結論:失神診療の中心は、病歴・身体診察・12誘導心電図で心原性リスクを拾うこと
失神は「急速に発症し、短時間で自然に完全回復する、一過性の全脳低灌流による意識消失」です。救急外来では、診断名を一つに決めることより、突然死につながる心原性失神と、失神に見える別の緊急疾患を見逃さないことが重要です。
全例に頭部CT、脳波、頸動脈エコー、広範な採血を行う診療では、危険な心疾患を拾えるとは限りません。
最初の10分
- ABCDE、外傷、持続する神経症状を確認する
- 血糖を測る
- 12誘導心電図をとる
- 仰臥位・立位の血圧と脈拍を、安全に実施できる範囲で測る
- 本人だけでなく目撃者から経過を聞く
- 心原性の危険徴候があればモニター管理と循環器相談を始める
胸痛、呼吸困難、片麻痺、持続する意識障害、活動性出血があれば、「単純な失神」ではなく急性冠症候群、肺塞栓、大動脈疾患、脳卒中、出血性ショックなどを優先します。
本当に失神だったか
次の5点を時系列で聞くと整理しやすくなります。
- 発症前:姿勢、運動、排尿・排便、痛み、暑熱、摂食、薬剤
- 前駆症状:悪心、発汗、熱感、視野暗転、動悸、胸痛
- 発症中:顔色、筋緊張、けいれん様運動、眼球偏倚、持続時間
- 回復:直後に会話できたか、混乱が長く続いたか
- 発症後:舌咬傷、筋肉痛、外傷、失禁
短いけいれん様運動は失神でも起こります。逆に、長い意識混濁、側方の舌咬傷、発作前の定型的な前兆はてんかんを支持します。失禁だけでは区別できません。
心原性失神を疑う危険徴候
- 運動中または仰臥位で発症
- 前駆症状が乏しい突然の意識消失
- 直前の動悸、胸痛、呼吸困難
- 構造的心疾患、心不全、冠動脈疾患の既往
- 若年突然死・遺伝性不整脈の家族歴
- 持続する低血圧、徐脈、頻脈
- 新規または説明可能な異常心電図
心電図では、虚血、伝導障害、洞不全、心室頻拍、QT延長/短縮、Brugada型、WPW、右室負荷などを確認します。軽微に見える異常でも、症状との関連を説明できるなら重要です。
反射性・起立性を支持する所見
反射性失神は、長時間立位、痛み、採血、暑熱などの誘因と、悪心・発汗・熱感・視野暗転などの前駆症状を伴いやすいです。起立性低血圧は、立位で症状が再現され、血圧低下が確認できれば診断を支持します。
ただし、高齢者では複数の機序が重なります。利尿薬、降圧薬、α遮断薬、硝酸薬、向精神薬、脱水、貧血、自律神経障害を確認します。「起立性がある」ことと「今回の原因である」ことは同じではありません。
検査は仮説に合わせる
| 疑う病態 | 有用な検査 |
|---|---|
| 不整脈 | 心電図、モニター、ホルター/長期記録計 |
| 構造的心疾患 | 心エコー、循環器評価 |
| 出血・貧血 | CBC、直腸診、出血源評価 |
| 肺塞栓 | 事前確率に基づくDダイマー、造影CT |
| 代謝性 | 血糖、必要に応じ電解質・血液ガス |
| てんかん | 神経学的評価、適応があれば脳波・画像 |
局在神経症状、頭部外傷、持続する意識変容がなければ、頭部CTは routine ではありません。頸動脈画像も、局在症状のない単純失神の原因検索には通常役立ちません。
帰宅・入院をどう決めるか
低リスクで反射性または起立性の説明がつき、重篤な外傷がなく、再診手段が確保できれば帰宅を検討できます。誘因回避、水分・塩分、前駆症状時の対応、薬剤調整、再診基準を具体的に説明します。
高リスク所見、重大な併存疾患、反復、労作時発症、異常心電図、外傷、フォロー困難があれば、モニター観察、入院、迅速な専門評価を考えます。リスクスコアは補助であり、病歴と心電図を置き換えません。
運転や危険作業の制限は、原因、再発リスク、職業、地域の制度で異なります。診断が未確定でも、再発時に事故につながる場合は明確に助言し、記録します。
よくある失敗
- 「倒れた=失神」と決めつける
- 目撃者に連絡しない
- 心電図を正常/異常の二択で終える
- けいれん様運動だけでてんかんと診断する
- 全例に頭部CTと脳波を行う
- 起立性低血圧があれば、心原性リスクの評価を止める
- スコアが低いという理由だけで帰宅させる
カルテ記載例
「立位中、悪心・発汗後に約20秒の意識消失。目撃者によれば蒼白、短い四肢のぴくつきあり、直後から会話可能。胸痛・動悸なし。心疾患歴・突然死家族歴なし。神経局在所見なし。12誘導心電図に説明可能な異常なし。起立試験、薬剤、脱水を評価し、反射性失神を第一に考える。再発、労作時発症、胸痛・動悸時は直ちに再診するよう説明。」
Take-home message
- 失神診療の三本柱は病歴、身体診察、12誘導心電図
- 運動中・仰臥位、突然発症、心疾患、異常心電図は高リスク
- 短いけいれん様運動だけでてんかんとはいえない
- 頭部CT・脳波・頸動脈画像は全例には不要
- リスクスコアは臨床判断を支える道具で、代わりではない