結論:咽頭痛に「声・唾液・呼吸」の異常があれば、口を見て終わらない
大部分の咽頭痛は自然軽快する上気道感染ですが、深頸部感染症、喉頭蓋炎、扁桃周囲膿瘍などは気道を急速に脅かします。さらに感染が頸部間隙から縦隔へ下降すると、降下性壊死性縦隔炎(descending necrotizing mediastinitis:DNM)となり、敗血症と多臓器不全を来し得ます。
危険な咽頭痛では、発赤や白苔の程度より、声、唾液、呼吸、開口、頸部腫脹、全身状態を見ます。気道が不安定なら、診察やCTのために仰臥位へせず、麻酔科・耳鼻咽喉科と管理された気道確保を最優先します。
最初の3分:気道Red flag
- stridor、努力呼吸、陥没呼吸、チアノーゼ
- 唾液を飲み込めない、流涎
- 含み声、嗄声、急な声の変化
- 開口障害、舌・口腔底の腫脹
- 頸部の腫脹・発赤、頸部伸展困難
- 呼吸苦があり座位を好む、仰臥位になれない
- 急速な症状進行、意識変容、ショック
これらがあれば患者を一人にせず、経口摂取を止め、酸素・吸引・気道器具を準備し、麻酔科・耳鼻咽喉科・救急チームへ緊急連絡します。舌圧子で無理に咽頭を刺激すると気道状態を悪化させる可能性があるため、疑わしい患者では専門家と評価方法を決めます。
深頸部感染症を疑う問診と診察
発症時期、歯痛・歯科治療、扁桃炎、咽頭痛、頸部痛、嚥下痛、胸痛の出現順序を聞きます。糖尿病、免疫抑制、低栄養は重症化リスクですが、基礎疾患のない若年者でも起こります。
口腔内では、歯性感染、口腔底腫脹、口蓋垂偏位、片側扁桃周囲腫脹を確認します。頸部では左右差、圧痛、硬結、皮下気腫、可動域を評価します。胸痛、呼吸困難、頻呼吸、胸水が加われば縦隔・胸腔への進展を考えます。
DNMを疑うタイミング
DNMは、口腔・咽頭・頸部の感染が筋膜間隙を通って縦隔へ進展した病態です。次の場面で疑いを強めます。
- 深頸部感染症に胸痛、呼吸困難、頻呼吸、低酸素が加わった
- 抗菌薬開始後も発熱、炎症反応、臓器障害が急速に悪化する
- 頸部CTで感染が頸胸移行部へ向かっている
- 胸部画像で縦隔拡大、脂肪織濃度上昇、ガス、液体貯留、胸水・膿胸を認める
- 歯性感染や扁桃周囲感染に敗血症を伴う
胸部症状が乏しい初期例もあります。重い深頸部感染では、頸部だけでなく胸部まで連続して評価します。
画像:造影CTは頸部と胸部を一続きで考える
気道と循環が許せば、頸部〜胸部造影CTで感染源、膿瘍、ガス、気道圧排、血管合併症、縦隔・胸腔への広がりを評価します。DNMの分類は感染範囲とドレナージ経路の検討に用いられますが、分類作業のために治療を遅らせません。
単純な咽頭炎に全例CTは不要です。一方、気道Red flag、開口障害、頸部腫脹、深部痛、敗血症、胸部症状があれば、表面の咽頭所見が軽くても画像を検討します。造影剤禁忌があっても、必要性と代替法を放射線科・専門科と相談します。
治療:抗菌薬だけで様子を見ない
初期治療は、気道管理、敗血症蘇生、血液培養、広域抗菌薬、感染源コントロールを並行して行います。起因菌は口腔内・咽頭の好気性菌と嫌気性菌を含む多菌種感染が多く、抗菌薬は地域の耐性、医療曝露、腎機能、アレルギーを踏まえて選びます。培養結果が得られたら狭域化します。
形成された膿瘍や壊死組織は、抗菌薬のみで制御できないことがあります。耳鼻咽喉科、呼吸器外科・胸部外科、歯科口腔外科、集中治療、感染症科による早期の多職種治療が必要です。頸部ドレナージに加え、縦隔への進展範囲に応じて胸腔鏡など胸部からのドレナージが必要になります。
手術後も感染が残存・再拡大することがあるため、バイタル、臓器障害、ドレーン、炎症反応、反復CTを組み合わせて再介入の必要性を評価します。
よくある落とし穴
- 咽頭発赤が軽いため、深部感染を否定する
- SpO2が保たれているため、気道Red flagを軽視する
- 気道不安定な患者をCTのため仰臥位にする
- 頸部CTだけ撮影し、胸痛・敗血症があるのに胸部進展を見ない
- 抗菌薬開始後の一時的改善で、ドレナージ相談を中止する
- 糖尿病がないため重症感染ではないと考える
カルテ記載例
「3日前から右下顎歯痛、本日咽頭痛と頸部腫脹が増悪。含み声、開口1横指、唾液嚥下困難あり。RR 28/分、SpO2 94%室内気、BP 98/62 mmHg。気道悪化リスクが高く経口摂取中止、座位維持、酸素・吸引準備。麻酔科・耳鼻咽喉科へ緊急連絡。気道方針決定後に頸胸部造影CTを行い、深頸部感染から縦隔進展を評価する。血液培養採取、広域抗菌薬、外科的感染源コントロールを並行する。」
Take-home message
- 危険な咽頭痛では、声・唾液・呼吸・開口・頸部を評価する
- 気道不安定ならCTより先に、専門家と管理された気道確保を準備する
- 深頸部感染に胸部症状や敗血症があればDNMを疑う
- 頸胸部造影CTで感染範囲を評価し、抗菌薬と早期ドレナージを並行する
- 耳鼻咽喉科、胸部外科、歯科、集中治療、感染症科の早期連携が重要