結論:体温の数字を下げる前に、発熱か高体温症か、測定は信頼できるか、患者は不安定かを判断する
発熱は炎症性メディエーターによって視床下部の設定温度が上がる生理反応です。高体温症は設定温度が上がらず、産熱が放熱を上回る状態です。両者は治療が異なります。
感染症の発熱で解熱薬や冷却を急ぐより、ショック、低酸素、髄膜炎、好中球減少、重症薬疹などを見つける方が重要です。一方、熱中症などの高体温症では、迅速な全身冷却が臓器障害を左右します。
最初の10分
- ABCDE、意識、皮膚、循環、呼吸を評価する
- 体温の測定部位、機器、測定時刻、直前の飲食・入浴を確認する
- 発熱か高体温症かを見分ける
- 敗血症、髄膜炎、好中球減少、熱中症、悪性高熱症などを拾う
- 抗菌薬前に必要な培養を採る。ただしショックでは治療を遅らせない
- 解熱薬の目的を「苦痛軽減」か「生理学的負荷軽減」か明確にする
- 介入後は体温だけでなく、血圧、意識、呼吸、尿量を再評価する
発熱と高体温症の違い
| 発熱 | 高体温症 | |
|---|---|---|
| 仕組み | 設定温度が上がる | 産熱が放熱を上回る |
| 初期の皮膚・感覚 | 悪寒、震え、末梢血管収縮 | 熱感、意識障害、運動/環境/薬剤との関連 |
| 解熱薬 | 苦痛軽減に有効なことがある | 基本的に無効 |
| 外部冷却 | 悪寒中は震えを増やすことがある | 迅速な冷却が治療の中心 |
高体温症の原因には、熱中症、悪性高熱症、悪性症候群、セロトニン症候群、甲状腺クリーゼ、交感神経刺激薬などがあります。著明な高体温、意識障害、筋強剛、発汗、曝露歴があれば、感染症だけに固定しません。
体温は測定部位で変わる
体温には日内変動があり、年齢、活動、月経周期、環境でも変わります。腋窩、口腔、鼓膜、直腸、膀胱、食道の値を同じ基準で比較しません。
重症患者で正確な深部体温が必要なら、施設で検証された測定部位を選びます。口腔温は飲食・酸素投与、鼓膜温は手技、腋窩温は末梢循環の影響を受けます。経過を見るときは、なるべく同じ機器・同じ部位を使い、記録に測定部位を残します。
「熱がない」感染症に注意する
高齢者、免疫不全、ステロイド使用中、腎不全、重症感染症では、発熱が弱いか低体温になることがあります。好中球減少患者では、単回の発熱でも緊急対応が必要です。
逆に、術後、輸血、薬剤、血栓症、炎症性疾患でも発熱します。体温の高さだけで感染症の有無や重症度を決めません。
血液培養は「発熱したから」ではなく、菌血症を疑うから採る
血液培養は、敗血症、感染性心内膜炎、血管内カテーテル感染、重症局所感染など菌血症が疑われるとき、抗菌薬前に採取します。単なる体温上昇のたびに反射的に採ると、汚染と過剰治療が増えます。
すでに抗菌薬投与中なら、投与時刻、悪寒戦慄、血行動態、感染巣、前回培養を確認し、必要なタイミングを決めます。
解熱薬を使う目的
解熱薬は原因治療ではありません。患者の疼痛、頭痛、倦怠感を軽くし、心肺疾患のある患者の代謝負荷を減らす目的で検討します。無症候の体温を「正常化」すること自体を目標にしません。
投与前に肝・腎機能、脱水、消化管出血、併用薬を確認します。静注アセトアミノフェン後に血圧低下がみられることはありますが、薬剤だけでなく、敗血症、脱水、解熱に伴う血管拡張などを同時に評価します。時間的関連だけで因果関係を断定しません。
クーリングの使い分け
発熱で患者が悪寒・震えを起こしているとき、氷嚢や冷却を強めると産熱を増やし、苦痛も悪化します。設定温度に達して悪寒が消えた後、苦痛軽減を目的に穏やかな冷却を使うことはあります。
高体温症では話が別です。衣服除去、環境からの離脱、冷水浸漬や蒸散冷却など、病態と現場に適した迅速な冷却を行い、同時に気道・循環・電解質・凝固・腎障害を管理します。
よくある失敗
- 腋窩温と深部体温を同じ閾値で比較する
- 体温が低いので重症感染症を除外する
- 発熱のたびに血液培養を採る
- 悪寒中に強く冷やして震えを増やす
- 熱中症に解熱薬だけを投与する
- 解熱後の血圧低下を薬剤副作用だけで説明する
カルテ記載例
「鼓膜温39.1℃。悪寒あり、意識清明、血圧維持。測定部位と時刻を記録。感染巣と菌血症リスクを再評価し、培養適応を判断する。解熱薬は頭痛・苦痛軽減を目的に使用し、投与後は体温だけでなく血圧、意識、尿量を再評価する。環境曝露・筋強剛はなく、現時点で高体温症を示す所見に乏しい。」
Take-home message
- 発熱と高体温症は機序も治療も異なる
- 体温は測定部位と測定条件を記録する
- 高齢者・免疫不全では発熱がなくても重症感染症を疑う
- 解熱薬は数字ではなく、患者の苦痛と生理学的負荷に使う
- 悪寒中の強い冷却は避け、高体温症では迅速に冷却する