この記事の結論

BPSDは「認知症だから起こる困った行動」ではなく、本人の苦痛、身体疾患、薬剤、環境、コミュニケーションが行動として表れた可能性を検討する入口です。急に始まった・日内変動が大きい場合は、まずせん妄、痛み、感染、低酸素、便秘・尿閉、薬剤を探します。安全を確保した後は、誘因を減らす非薬物対応を第一選択とし、向精神薬は危害リスクまたは強い苦痛がある場合に限って慎重に検討します。

BPSDは本人だけでなく介護者の疲弊や虐待リスクにも関わります。本人と家族の安全を同時に評価し、多職種・地域支援へつなげてください。

最初の10分で行うこと

  1. 自傷・他害、転倒、離院、運転、火の不始末など目前の危険を確認する
  2. 発症時期と普段からの変化を、本人と家族・介護者の両方から聞く
  3. バイタル、SpO2、血糖、痛み、脱水、尿閉、便秘を評価する
  4. 感染、脳卒中、頭部外傷、低Na、薬物中毒・離脱を疑う所見を探す
  5. 新規薬、増量、中止、頓用、市販薬を含む薬歴を確認する
  6. 騒音、照明、空腹、睡眠、ケア方法、眼鏡・補聴器の不足を確認する
  7. 「いつ・どこで・誰と・何の直前に・どうなったか」を記録する

BPSDとせん妄を分ける

観点 BPSD せん妄を疑う所見
発症 徐々に、反復することが多い 数時間〜数日で急に変化
経過 状況依存で一定のパターン 日内変動、注意の揺らぎ
注意 比較的保たれることもある 注意を維持できない
原因 認知症、環境、心理、関係性 身体疾患・薬剤・離脱が中心

両者は併存します。以前から認知症がある人ほど、軽い身体変化でせん妄を起こしやすいため、「認知症の悪化」で片づけません。

レッドフラッグ

  • 急な意識・注意の変化、局所神経徴候、痙攣
  • 発熱、低酸素、低血圧、低血糖、脱水
  • 自殺念慮、自傷、武器の使用、制御できない暴力
  • 運転、徘徊、行方不明、火気管理など切迫した生活リスク
  • 介護者の極度の疲弊、虐待・ネグレクトの疑い
  • 幻視、パーキンソニズム、抗精神病薬への強い過敏性
  • 新規の頭痛、転倒、抗凝固薬使用

原因を「身体・薬剤・環境・心理」で探す

身体

痛み、感染、便秘、尿閉、脱水、低酸素、睡眠障害、視聴覚低下、歯科問題、低血糖、電解質異常を確認します。

薬剤

抗コリン作用薬、ベンゾジアゼピン系、睡眠薬、オピオイド、ステロイド、抗パーキンソン薬、市販感冒薬、アルコール・薬剤離脱などを見直します。

環境

騒音、見慣れない部屋、過剰な刺激、夜間照明、頻回の担当者交代、急かすケア、眼鏡・補聴器がないことも誘因になります。

心理・関係性

不安、孤独、喪失、羞恥、役割を奪われた感覚、否定される会話を考えます。行動の「目的」や「本人が守ろうとしているもの」を探します。

非薬物対応の具体策

  1. 一度に一人が、正面から、短い文で話す
  2. 事実関係を論破せず、まず不安や怒りに名前を付けて受け止める
  3. 選択肢を2つ程度に絞り、待つ時間をつくる
  4. 痛み、排泄、空腹、温度、姿勢を整える
  5. 時計・カレンダー・家族写真、眼鏡・補聴器を活用する
  6. 日中の活動と光、夜間の静穏を調整する
  7. 落ち着ける職員・家族、好きな活動、役割をケア計画に入れる
  8. 介護者へレスパイト、地域包括支援センター、認知症疾患医療センターを案内する

身体拘束や鎮静を目的にしません。危険回避が必要な場合も、最小限・最短時間とし、解除条件と再評価時刻を明記します。

向精神薬を検討する前のチェック

  • 原因となる身体疾患・薬剤・環境を評価したか
  • 非薬物対応を実施し、効果を記録したか
  • 本人または他者への危害リスク、または強い苦痛があるか
  • Lewy小体型認知症・Parkinson病認知症の可能性はないか
  • 脳血管障害、転倒、誤嚥、QT延長、錐体外路症状のリスクを確認したか
  • 本人・家族へ利益と害、適応外使用の可能性を説明したか
  • 目標症状、評価日、減量・中止条件を決めたか

使用する場合は、最新の国内ガイドラインと添付文書に従い、最小有効量・最短期間を原則にします。薬剤名だけでなく、何を改善したいのかを処方に結び付けます。

よくある落とし穴

  • 夜間の興奮をBPSDと決め、尿閉・便秘・低酸素を見ない
  • 家族の「性格が変わった」という情報を軽視する
  • 妄想の内容を訂正し続け、対立を強める
  • 頓用薬を重ね、翌日の過鎮静・誤嚥・転倒を招く
  • 「効いた」だけで継続し、減量・中止の時期を決めない
  • 介護者の疲弊を本人の問題と切り離す
  • 本人の残存能力と役割を奪う

申し送りの型

「夕方の更衣介助時に大声と抵抗が出ます。発熱・低酸素・低血糖はなく、便秘3日、右肩痛があります。眼鏡を外した状態で複数人が急いで介助したことが誘因候補です。鎮痛と排便対応を行い、眼鏡を着用し、一人で説明してから介助します。危害リスクが高まる場合は再連絡してください」

よくある質問

Q. 本人の妄想を否定しないと、認めたことになりませんか?

事実に同意する必要はありません。「盗られて不安なのですね」と感情を受け止め、安全確認や一緒に探す行動へ移ります。

Q. 不眠だけで睡眠薬を追加してよいですか?

昼夜逆転、日中の睡眠、疼痛、排泄、環境、既存薬を先に確認します。睡眠薬は転倒・せん妄・過鎮静を悪化させることがあります。

Q. いつ専門医へ相談しますか?

診断が不確実、急速進行、Lewy小体型認知症を疑う、危害リスクが高い、非薬物対応で改善しない、薬剤調整が難しい場合です。

適用範囲

成人の認知症に伴う行動・心理症状を対象とします。急性せん妄、一次性精神疾患、物質使用、知的障害の支援は別の評価体系が必要です。

まとめ

BPSDの初期対応は、鎮静薬を選ぶことではありません。急性の身体原因とせん妄を除外し、行動の前後関係を記録し、環境と関わり方を調整します。薬物療法が必要なときも、目標症状・再評価日・中止条件まで処方の一部として決めましょう。