この記事の結論

低Na血症の治療は「Naを正常値に戻す」ことではありません。重い神経症状を安全に改善しながら、浸透圧性脱髄症候群(ODS)を起こす過補正を防ぐことが目標です。重症症状がある場合、3%高張食塩水のボーラス投与を用いてまずNaを約4〜6 mmol/L上昇させることを目標とし、症状改善後は補正を抑えます。慢性または発症時期不明、高リスク患者では、24時間の上昇をより保守的に管理します。

重要なのは、処方した輸液量よりも、患者自身の急な水利尿が過補正を起こすことです。Naと尿量を頻回に追い、過補正しそうなら高張食塩水を止め、デスモプレシンと電解質を含まない自由水(一般に5%ブドウ糖液)による再低下を上級医・専門医と直ちに検討します。

本記事は医療者向け教育資料です。重症低Na血症の補正は高リスク治療です。施設プロトコルを確認し、救急・集中治療・腎臓・内分泌の上級医へ早期相談してください。Na単位はmmol/Lで表記します。

最初の10分で行うこと

1. 症状の重さを判定する

重症症状として、けいれん、昏睡、深い傾眠、呼吸停止・呼吸不全、強い嘔吐などを評価します。頭痛、混乱、歩行障害なども低Na血症との因果関係を検討します。

重い神経症状があれば、原因精査と並行して高張食塩水治療を開始します。Na値だけで症状の重さを判断しません。

2. 採血・採尿を同時に行う

  • 血清Na、K、Cl、HCO3、血糖、BUN、Cr
  • 血清浸透圧
  • 尿浸透圧、尿Na、尿K
  • 必要に応じTSH、FT4、朝のコルチゾール
  • 薬剤歴、飲水量、嘔吐・下痢、心腎肝疾患

可能なら治療前に採尿しますが、重症症状の治療を遅らせません。

3. 補正の基準時刻と上限を共有する

「現在のNa」「補正開始時刻」「6時間・24時間の目標と上限」「次の採血時刻」を診療録とチームで共有します。前医の補液や来院前からの上昇も24時間量に含めます。

まず低張性低Na血症か確認する

分類 ポイント
低張性 SIAD、低容量、副腎不全、心不全など 通常の低Na診療の中心
高張性 高血糖、浸透圧物質 実測浸透圧と補正Naを評価
等張性・偽性 著明な高脂血症・高蛋白血症など 測定法と実測浸透圧を確認

高血糖では水が細胞外へ移動しNaが低く見えるため、補正Naを計算し、血糖治療に伴うNa変化を予測します。

検査の組み立て方

血清浸透圧で低張性かを確認し、尿浸透圧で腎が自由水を排泄しているか、尿Na・Kで体液量と電解質をどう扱っているかを推定します。採血と採尿はできるだけ同じ時点で行い、治療後に値が変化した場合は「治療前の病態」と混同しません。副腎不全、甲状腺機能低下、腎不全、薬剤性を臨床背景に応じて評価します。

原因診断は尿浸透圧と尿Naを軸にする

尿浸透圧が低い

水排泄が保たれており、多飲や低溶質摂取などを考えます。原因が解除されると急な水利尿が起こり、Naが速く上がることがあります。

尿浸透圧が高い

ADH作用がある状態です。尿Na、体液量、薬剤、腎機能、甲状腺・副腎機能を合わせ、低容量、SIAD、心不全・肝硬変、副腎不全などを鑑別します。

診察だけで低容量・正常容量を完全に分けるのは難しく、利尿薬は尿Naの解釈を乱します。原因仮説を治療後の反応で再評価します。

レッドフラッグ

  • けいれん、昏睡、呼吸障害、著しい意識変化
  • Naが短時間で大きく低下した可能性
  • Na 120未満で発症時期不明、特に105以下
  • アルコール使用障害、低栄養、進行肝疾患
  • 低K血症
  • 水利尿が始まり尿量が急増した
  • すでに補正上限へ近づいている
  • 妊娠、脳疾患、下垂体・副腎疾患の可能性

Na 105以下、低K、アルコール使用障害、低栄養、進行肝疾患などはODS高リスクとして特に保守的に管理します。

重症症状がある場合の治療

高張食塩水を少量ボーラスで投与し、症状とNaを再評価します。各ガイドラインでボーラス量や反復回数に差があるため、自施設プロトコルを使用します。初期目標はNa約4〜6上昇で、けいれん・脳浮腫リスクを軽減することです。症状が改善したら、正常化を目指して高張食塩水を続けません。

