結論:栄養オーダーの前に「期間・体重・P/K/Mg・チアミン・水分」を確認する
リフィーディング症候群は、低栄養または長期間の摂取不足がある患者へ栄養を再開した後、電解質や体液が急速に変化し、臓器障害を起こす病態です。経口食、経腸栄養、静脈栄養だけでなく、ブドウ糖を含む輸液もカロリー源になります。
栄養開始前に研修医が確認するのは、次の5項目です。
- ほとんど食べていない期間と、普段の必要量に対する摂取割合
- BMIだけでなく、最近の体重減少と筋肉・脂肪の減少
- リン、カリウム、マグネシウムと、最近の補充歴
- アルコール使用、吸収不良、がん、術後、摂食障害などの背景
- チアミン、循環血液量、水分・ナトリウム負荷、心電図リスク
「痩せていない」「開始前のリンが正常」という理由だけでは除外できません。肥満患者でも、長期間の摂取不足や大きな体重減少があれば高リスクになり得ます。
本記事は成人入院患者の教育用フレームです。栄養開始量、ビタミン・電解質補充、輸液、モニタリング頻度は病態、腎機能、体格、摂取経路で変わります。院内プロトコル、NST・管理栄養士・薬剤師、上級医の判断を優先してください。
まず理解する病態:血清値が正常でも体内貯蔵は枯渇している
飢餓や長期の低栄養では、インスリン分泌が低下し、脂肪・蛋白の異化が中心になります。その間にリン、カリウム、マグネシウム、チアミンなどの体内貯蔵が減っていても、血清濃度は正常に見えることがあります。
炭水化物を含む栄養を再開するとインスリン分泌が増え、糖とともにリン、カリウム、マグネシウムが細胞内へ移動します。ATP産生にはリンとチアミンが必要です。急激な変化が起こると、次の合併症につながります。
- 低リン血症:筋力低下、呼吸筋障害、意識障害、心機能障害
- 低カリウム血症:不整脈、筋力低下、横紋筋融解
- 低マグネシウム血症:不整脈、けいれん、低カリウム血症の遷延
- チアミン欠乏:Wernicke脳症、心機能障害、乳酸アシドーシス
- 体液・ナトリウム変化:浮腫、肺うっ血、心負荷
低リン血症だけがリフィーディング症候群ではありません。P、K、Mg、チアミン、体液、臓器症状を一つの病態として評価します。
最初の10分:栄養を始める前の行動チェックリスト
1.食べていなかった期間を具体的に聞く
「食欲低下あり」では足りません。
- 最後に普段どおり食べたのはいつか
- 直近1週間、1か月の摂取量は普段の何割か
- 水分、アルコール、清涼飲料だけは摂っていなかったか
- 嘔吐、下痢、嚥下障害、腹痛、吸収不良がないか
- 糖を含む輸液や経管栄養がすでに開始されていないか
救急外来で開始された維持輸液にブドウ糖が含まれていれば、すでに再栄養が始まっている可能性があります。
2.体重の「現在値」より「変化」を確認する
- 現在体重、身長、BMI
- 1か月前、3か月前、6か月前の体重
- 意図しない体重減少率
- 筋肉量・皮下脂肪の減少
- 浮腫や脱水で体重が見かけ上変化していないか
肥満、浮腫、腹水があっても低栄養は否定できません。アルブミン単独も栄養状態の判定には使えません。
3.ベースライン検査をそろえる
少なくとも次を確認します。
- P、K、Mg、Na、補正Ca
- 血糖
- BUN、Cr、eGFR
- 肝機能
- 血算
- 必要に応じて血液ガス、乳酸
- 心電図、QT、モニター適応
「現在正常か」だけでなく、直近に低値があり補充されたか、腎機能が変動しているかを確認します。
4.チアミンを糖質より先に考える
重度の摂取不足、アルコール使用障害、吸収不良などがあれば、栄養・ブドウ糖投与前のチアミン投与を検討します。Wernicke脳症が疑われる場合は予防量ではなく治療量が必要になるため、上級医と直ちに相談します。
5.栄養チームと「開始後72時間の計画」を先に作る
