結論:せん妄は「騒ぐ状態」ではなく、急性・変動性の注意障害である

せん妄は、身体疾患や薬剤などを背景に急性発症し、1日の中で変動する注意・認知の障害です。興奮する過活動型だけでなく、眠そう、反応が遅い、食事や会話が減ったという低活動型があり、こちらは見逃されやすい一方で予後不良と関連します。

「不穏を止める薬」を探す前に、低酸素、感染、疼痛、尿閉、便秘、脱水、薬剤、中止症候群など原因と誘因を探し、環境を整えます。抗精神病薬はせん妄そのものを治す万能薬ではありません。本人の強い苦痛や他害・自傷の危険があり、言語的・非言語的な介入で不十分な場合に、リスクを確認して短期間・最小限に検討します。

最初の10分

  1. ABCDE、血糖、SpO2、体温、疼痛、意識レベルを確認する
  2. 発症前の認知・生活機能と「いつから、どう変わったか」を家族・スタッフから聞く
  3. 4ATでスクリーニングする。ICUや回復室では施設採用のCAM-ICUまたはICDSCを使う
  4. 薬剤、アルコール・ベンゾジアゼピン中止、尿閉、便秘、脱水、感染、低酸素を確認する
  5. 眼鏡・補聴器、時計・カレンダー、照明、睡眠、家族との連絡を整える
  6. 転倒・自己抜去・誤嚥リスクを評価し、必要な観察レベルをチームで決める

4ATを使って「印象」を共通言語にする

4ATは、Alertness、AMT4、Attention、Acute change or fluctuating courseの4項目からなり、短時間で行えます。スコアは診断そのものではなく、せん妄の可能性を拾い上げて追加評価につなげる道具です。

普段の状態との変化が重要なので、家族、介護者、看護師からの情報が診断の中心になります。認知症があってもせん妄は併存します。「もともと認知症だから」で急な変化を説明しないでください。せん妄か認知症か判断できない場合も、まずせん妄として原因検索と安全確保を進めます。

原因と誘因はチェックリストで探す

領域 確認例
呼吸・循環 低酸素、低血圧、心不全、貧血
感染・炎症 肺炎、尿路感染、胆道感染、敗血症、術後炎症
代謝 低血糖・高血糖、Na・Ca異常、腎不全、肝不全
痛み・不快 術後痛、尿閉、便秘、口渇、点滴や装具の不快感
薬剤 抗コリン薬、鎮静薬、オピオイド、ステロイド、多剤併用、腎機能に不釣り合いな投与
中止 アルコール、ベンゾジアゼピン、その他依存性薬剤
神経 脳卒中、けいれん、頭部外傷、髄膜炎・脳炎
環境 睡眠断片化、感覚遮断、病室移動、身体拘束

尿所見陽性だけで尿路感染を原因と断定したり、軽微な検査異常1つで探索を止めたりしません。病歴、診察、経過と整合する原因を優先します。

非薬物療法は「何もしない」ではない

非薬物療法は、複数の小さな介入を束ねて行います。

  • 名乗り、場所・時間・治療目的を短く繰り返し伝える
  • 昼は明るく活動し、夜は騒音・採血・照明を最小限にする
  • 眼鏡、補聴器、義歯を使えるようにする
  • 疼痛を評価し、過鎮静を避けながら鎮痛する
  • 早期離床、適切な水分・栄養、排便・排尿を支援する
  • 不要なカテーテル、ライン、モニターを減らす
  • 可能なら家族やなじみの人・物とのつながりを作る
  • 一貫した声かけとケア方針を多職種で共有する

身体拘束は不安・興奮を強め、転倒や自己抜去を必ずしも防ぎません。直ちに必要な安全確保を行ったうえで、原因、不快、観察方法、環境を見直し、最小限・最短になるよう再評価します。

薬物療法を考える前の3つの質問

  1. 本人または周囲に差し迫った危険があるか
  2. 痛み、尿閉、低酸素、低血糖、離脱など今すぐ修正できる原因はないか
  3. 落ち着いた声かけ、刺激の調整、家族の協力などを試したか

それでも本人の強い苦痛や危険が続く場合に、抗精神病薬を短期間、最小有効量で検討します。QT延長、電解質異常、錐体外路症状、誤嚥、過鎮静、転倒リスクを確認します。Parkinson病またはLewy小体型認知症が疑われる患者では、抗精神病薬に対する重篤な過敏性があり得るため特に慎重に専門医へ相談します。

アルコール・ベンゾジアゼピン離脱では治療原則が異なります。原因を見極めずに一律の「せん妄処方」を適用しません。また、ICUを含め抗精神病薬のルーチン投与で患者中心の転帰を改善する確実な根拠はありません。

よくある落とし穴

  • 興奮がないため低活動型せん妄を見逃す
  • 認知症という既往だけで急性変化を説明する
  • 夜間の不穏に対し、診察せず定型薬を追加する
  • 尿路感染や脱水など1つの原因を見つけて探索を止める
  • 抗精神病薬開始後にQT、鎮静、錐体外路症状を再評価しない
  • 「安全のため」と身体拘束を続け、解除条件を決めない

カルテ記載例

「昨日から会話が減り傾眠傾向。家族によると入院前は日時・場所を理解し自立していた。4AT 7点、急性・変動性変化あり。SpO2 91%(室内気)、右下肺野crackles、口腔乾燥、膀胱スキャンで尿貯留なし。低活動型せん妄を疑い、低酸素・肺感染の評価と治療を開始。眼鏡装着、日中離床、睡眠環境調整を依頼。危険行動なく抗精神病薬は使用せず、4時間後に意識・呼吸状態を再評価する。」

Take-home message

  • せん妄は急性・変動性の注意障害で、低活動型を見逃さない
  • 4ATなど共通の評価ツールを使い、普段との差を周囲から聞く
  • 原因検索と多面的な非薬物療法を治療の中心に置く
  • 抗精神病薬はルーチンではなく、強い苦痛や危険が続く場合に限定する
  • 投薬・身体拘束には目的、リスク、再評価時刻、終了条件を記録する