結論:「しびれ」を感覚症状だけと決めつけず、時間軸と分布から局在する
患者がいう「しびれ」には、感覚低下、ピリピリする異常感覚、痛み、脱力、巧緻運動障害、こわばりが混在します。最初に患者の言葉を症候へ翻訳し、いつ、どこに、どのように広がったかを明らかにします。
診療の優先順位は、①緊急疾患のRed flagを探す、②分布から神経学的局在を考える、③時間軸と背景から原因を絞る、の順です。検査を先に並べるのではなく、仮説を持って診察します。
最初の5分で見逃したくないRed flag
次の所見があれば、外来で漫然と採血して帰宅させず、緊急評価へ切り替えます。
- 突然発症した片側のしびれ、顔面と上下肢にまたがる症状、失語・構音障害・視野障害
- 急速に進行する両側性のしびれと筋力低下、腱反射低下
- 呼吸苦、嚥下障害、構音障害、頸部屈筋の筋力低下
- 膀胱直腸障害、尿閉、会陰部感覚低下、両側坐骨神経痛
- 感覚レベル、痙性、病的反射など脊髄障害を示す所見
- 発熱、免疫抑制、悪性腫瘍、静注薬物使用、最近の脊椎処置を伴う背部痛
- 外傷後、抗凝固療法中、急速に悪化する頸背部痛
脳卒中、脊髄圧迫・脊髄梗塞、馬尾症候群、Guillain-Barré症候群などは、画像や専門科相談の遅れが機能予後に影響します。
問診:「しびれる」を6つに分解する
- 性状:感覚が鈍いのか、電撃痛か、灼熱感か、力が入らないのか
- 発症:突然か、数時間〜数日か、数週〜年単位か
- 分布:顔、片側、手袋靴下型、特定指、皮節、感覚レベルがあるか
- 経過:持続か発作性か、上行性か、姿勢・動作で変わるか
- 随伴症状:脱力、歩行障害、排尿障害、複視、嚥下障害、疼痛、自律神経症状
- 背景:糖尿病、飲酒、栄養、腎疾患、悪性腫瘍、感染、薬剤、職業・圧迫、家族歴
患者には身体図へ症状範囲を示してもらうと、左右差や神経支配との一致を確認しやすくなります。
分布から局在を考える
| 分布・所見 | 主な局在の候補 |
|---|---|
| 顔を含む片側上下肢 | 対側大脳半球、脳幹など中枢 |
| 顔を除く片側体幹・上下肢 | 脊髄または大脳病変を検討 |
| 明瞭な感覚レベル | 脊髄 |
| 皮節に沿う痛み・しびれ | 神経根 |
| 特定末梢神経の支配域 | 単ニューロパチー |
| 左右対称の手袋靴下型 | 多発ニューロパチー |
| 両下肢から上行し脱力を伴う | 炎症性多発ニューロパチーなど |
| 非解剖学的で変動が大きい | 機能性を含め検討。ただし器質疾患除外後 |
分布は地図のように正確とは限りません。神経根と末梢神経の領域は重なり、患者の表現にも揺れがあります。筋力、反射、協調運動、歩行を組み合わせて局在の確度を上げます。
神経診察の最小セット
- 意識、言語、眼球運動、顔面感覚・運動、構音・嚥下
- 上下肢の筋力を左右比較し、近位・遠位を分ける
- 軽い触覚だけでなく、必要に応じて痛覚、振動覚、位置覚を確認する
- 上腕二頭筋・三頭筋・膝蓋腱・アキレス腱反射、Babinski反射
- 指鼻試験、踵膝試験、立位・歩行、Romberg試験
- 頸椎・腰椎、SLR、Tinel徴候など仮説に応じた誘発試験
「しびれあり、筋力問題なし」だけでは不十分です。どの筋をどの段階で評価し、反射がどうだったかを記録します。
検査は局在と時間軸に合わせる
突然発症の片側症状では脳卒中として脳画像と血管評価を考えます。感覚レベル、膀胱直腸障害、進行性麻痺では脊髄・馬尾の緊急MRIを相談します。急速な上行性麻痺では呼吸機能、自律神経、髄液、神経伝導検査を専門科と検討します。
慢性の左右対称性多発ニューロパチーなら、血糖・HbA1c、CBC、腎肝機能、甲状腺機能、ビタミンB12、蛋白電気泳動などを病歴に応じて選びます。すべての患者へ同じ採血セットを行うのではなく、薬剤、飲酒、栄養、感染、自己免疫、悪性腫瘍の可能性で追加します。
よくある落とし穴
- 「しびれ」を末梢神経障害と決めつけ、脳卒中を見逃す
- 感覚だけを診て、筋力・腱反射・歩行を評価しない
- 腰痛が軽いという理由で馬尾症候群を除外する
- 尿失禁だけを聞き、尿閉・排尿感覚・会陰部感覚を聞かない
- 左右対称だから安全と考え、進行性麻痺や呼吸筋障害を見逃す
- 解剖学的に合わない症状を、初診から心因性と結論づける
カルテ記載例
「本日8時、朝食中に右口角〜右上肢のしびれが突然発症。持続中。脱力の自覚は乏しいが、診察で右上肢Barre徴候陽性、右口角下垂あり。失語なし、構音軽度不明瞭。血糖正常。突然発症の局在性神経症状であり脳卒中疑いとして、最終健常時刻を確認し脳卒中対応を開始する。」
Take-home message
- まず「しびれ」を感覚低下、異常感覚、疼痛、脱力へ分解する
- 突然発症、進行性麻痺、呼吸・嚥下障害、膀胱直腸障害はRed flag
- 分布、時間軸、筋力、反射、歩行から局在を考える
- 画像・採血は局在仮説と緊急度に合わせて選ぶ
- 初診時の神経所見を具体的に記録し、経時変化を比較できるようにする