結論:TGAは臨床診断だが、診断名を付ける前に「記憶以外が保たれているか」を確認する

一過性全健忘(transient global amnesia: TGA)は、突然の前向性健忘を中心に、同じ質問を繰り返し、24時間以内に回復する症候群です。典型例では予後良好ですが、脳卒中、てんかん、低血糖、中毒、脳炎などをTGAと誤認しないことが初期対応の目的です。

TGAらしさは次の組み合わせです。

  • 目撃者が確認した突然の前向性健忘と反復質問
  • 本人の同一性、意識、会話、道具使用などは保たれる
  • 記憶以外の局在神経徴候がない
  • 頭部外傷・活動性てんかんがない
  • 発作は徐々に改善し24時間以内に消失する

最初の10分

  1. ABCDE、血糖、体温、SpO2、薬物・アルコール・外傷を確認する
  2. 最終健常時刻と発症状況を目撃者から聞く
  3. 意識、見当識、言語、脳神経、運動・感覚、協調運動、歩行を診る
  4. 「今どこか」「なぜここにいるか」を時間を置いて再確認する
  5. 局在徴候や急性脳症があれば、TGAではなく脳卒中・脳炎経路で動く

診察で確認すること

患者は自分の名前を言え、簡単な命令に従えますが、新しい情報を保持できず「今日は何日?」「なぜ病院に?」を繰り返します。発作中の出来事は回復後も記憶の空白として残ります。最近の過去を思い出せない逆行性健忘を伴うことがあります。

注意、失語、失行、失認、片麻痺、感覚障害、視野障害があれば非典型です。「会話できるから意識は正常」とせず、せん妄や複雑部分発作を評価します。

重要な鑑別

疾患 TGAと異なる手掛かり
海馬・後方循環梗塞 局在徴候、強い血管リスク、海馬以外のDWI病変
一過性てんかん性健忘 短時間、反復、起床時、嗅覚症状・自動症、既往発作
低血糖・代謝性脳症 意識・注意障害、全身状態、検査異常
脳炎 発熱、頭痛、行動変化、意識障害、けいれん
解離性健忘 自伝的記憶が中心、前向性記憶が比較的保たれることがある

50歳未満、3回以上の反復、1時間未満の短い発作、意識変容はTGAとして非典型で、他原因を積極的に探します。

MRIは「TGAをすぐ証明する検査」ではない

典型的なTGAでは海馬CA1領域に点状DWI高信号を認めることがあります。感度が高いのは発症24〜72時間後で、発症直後のMRI陰性はTGAを否定しません。

画像の主な役割は、非典型例で脳卒中などを除外することです。海馬外にもDWI病変があれば血管性病態を考え、血管・心臓評価を進めます。MRIのために脳卒中治療可能時間を失ってはいけません。

EEG・髄液検査は誰に必要か

EEGは発作が短く反復する、起床時に多い、てんかん症状を伴う場合に検討します。発熱、頭痛、意識障害、髄膜刺激徴候、免疫不全があれば脳炎としてMRI・髄液・経験的治療を検討します。典型的TGA全例に必要な検査ではありません。

治療と観察

典型的TGAに特異的治療はなく、安心できる環境で回復を観察します。機序が虚血性TIAと同じとは証明されておらず、TGAという診断だけで抗血小板薬やDAPTを開始しません。脳卒中・TIAを別に疑う場合は、その適応で治療します。

発作中は判断・運転・単独行動を避け、家族へ説明します。多くは6〜8時間で改善しますが、24時間を超える、局在徴候が出る、症状が変動・悪化する場合は診断を見直します。

入院か帰宅か

全例入院という決まりではありません。診断の確実性、発作が改善したか、非典型所見、検査体制、家族の見守りを考えます。診断が不確実、症状持続、独居、けいれん・脳卒中・脳炎を除外し切れない場合は観察入院や神経内科相談が安全です。

帰宅時は再発時の受診、運転再開、未完了のMRI・神経外来計画を明記します。

カルテ記載例

最終健常時刻/発症時刻:
目撃者:〔氏名・関係〕、反復質問〔あり/なし〕
前向性健忘:、逆行性健忘:、自己同一性:保たれる
意識・注意・言語・失行失認:
局在神経所見:なし/あり〔 〕
外傷・てんかん・薬物・低血糖:
経時変化:○時点で新規記銘〔可/不可〕
TGA診断の確実性と非典型所見:
家族へ24時間以内の改善確認と再受診基準を説明

よくある質問

TGAはTIAですか?

同じものではありません。典型的TGAは将来の脳梗塞リスクを明確に上げるとはされず、TGAのみを理由に抗血栓療法は行いません。

MRIはいつ撮ればよいですか?

脳卒中除外が必要なら急性期に撮ります。TGAに典型的な海馬病変の検出感度は24〜72時間で高くなります。

Take-home message

  • TGAは「記憶以外が保たれた、目撃された一過性健忘」という臨床診断。
  • 局在徴候、意識障害、若年、短時間反復は他疾患を疑う。
  • 発症直後のMRI陰性でTGAを否定も、脳卒中を完全除外もしない。
  • TGAだけを理由に抗血小板薬を開始しない。
  • 24時間以内の回復確認と、家族を含む安全な退院計画を作る。