急性低Naであっても、発症時刻が確実でなければ慢性として安全側に扱います。低K補正そのものもNa上昇に寄与するため、総補正量に含めて考えます。

補正速度の安全枠

推奨値には幅がありますが、慢性または発症時期不明では、24時間で8 mmol/L以内を実務上の保守的な上限とすると管理しやすく、ODS高リスクでは特にこれを超えないようにします。重症症状の初期4〜6上昇もこの24時間量の一部です。

上限は治療目標ではありません。測定誤差と予期しない水利尿を考え、目標は上限より低く設定します。翌日以降も累積補正を確認します。

モニタリングで見るべきもの

  • 血清Na:重症治療中・変化中は数時間ごと
  • 尿量:時間尿量で追う
  • 尿浸透圧、尿Na・K:水利尿の把握に役立つ
  • 神経症状:改善と新規症状
  • K、血糖、腎機能
  • 全輸液、経口水分、尿・便・ドレーン

尿量が急増し尿が薄くなったら、輸液処方が同じでもNaが急上昇します。次回採血を待たず、上級医へ連絡して計画を見直します。

過補正しそう・過補正したとき

  1. 高張食塩水や原因となる治療を直ちに見直す
  2. Na、K、血糖、尿量、尿浸透圧を再確認する
  3. デスモプレシンで水利尿を抑えることを検討する
  4. 5%ブドウ糖液などで自由水を補い、Naを安全域へ戻すことを検討する
  5. 神経症状とNaを頻回に追う

これらは「失敗後の最後の手段」ではありません。高リスク患者で水利尿が予想される場合、専門医のもとで予防的にデスモプレシンを組み込む方法もあります。用量・速度は体重、尿量、上昇幅、心腎機能に応じて施設手順で決めます。

原因別治療の考え方

  • 低容量性:循環を回復させるとADHが解除され、急な水利尿が起こり得る
  • SIAD:原因薬・基礎疾患を評価し、水分制限などを病態に合わせる
  • 副腎不全:ステロイド治療後に急速補正し得る
  • 低溶質摂取・多飲:溶質投与や飲水制限後の急速補正に注意
  • 心不全・肝硬変:体液過剰と有効循環血液量低下が共存する
  • 低K血症:K補正によるNa上昇を見込む

よくある落とし穴

  • Na値だけで高張食塩水を開始する
  • 初期目標4〜6を24時間上限と別枠にする
  • 急性と証明できない低Naを急性扱いする
  • 尿量を測らず採血だけ待つ
  • 低容量への補液後に水利尿を予測しない
  • 低K補正のNa上昇を忘れる
  • SIADと決める前に副腎不全を除外しない
  • 過補正後、何もせず経過を見る
  • 「速い補正でも問題ない」という観察研究を個別患者の安全上限撤廃に使う

申し送りの型

「Na 112、発症時期不明で混乱があります。血清浸透圧、尿浸透圧、尿Na/Kを治療前に採取し、重症症状として施設手順の3%食塩水ボーラスを開始します。初期目標は4〜6上昇、24時間上限は保守的に8以内。2時間後のNaと時間尿量を追い、水利尿や上限接近時はデスモプレシン・5%ブドウ糖液を専門医と検討します」

よくある質問

Q. 何mmol/Lまで上げれば症状が改善しますか?

重症症状ではまず約4〜6の上昇を目標にし、症状を再評価します。正常値まで急いで戻す必要はありません。

Q. 観察研究で急速補正の方が予後良好なら、上限は不要ですか?

いいえ。交絡が大きく、ODSはまれでも重篤です。高リスク群は特に、ガイドラインに沿った保守的上限と頻回モニタリングを守ります。

Q. Naが上がりすぎたら下げてもよいですか?

高リスク患者の過補正では再低下を検討します。デスモプレシンと自由水を用いることがありますが、専門医と施設手順のもとで頻回に再評価します。

適用範囲

本記事は成人の低Na血症を救急・一般病棟で管理する研修医向けです。小児、妊娠、透析、神経集中治療、重症心不全・肝不全では個別プロトコルと専門管理が必要です。

まとめ

低Na血症では、症状の重さ、発症時期、浸透圧、尿所見、ODSリスクを最初に整理します。重症症状は高張食塩水でまず4〜6上昇を目指し、その後は24時間上限を意識して止めます。最大の敵は予期しない水利尿です。Naと時間尿量を頻回に追い、過補正しそうならデスモプレシンと自由水による再低下を直ちに相談します。