結論:転倒後は「外傷」と「転倒の原因」を同時に評価する
院内転倒の直後に大切なのは、単に外傷がないかを見ることではありません。生命を脅かす外傷を先に除外しながら、失神・感染・低血糖・薬剤など転倒を起こした原因も探すことです。
研修医がまず押さえる順番は次の5つです。
- 動かす前にABCDEと頸椎損傷の可能性を評価する
- 受傷機転、目撃者、意識消失、抗血栓薬を確認する
- GCS、瞳孔、局在神経所見を記録し、頭部CTの適応を判断する
- 検査後も意識・神経所見・嘔吐などを経時的に観察する
- 転倒原因を是正し、再発予防と事実に基づく説明・記録を行う
本記事は成人の院内転倒後の初期評価を扱います。小児、妊婦、穿通性外傷、明らかな多発外傷では、施設の救急・外傷プロトコルを優先してください。
転倒直後の最初の10分
1.無理に起こさず、応援を呼ぶ
患者が床に倒れていても、すぐベッドへ戻してはいけません。頸椎・骨盤・大腿骨近位部などの損傷があれば、移動で悪化させる可能性があります。ナースコールや院内急変コールで人員を確保し、必要なモニターと救急カートを準備します。
2.ABCDEで不安定さを探す
- A:気道開通、嘔吐・誤嚥、頸椎保護
- B:呼吸数、SpO2、胸郭運動、呼吸音
- C:血圧、脈拍、末梢冷感、活動性出血
- D:GCS、瞳孔、片麻痺、血糖
- E:頭部から足先まで露出を最小限に全身観察
低酸素、ショック、けいれん、進行する意識障害があれば、画像検査の議論より先に蘇生と上級医・救急担当への連絡を進めます。
3.「何が起きたか」を目撃者から聞く
本人の記憶が曖昧でも、目撃者が重要な情報を持っています。
- 立位・歩行中・ベッドからの転落など受傷機転
- 頭部を打ったか、どこに当たったか
- 転倒前の胸痛、動悸、息切れ、めまい、脱力
- 意識消失、けいれん様運動、失禁、転倒後の混乱
- 転倒時刻と、最後に普段どおりだった時刻
「転んだ」という結果だけでなく、先に失神して倒れたのか、足を滑らせて転んだのかを区別します。
頭部外傷で必ず確認する項目
問診
- 頭痛、反復する嘔吐、健忘、眠気
- 視力・聴力変化、複視、咬合異常
- 抗凝固薬、抗血小板薬、出血性疾患
- 飲酒・鎮静薬・睡眠薬の影響
- 既往の脳外科手術、てんかん
診察
- GCSを構成要素まで記録する(E・V・M)
- 瞳孔径・左右差・対光反射
- 顔面・四肢の運動と感覚、構音、歩行は安全な場合のみ
- 頭皮創、陥没、耳・鼻からの出血や髄液漏疑い
- Battle徴候、眼窩周囲皮下出血など頭蓋底骨折を示唆する所見
- 頸部正中圧痛と四肢の神経所見
受傷直後の1回だけでなく、基準となる神経所見を数値で残すことが、その後の変化を検出する鍵です。
頭部CTを急ぐ所見
NICE NG232では、成人の頭部外傷で次のような所見があれば、原則として迅速な頭部CTを検討します。
- GCS低下が持続する、または受傷後に悪化する
- 頭蓋骨陥没・開放骨折、頭蓋底骨折を疑う
- 外傷後けいれん
- 局在神経所見
- 反復する嘔吐
- 意識消失・健忘があり、年齢、危険な受傷機転、長い逆行性健忘などの追加リスクがある
抗凝固薬を使用中、またはアスピリン単剤を除く抗血小板薬を使用中の頭部外傷では、ほかの適応がなくてもCTを考慮します。最終判断は受傷時刻、確実な経過観察の可否、腎機能ではなく頭蓋内出血リスクと施設の診療手順に基づいて行います。
