結論:AST・ALTの高さより、PT-INRと意識変化を急いで確認する

急性肝不全は、短期間に肝合成能が低下し、脳症、多臓器不全、死亡へ進み得る時間依存性の病態です。AST・ALTが数千でもPT-INRが保たれることはあり、逆にAST・ALTが下がっても肝細胞量の減少で悪化していることがあります。

著明な肝逸脱酵素上昇を見たら、研修医は次を同時に進めます。

  1. PT-INR、血糖、意識状態を直ちに確認する
  2. アセトアミノフェンを含む原因検索用検体を早期採取する
  3. 低血糖・循環不全・脳症・感染など合併症を治療する
  4. 肝臓専門医、集中治療、肝移植実施施設へ早期に相談する

定義を実臨床で使う

日本の急性肝不全は、正常肝または肝予備能が正常と考えられる肝に障害が起こり、初発症状から8週以内にPT 40%以下またはPT-INR 1.5以上を示す病態として扱われ、肝性脳症の有無と程度で分類されます。

国際的には、既存の肝硬変がない患者の急性肝障害に凝固障害と肝性脳症を伴うことを急性肝不全とする定義が一般的です。定義差はありますが、PT-INR上昇と意識変化を認めたら、定義の議論で紹介を遅らせないことが重要です。

最初の10分

ABCDEと血糖

気道、酸素化、循環を評価し、ベッドサイド血糖を直ちに測ります。低血糖は肝不全の重症所見であり、意識障害の原因にもなります。低血圧・低酸素・けいれんを速やかに是正します。

肝性脳症の評価

  • 睡眠リズム変化、注意力低下、見当識障害
  • 傾眠、興奮、羽ばたき振戦
  • 昏迷、昏睡

鎮静薬、低血糖、低Na、感染、頭蓋内病変など他原因も並行して除外します。進行する脳症では気道保護とICU管理を急ぎます。

すぐ採る検査

  • AST、ALT、Bil、ALP、γGTP、Alb、LDH
  • PT-INR、APTT、フィブリノゲン
  • 血糖、電解質、腎機能、P、Mg
  • CBC、血液ガス・乳酸、アンモニアは経時評価の補助
  • 血液型・不規則抗体、妊娠可能年齢では妊娠反応
  • 原因検索用の血清・血漿を治療前に保存

原因検索はチェックリストで漏れを防ぐ

薬剤・毒物

アセトアミノフェンは、本人が過量服用を否定しても血中濃度を測定します。処方薬、市販の感冒薬、鎮痛薬、漢方、サプリ、きのこ・自然毒、曝露時刻を確認します。薬剤性肝障害では直近に開始した薬だけでなく、数週〜数か月前まで遡ります。

ウイルス

HAV、HBV、HCV、HEVを基本に、免疫抑制や臨床像に応じHSV、CMV、EBVなどを検討します。HBVではHBs抗原だけでなくIgM-HBc抗体、HBV DNAなどを病態に応じて選びます。

循環・血管

ショック、心不全、低酸素、熱中症による虚血性肝障害を探します。LDH著明高値と急速なAST・ALT変化は手掛かりです。Doppler超音波や造影画像でBudd-Chiari症候群、肝血流障害、血管閉塞も評価します。

自己免疫・代謝・妊娠関連

ANA、ASMA、IgGを確認し、自己免疫性肝炎を検討します。若年者ではWilson病、妊娠中・産褥ではHELLP症候群や急性妊娠脂肪肝を考えます。悪性腫瘍浸潤、血球貪食症候群なども臨床像に応じて検索します。

治療は原因判明を待たない

N-アセチルシステイン

アセトアミノフェン中毒が疑われる場合は、濃度結果や服用時刻が不明でも、院内プロトコルと中毒情報に従って早期投与を検討します。非アセトアミノフェン急性肝不全でも早期脳症で有用な可能性があり、肝臓専門医と相談します。

支持療法

  • 低血糖を補正し頻回測定
  • 循環と酸素化を維持
  • 腎障害・酸塩基・電解質を厳密に管理
  • 感染徴候を反復評価し、必要な培養を採取
  • 不要な鎮静薬・肝障害薬を中止
  • 脳症進行時は頭蓋内圧亢進を意識してICU管理

出血がない患者へPT-INRの数値を正常化する目的で新鮮凍結血漿を一律投与すると、重症度推移を隠し、容量負荷を生じます。活動性出血や侵襲的処置の必要性に応じ、肝臓・集中治療・輸血部と判断します。

移植施設への相談は早すぎるくらいでよい

PT-INR上昇、脳症、乳酸・腎機能悪化、低血糖、急速なBil上昇があれば、予後予測スコアの確定を待たず、肝移植実施施設へ相談します。移送が必要になってから連絡すると、脳症・循環不全で搬送が困難になることがあります。

連絡時は、発症時刻、既存肝疾患、意識、PT-INR、Bil、Cr、乳酸、血糖、原因候補、投与薬、家族連絡状況をまとめます。

上級医への報告例

「本日AST 4,800、ALT 3,900で、PT-INR 1.8、軽い見当識障害があります。低血糖は補正中です。アセトアミノフェン濃度、肝炎ウイルス、自己免疫、血管評価の検体を採取し、NACを院内手順で開始します。ICU・肝臓内科へ連絡し、移植施設へ今すぐ相談したいです」

よくある失敗

  • AST・ALTだけを追い、PT-INRと意識を測らない
  • 薬物過量の申告がないためアセトアミノフェンを除外する
  • AST・ALT低下を改善と判断し、Bil・INR・乳酸を見ない
  • 原因確定まで移植施設への相談を待つ
  • INR補正だけを目的に血漿を投与する
  • 肝性脳症と決めつけ、低血糖・感染・頭蓋内病変を除外しない

Take-home message

  • 急激な肝障害ではPT-INR、血糖、意識を最優先で確認する
  • 原因検索用検体を早期に採り、治療を同時進行する
  • アセトアミノフェンは申告にかかわらず測定を考える
  • AST・ALT低下だけで改善と判定しない
  • PT-INR上昇や脳症があれば、移植施設へ早期相談する