結論:最初に「複雑性」と外来で安全に追えるかを判断する

急性大腸憩室炎では、抗菌薬を出すことより先に、穿孔、膿瘍、閉塞、瘻孔、腹膜炎がないかを確認します。免疫正常で循環が安定し、経口摂取と確実な再診が可能な軽症の単純性憩室炎なら、抗菌薬を使わず外来管理できる患者がいます。

一方、免疫抑制、フレイル、重い併存疾患、嘔吐、全身状態悪化、著明な炎症反応、広い炎症範囲や液体貯留があれば、単純性に見えても抗菌薬・入院・専門科相談の閾値を下げます。

最初の10分で行うこと

  1. ABC、意識、体温、血圧、脈拍、呼吸数、SpO2を確認する
  2. 腹膜刺激徴候、腹部膨満、限局性圧痛、鼠径部、背部を診察する
  3. 嘔吐、排便・排ガス停止、血便、免疫抑制、最近の抗菌薬、妊娠可能性を確認する
  4. CBC、CRP、腎機能、電解質、肝胆道系酵素、尿検査を病態に応じて提出する
  5. 敗血症、汎発性腹膜炎、閉塞、持続する強い痛みがあれば、輸液・鎮痛と並行して造影CTと外科相談を急ぐ

妊娠可能性がある患者では、画像法と造影の選択前に妊娠の可能性を確認します。

診断は「左下腹部痛」だけで決めない

臨床所見だけでは、憩室炎と大腸癌、腸管虚血、炎症性腸疾患、尿路感染症、尿管結石、婦人科疾患を十分に区別できません。初回発症、診断不確実、重症、免疫抑制、改善不良ではCTの価値が高くなります。

典型的なCT所見は、憩室を中心とした限局性壁肥厚と周囲脂肪織濃度上昇です。次を認めれば複雑性憩室炎として扱います。

  • 遊離ガスまたは穿孔
  • 膿瘍・液体貯留
  • 腸閉塞・狭窄
  • 瘻孔
  • 汎発性腹膜炎

外来管理に必要な条件

外来を選べるのは、次の条件をすべて満たす患者です。

  • 血行動態が安定し、SIRSや敗血症を示さない
  • CTで複雑性所見がない
  • 痛みと嘔気を内服で管理でき、水分を摂れる
  • 免疫正常で、著しいフレイルや重い併存疾患がない
  • 数日以内の再評価と、悪化時の早期受診が可能

年齢だけで一律に入院を決めず、身体予備能、支援体制、服薬管理、再診可能性を含めて判断します。

抗菌薬は全例には使わない

2026年のACGガイドラインでは、免疫正常、循環安定、外来管理可能、経口摂取可能で、SIRS・複雑性・フレイルがない急性単純性憩室炎は、抗菌薬なしで管理できるとしています。

抗菌薬を考えるのは次の場合です。

  • 免疫抑制
  • フレイル、重い併存疾患
  • 経口摂取不能、反復する嘔吐
  • 症状の増悪、敗血症
  • 著明な炎症反応
  • 膿瘍などの複雑性所見、または高リスク画像所見

必要な場合は、腸内グラム陰性菌と嫌気性菌を想定し、地域の感受性、アレルギー、腎機能、直近の抗菌薬歴に合わせて選びます。単純性外来例では一般に短期治療が検討されますが、複雑性、免疫抑制、菌血症、感染源コントロールの状況で期間は変わります。

退院説明と再評価

食事は無理に絶食を続けず、症状に合わせて透明な流動食などから再開し、改善とともに進めます。次を明確に伝えます。

  • 痛みの増悪、発熱持続、嘔吐、腹部膨満、排便・排ガス停止、血便、意識変化は早期再診
  • 48〜72時間で改善が乏しければ再評価
  • NSAIDsの常用は再発・合併症リスクを考え、必要性を見直す
  • 回復後は運動、禁煙、体重管理、植物性食品・食物繊維を意識する

大腸内視鏡は全例同じではない

急性期に内視鏡を行うのではなく、炎症が落ち着いてから適応を判断します。2026年ACGガイドラインでは、複雑性憩室炎後は大腸癌などの見逃しを除外するため内視鏡を推奨します。単純性憩室炎後は、警告症状がある、または大腸癌検診が最新でない場合に行います。

よくある落とし穴

  • 左下腹部痛と炎症反応だけで憩室炎と決める
  • 単純性と複雑性を区別せず、全員に長期抗菌薬を処方する
  • 高齢という理由だけで入院、または見た目が元気という理由だけで外来にする
  • 改善しない患者で膿瘍、穿孔、癌、虚血性腸炎を再検討しない
  • 退院時に再診条件とフォローを伝えない

FAQ

抗菌薬なしなら何をするのですか?

鎮痛、経口補水、食事調整、再診計画を行います。「無治療」ではなく、合併症リスクが低い患者を選び、経過を追う治療です。

憩室炎の再発回数だけで手術相談しますか?

回数だけでは決めません。重症度、持続症状、複雑性、生活への影響、免疫状態と患者の希望を含めて個別に相談します。

適用範囲

成人の急性大腸憩室炎を想定した教育用の整理です。抗菌薬選択、ドレナージ、手術適応は、画像所見、耐性菌リスク、施設体制を踏まえて消化器内科・外科と決定してください。