なお、抗血栓薬の中和は薬剤・最終内服時刻・腎機能・出血部位で異なります。頭蓋内出血が疑われる場合は、脳神経外科、救急・集中治療、薬剤部・輸血部へ早期に相談し、固定処方を機械的に使わないでください。
CTが正常でも観察は終わらない
入院患者では帰宅指示ではなく、病棟で安全に観察できる計画が必要です。
- GCS、瞳孔、四肢運動、頭痛、嘔吐を決めた間隔で再評価
- 鎮静薬や睡眠薬で変化を隠さないか確認
- 悪化時の連絡基準を看護師と共有
- 意識低下、反復嘔吐、新規麻痺、けいれん、激しい頭痛なら直ちに再評価
正常CTのみを理由に一律入院観察が必要とは限りませんが、院内患者では原疾患、抗血栓薬、せん妄、独居相当の見守り困難、ほかの外傷を含めて判断します。
頭以外の外傷も見落とさない
高齢者では訴えが乏しくても骨折があります。股関節痛、下肢短縮・外旋、荷重不能、骨盤痛、手関節痛、肋骨痛、背部痛を確認します。抗凝固中なら、後腹膜・筋内出血による遅発性の貧血やショックにも注意します。
転倒の原因検索
外傷評価が一段落したら、転倒前後の状況から原因を絞ります。
| 手掛かり | 考える原因 | 次の確認 |
|---|---|---|
| 立ち上がり直後 | 起立性低血圧、脱水、降圧薬 | 臥位・立位血圧、体液量、薬歴 |
| 前触れのない意識消失 | 不整脈、心疾患 | 心電図、モニター、心疾患歴 |
| 発熱・ぼんやり | 感染、せん妄 | 感染源、薬剤、尿閉・便秘、環境 |
| 発汗・振戦 | 低血糖 | 直ちに血糖測定 |
| 片麻痺・失語 | 脳卒中 | 発症時刻、脳卒中対応 |
| 夜間・トイレ移動 | 頻尿、睡眠薬、環境要因 | 排泄計画、照明、履物、見守り |
記録と報告の実例
上級医への報告例
「21時10分、トイレ前で転倒したところを看護師が目撃しました。頭部打撲あり、意識消失は確認されていません。現在ABCDEは安定、GCS 15、瞳孔左右差なし、麻痺なしです。後頭部に3cmの腫脹があり、アピキサバン最終内服は18時です。頭部CTを手配し、頸部と股関節も評価しています」
記録に残す項目
- 発見・受傷時刻、場所、姿勢、目撃情報
- 転倒前症状と受傷機転
- バイタル、血糖、GCS、瞳孔、神経所見
- 全身の外傷所見
- 抗血栓薬と最終投与時刻
- 検査・処置、上級医への連絡時刻
- 観察項目と悪化時対応
- 患者・家族への説明内容
事実と推測を分け、「異常なし」ではなく評価した項目を具体的に書きます。インシデント報告は診療録の代わりではありません。
再発予防は個別化する
転倒後は、原因に対応した予防策を多職種で決めます。睡眠薬・抗不安薬・降圧薬・利尿薬の見直し、トイレ誘導、歩行補助具、履物、照明、ベッド周囲、視力・聴力、せん妄、リハビリの必要性を確認します。単純に行動を制限するだけでは、廃用やせん妄を悪化させることがあります。
よくある失敗
- すぐに患者を起こし、頸椎・股関節を評価しない
- 「CTが正常」で神経観察を終了する
- 頭部だけを見て、失神や低血糖を探さない
- 抗血栓薬の薬剤名・最終内服時刻を確認しない
- 「異常なし」とだけ記録し、比較可能なGCSや瞳孔所見を残さない
- 全員に同じ転倒予防策を当てはめる
Take-home message
- 院内転倒では外傷と原因検索を並行する
- 患者を動かす前にABCDE、頸椎、神経所見を評価する
- 頭部CTは症状・受傷機転・抗血栓薬・観察可能性を合わせて判断する
- 正常CT後も、悪化を拾える経時的観察計画を共有する
- 記録、説明、再発予防までが転倒後対応である