開始カロリーだけでなく、次をオーダー前に決めます。
- どの経路で、どのカロリー・糖質量から始めるか
- いつ増量するか
- P、K、Mgをいつ再検するか
- どの値・症状で増量を止めるか
- 電解質補充の経路と上限
- 体重、尿量、入出量、浮腫、呼吸状態の確認頻度
- 夜間に異常が出たときの連絡先
NICEの高リスク基準:病棟で使いやすい入口
NICE CG32では、次のいずれか1つを満たすと高リスクです。
- BMI<16 kg/m²
- 3〜6か月で意図しない体重減少>15%
- 10日を超えてほとんど栄養摂取がない
- 栄養開始前のK、P、Mgが低い
また、次のうち2つ以上でも高リスクです。
- BMI<18.5 kg/m²
- 3〜6か月で意図しない体重減少>10%
- 5日を超えてほとんど栄養摂取がない
- アルコール使用障害、またはインスリン、化学療法、制酸薬、利尿薬などの使用歴
これは便利なスクリーニングですが、感度・特異度は完全ではありません。重い急性疾患、がん、吸収不良、摂食障害、術後、長期絶食、慢性アルコール使用など、基準に収まりきらない臨床背景も含めます。
ASPENの視点:正常値と肥満に惑わされない
ASPENは、BMI・体重減少・摂取不足に加えて、最近の電解質補充、皮下脂肪・筋肉量の減少、高リスク併存症を重視しています。
特に重要なのは次の2点です。
- P、K、Mgが現在正常でも、直前に低値で繰り返し補充されていればリスクは高い
- カロリーは経口・経腸・静脈栄養だけでなく、ブドウ糖輸液や薬剤希釈液も合算する
栄養開始量:ガイドライン間の違いを知っておく
開始量には国際的な差があり、一つの数値を全患者へ当てはめることはできません。
NICEの慎重な方法
高リスクでは最大10 kcal/kg/日から開始し、4〜7日で必要量へ増やします。BMI<14 kg/m²、15日を超えるほぼ無摂取などの極端なリスクでは5 kcal/kg/日を例示し、継続心電図監視を勧めています。
ASPENの方法
成人では最初の24時間に10〜20 kcal/kg、または100〜150 gのブドウ糖から始め、臨床・電解質を見ながら1〜2日ごとにおよそ3分の1ずつ増量する考え方を示しています。重いP、K、Mg低下がある場合は、開始や増量を遅らせる判断が必要です。
2025年AuSPENコンセンサスが示した注意
AuSPENは、リスク患者全員を極端な低速度で開始する根拠は乏しく、十分な監視ができるなら24〜72時間で目標量へ到達する方針を提案しています。一方で、エビデンスの多くは低水準で、対象集団も異なります。
したがって実務では、「何 kcal/kgが唯一の正解か」を争うより、患者群、院内プロトコル、電解質補充能力、モニタリング体制をそろえることが重要です。高リスク・超高リスク、重い電解質異常、循環不安定ではNST・集中治療を含む専門チームに早期相談します。
開始後72時間:最も危険な時間帯を監視する
検査
高リスクでは、P、K、Mgを開始後少なくとも毎日、状況によっては最初の3日間は12時間ごとに確認します。血糖、腎機能、Naも追跡します。安定後も、リスクと推移に応じて監視頻度を調整します。
身体所見
- 心拍数、血圧、呼吸数、SpO2
- 意識、眼球運動、歩行・筋力
- 浮腫、呼吸苦、肺うっ血
- 体重、尿量、入出量
- 嘔気、嘔吐、下痢
心電図
重い電解質異常、QT延長、不整脈、極端な低栄養、心疾患があれば連続モニターを検討します。
発症を疑うタイミング:開始後5日以内の変化を見る
ASPENは、カロリー再開または大幅増量後5日以内に、P、K、Mgのいずれかが開始前から低下することを診断の軸にしています。
- 10〜20%低下:軽症
- 20〜30%低下:中等症
- 30%を超える低下、または電解質低下・チアミン欠乏に伴う臓器障害:重症
