結論:急性腹症では「一番ありそうな病気」だけでなく、致死的・治療可能な病気を同時に探す

急性腹痛の初期診療は3Cで考えます。

  • Common:頻度の高い疾患
  • Critical:見逃すと致死的な疾患
  • Curable:時間内に介入すれば救える疾患

正常なバイタル、採血、単純CTは、発症早期の腸間膜虚血、大動脈疾患、消化管穿孔、異所性妊娠などを完全には除外しません。鎮痛後の再診察と、診断タイムアウトを予定に組み込みます。

最初の10分

  1. ABCDE、ショック、敗血症、腹膜刺激を評価する
  2. モニター、静脈路、絶食、適切な鎮痛・制吐、必要に応じ輸液・輸血
  3. 妊娠可能性があれば本人申告だけに頼らず検査を検討する
  4. 発症様式、移動、最大時の痛み、失神、出血、手術・血管歴、薬剤を聞く
  5. 腹部だけでなく胸部、背部、鼠径、精巣、骨盤、末梢脈を診る
  6. 不安定、腹膜炎、出血なら外科・産婦人科・血管外科へ早期連絡する

鎮痛薬は診断を隠すから我慢させる、という考えは不適切です。鎮痛しつつ、投与前後で所見を記録します。

まず除外する「腹部以外を含む」致死的疾患

  • 腹部大動脈瘤破裂、大動脈解離
  • 急性腸間膜虚血
  • 消化管穿孔、絞扼性腸閉塞
  • 異所性妊娠破裂、卵巣茎捻転
  • 急性冠症候群、心膜炎
  • 肺塞栓、下葉肺炎、気胸
  • 精巣捻転
  • 副腎クリーゼ、糖尿病性ケトアシドーシス

高齢者、免疫抑制、妊娠、抗凝固中では腹膜刺激や炎症反応が乏しいことがあります。

病歴で重視すること

突然最大になった痛みは血管破綻・閉塞、捻転、穿孔を考えます。「痛みが所見に比して強い」は腸間膜虚血の古典的手掛かりですが、進行後は腹膜炎になります。

心房細動、動脈硬化、最近の心筋梗塞、低心拍出、透析、血管作動薬、血栓傾向があれば腸間膜虚血の閾値を下げます。上腸間膜動脈解離を含む血管病変では、突然の上腹部痛・背部痛と血圧、他血管所見を合わせます。

検査の読み方:正常値で止まらない

CBC、電解質、腎肝機能、リパーゼ、CRP、尿、妊娠反応、乳酸、血液ガス、心電図・トロポニンなどを仮説に応じて選びます。

  • 正常乳酸は早期腸間膜虚血を除外しない
  • 正常リパーゼは発症時期により膵炎を完全除外しない
  • 正常Hbは急性出血直後にあり得る
  • 血尿なしで尿路結石を除外できない
  • トロポニン初回陰性だけでACSを除外しない

検査値は時間軸と再検計画まで含めて解釈します。

造影CTをためらわない場面

血管病変、腸管虚血、膿瘍、活動性出血などが疑われる場合、造影CT/CTAは診断と治療計画に重要です。腎機能低下は造影リスクを検討する要素ですが、生命を脅かす疾患の診断を不当に遅らせる理由にはしません。放射線科・専門科と、造影の利益と代替を迅速に相談します。

非造影CTが正常でも、血管内腔や腸管灌流は十分評価できません。疑う疾患に合った撮像相を依頼します。

急性腸間膜虚血:時間依存の外科・血管救急

WSESは疑った時点でCTAを遅らせないことを重視しています。強い腹痛、塞栓リスク、アシドーシス・乳酸上昇、腸管壁・血管所見から疑い、外科・血管内治療チームへ早期相談します。腹膜炎なら腸管壊死を想定し、緊急手術評価が必要です。

抗凝固、血圧目標、保存治療を全例に固定しません。塞栓、血栓、非閉塞性、静脈血栓、動脈解離で治療が異なります。

診断エラーを減らす「60秒タイムアウト」

検査結果がそろった時と帰宅前に、次を声に出します。

  1. 最も考える診断は何か。根拠は何か
  2. 最悪の診断は何か。十分に下がったか
  3. 説明できていない所見は何か
  4. 初期診断に反するデータを探したか
  5. 患者属性や痛みの訴え方に引きずられていないか
  6. 悪化したら、いつ、どこへ、何を目安に戻るか

アンカリング、早期閉鎖、確証バイアス、検索満足、属性バイアスをチームで言語化します。

帰宅可能な患者でも安全網を作る

診断が確定しない腹痛は珍しくありません。症状が改善し、危険疾患の確率が十分低く、経口摂取と移動が可能で、再診手段があることを確認します。再診基準は「悪化したら」ではなく、持続/増悪する痛み、発熱、嘔吐、失神、血便・吐血、妊娠可能性など具体的に伝えます。

カルテ記載例

発症:突然/徐々、最大時刻、移動、持続/間欠
Critical differential:AAA/解離、虚血、穿孔、絞扼、婦人科、ACS/PE
腹膜刺激:、末梢脈:、鼠径/精巣/骨盤:
妊娠可能性・検査:
画像:造影の要否と撮像目的〔 〕
鎮痛前後の再診察:
診断タイムアウト:矛盾所見〔 〕、最悪診断の残存確率〔 〕
再受診基準を本人・家族へ説明

Take-home message

  • 急性腹症はCommon・Critical・Curableを並列に考える。
  • 正常バイタル、採血、単純CTだけで時間依存疾患を除外しない。
  • 血管・虚血を疑うなら目的に合った造影CT/CTAを急ぐ。
  • 鎮痛後に必ず再診察する。
  • 結果がそろった時と帰宅前に診断タイムアウトを行う。