解質を再評価します。
食事
脱水が改善したら、耐えられる範囲で早期に食事を再開します。長い絶食は不要です。
抗菌薬
免疫正常成人の血性下痢に、結果待ちで経験的抗菌薬を一律投与することは推奨されません。例外として、医療機関で確認された発熱と赤痢様症状、海外渡航後の高熱・敗血症、重症免疫不全などがあります。薬剤は渡航歴、地域耐性、腎機能、病原体で選びます。
止瀉薬
成人の非血性・非炎症性水様下痢で補助的に使う場合はありますが、発熱、血便、STEC疑い、C. difficile、重症腸炎では避けます。
入院患者の新規下痢
入院3日以降の下痢では、C. difficileに加え、下剤、経腸栄養、薬剤、便塞栓に伴う溢流性下痢を確認します。病原体を疑う場合は接触予防策を先行し、検査対象は原則として新規の説明困難な未形成便がある患者です。
上級医への報告例
「3日前からの血性下痢と強い腹痛があります。循環は安定し腹膜刺激徴候はありませんが、Cr上昇と脱水があります。便培養、多項目検査とShiga toxinを提出し、STECの可能性があるため現時点では抗菌薬・止瀉薬を保留します。補液し、Hb・血小板・Crを経時評価します」
よくある失敗
- 全例を感染性胃腸炎として画像・外科疾患を考えない
- 全員に便培養と抗菌薬を行う
- 血性下痢でSTEC検査前に抗菌薬・止瀉薬を使う
- PCR陽性だけで原因病原体と断定する
- 下痢が止まるまで絶食を続ける
- 届出・感染対策・就業制限を自己判断する
Take-home message
- 急性下痢はまず循環、脱水、腹膜刺激徴候を評価する
- 血便、発熱、強い腹痛、敗血症では選択的に便検査を行う
- STEC疑いではShiga toxinを調べ、抗菌薬・止瀉薬を安易に使わない
- 経口補水を基本に、重症例は静脈補液と再評価を行う
- 感染対策・届出は院内担当者と保健所へ確認する