数値だけでなく、呼吸不全、不整脈、心機能障害、意識障害、けいれん、乳酸アシドーシスなどの臓器症状を確認します。低リン血症には薬剤、呼吸性アルカローシス、インスリン投与、敗血症など他の原因もあるため、時間関係と臨床像を統合します。
異常が出たら:栄養をゼロにする前にチームで再設計する
- 上級医、NST・管理栄養士、薬剤師へ連絡する
- P、K、Mg、血糖、腎機能、血液ガスを再評価する
- 心電図、呼吸、意識、体液量を確認する
- 電解質を院内手順で補充する
- 栄養・ブドウ糖量の増量を止める、または減量する
- チアミン投与が十分か確認する
- 安定後の再増量計画を作る
軽度の電解質低下だけで栄養を漫然と中止すると、低栄養を悪化させます。一方、重い低下や臓器障害で同じ速度を続けるのも危険です。重症度に応じて「補充しながら継続」「増量保留」「一時減量」を選びます。
よくある失敗と修正
失敗1:BMIが高いのでリスクなしと判断する
修正:最近の体重減少、摂取不足、筋肉・脂肪、アルコール、吸収不良を見る。
失敗2:開始前のリンが正常なので安心する
修正:体内貯蔵は血清値に反映されないことがある。K、Mgと補充歴も確認し、開始後の推移を見る。
失敗3:食事や経管栄養だけをカロリー計算する
修正:ブドウ糖輸液、静脈栄養、薬剤希釈液を含めて全カロリーを合算する。
失敗4:栄養開始後に採血オーダーを忘れる
修正:開始オーダーと同時に、72時間分のP、K、Mg再検と連絡基準を入れる。
失敗5:低Kだけ補充し続ける
修正:Mg低下があるとK補正が進みにくい。P、K、Mgをセットで評価する。
失敗6:開始カロリーの数字だけ守れば安全と考える
修正:チアミン、体液、電解質、モニタリング、増量・中止基準を含む計画が必要。
30秒で書ける診療録テンプレート
リフィーディング症候群リスクを評価。普段の摂取量に対し[ ]%が[ ]日、直近[ ]か月で体重[ ]%減、BMI[ ]。アルコール[ ]、がん・吸収不良・摂食障害・術後[ ]。開始前P[ ]、K[ ]、Mg[ ]、Cr[ ]、血糖[ ]、直近補充[ ]。ブドウ糖輸液を含む総投与カロリー[ ]。チアミン[投与済み/予定]。栄養は[ ]から開始し、P/K/Mgを[ ]時間後に再検。増量保留基準[ ]、NST相談[済/予定]。
FAQ
Q.太っている患者ならリフィーディング症候群にはなりませんか?
いいえ。長期の摂取不足、急速な体重減少、吸収不良、アルコール使用などがあれば、BMIが高くても起こり得ます。
Q.リンだけ測ればよいですか?
不十分です。P、K、Mgをセットで確認し、チアミン、血糖、腎機能、体液量、臓器症状も評価します。
Q.経口食なら安全ですか?
経路を問わず起こり得ます。経口、経腸、静脈栄養、ブドウ糖輸液のすべてをカロリー源として考えます。
Q.低リン血症が出たら栄養を中止しますか?
重症度によります。軽度で無症状なら補充と監視をしながら継続できる場合があります。重い低下や臓器障害では増量を止め、減量・一時中断を含め専門チームで判断します。
Q.開始量は5、10、20 kcal/kgのどれが正解ですか?
患者群とガイドラインで異なります。NICE、ASPEN、AuSPENの推奨には差があります。院内手順と患者のリスク、監視体制に合わせ、NSTと決めるのが安全です。
まとめ
- リスク評価は「摂取不足の期間・体重変化・P/K/Mg・背景疾患・チアミンと体液」で行う
- 肥満や開始前の正常電解質はリスクを否定しない
- ブドウ糖輸液を含むすべてのカロリーを合算する
- 栄養開始と同時に、開始後72時間の採血・身体所見・増量保留基準を決める
- ガイドライン間で開始量に差があるため、単一の数字を全患者へ当てはめない
- 異常が出たら電解質補充、チアミン、体液、栄養速度をチームで再設計する