結論:NOMIを疑う腹痛では、乳酸や腎機能を理由にCTAを遅らせない
非閉塞性腸間膜虚血(NOMI)は、主幹動脈の血栓や塞栓がなくても、低灌流と腸間膜血管攣縮によって腸管虚血・壊死を起こす病態です。ショック、心不全、透析、手術後、重症感染症、強い血管収縮薬投与中の患者が「説明しにくい腹痛や腹満」を示したら疑います。
検査値が派手になるまで待つと、救命可能な時間を失います。
最初の10分
- ABCDE、ショック、腹膜刺激徴候を確認する
- 発症時刻、痛みの変化、食事との関係、下血を聞く
- 心不全、心房細動、透析、血管疾患、手術歴、薬剤を確認する
- 静脈路、採血、交差適合、血液培養を準備する
- 外科・救急・放射線科へ早期連絡する
- 急性腸間膜虚血を疑えばCTAを急ぐ
- 蘇生、酸素化、広域抗菌薬、低灌流の是正を並行する
腹膜刺激徴候、穿孔、壊死を示す所見があれば、画像の追加や経過観察を重ねず緊急手術へ進む準備をします。
NOMIを疑う患者背景
- 敗血症性・心原性・出血性ショック
- 低心拍出量の心不全
- 維持透析、透析中の血圧低下
- 心臓・大血管・腹部手術後
- 重度脱水
- 高用量または長時間の血管収縮薬
- 高齢、全身性動脈硬化
ICU患者では鎮静、人工呼吸、意識障害のため痛みを訴えられません。新規腹満、経腸栄養不耐、胃残量増加、下痢・血便、説明できないアシドーシスや臓器障害を手掛かりにします。
症状と診察の落とし穴
「診察所見に比べて強い腹痛」は有名ですが、NOMIに常に見られるわけではありません。進行して神経が障害されると痛みが弱くなり、腹膜炎が出現した時点では壊死が進んでいることがあります。
腹部が軟らかい、鎮痛薬で痛みが軽くなった、という理由で除外しません。鎮痛は適切に行い、その前後の腹部所見と循環を記録します。
乳酸正常でも除外できない
白血球、CRP、乳酸、D-dimer、CK、血液ガスは重症度評価に役立ちますが、NOMIを単独で除外できるバイオマーカーはありません。早期は乳酸が正常なことがあります。乳酸上昇も、ショック、肝障害、薬剤など多くの原因で起こります。
「乳酸が低いから造影しない」ではなく、事前確率と時間経過で判断します。
CTAで何を見るか
造影CTは動脈相を含むCTAとして依頼し、放射線科へ疑っている病態を伝えます。
- 上腸間膜動脈の血栓・塞栓の有無
- 腸間膜動脈枝の狭小化、攣縮
- 腸管壁の造影低下または不均一
- 腸管壁肥厚/菲薄化、拡張
- 腸管気腫、門脈ガス
- 腹水、腸間膜浮腫
- 穿孔、遊離ガス
生命を脅かす腸管虚血が疑わしい場合、AKIは造影を遅らせる理由にはなりません。腎リスクを最小化しつつ、救命に必要な検査を優先します。
門脈ガスと胆道気腫の違い
門脈ガスは門脈血流に乗って肝辺縁へ分布しやすく、胆道気腫は肝門部に集まりやすいのが典型です。ただし分布だけで断定せず、手術歴、内視鏡処置、胆道吻合、括約筋切開などを確認します。
重要なのは、門脈ガスが「診断名」でも「自動的な手術適応」でもないことです。内視鏡後や腸炎など比較的良性の原因でも起こります。反対に、門脈ガスがなくても致死的な腸管虚血はあります。
腹膜刺激徴候、ショック、乳酸の推移、腸管壁造影低下、腸管気腫、穿孔などを総合し、外科チームと判断します。
初期治療
- 酸素化と循環の安定化
- 晶質液・血液製剤による適切な蘇生
- 広域抗菌薬
- 不整脈、心不全、脱水など低灌流原因の是正
- 可能な範囲で過剰な血管収縮を避ける
- 外科、血管内治療、集中治療の同時相談
血圧を保つため血管収縮薬が必要な患者もいます。単純に中止するのではなく、灌流圧、心拍出量、薬剤選択を集中治療チームと最適化します。施設によっては血管造影下の血管拡張薬投与を検討します。
腹膜炎、穿孔、不可逆的壊死が疑われれば、外科的探索と壊死腸管切除を遅らせません。
よくある失敗
- 乳酸正常でNOMIを除外する
- AKIを理由にCTAを先送りする
- 腹部が軟らかいので経過観察する
- 門脈ガスを見て、それだけで予後や手術を決める
- 血圧の数字だけを上げ、低心拍出量を評価しない
- 検査結果が揃うまで外科へ相談しない
カルテ記載例
「透析中の血圧低下後から持続する腹痛。腹部所見に比して疼痛が強く、乳酸は正常だがNOMIを除外できない。採血・血ガス・交差適合と蘇生を開始し、外科へ早期連絡。AKIはあるが診断遅延リスクが上回るため、動脈相を含むCTAを緊急依頼した。」
Take-home message
- NOMIはショック、心不全、透析、術後、血管収縮薬で疑う
- 早期の乳酸正常では除外できない
- 高い疑いがあればAKIでもCTAを遅らせない
- 門脈ガスは所見であり、病態と手術適応を単独では決めない
- 蘇生、抗菌薬、低灌流是正、外科相談を同時並行する