結論:抗菌薬を足す前に「何が変わったか」を再構成する
抗菌薬治療中の発熱は、①原感染の治療失敗、②新しい感染症、③非感染性発熱の3群に分けると整理しやすくなります。発熱だけを理由に抗菌薬を広域化すると、感染源コントロールの遅れ、薬剤有害事象、Clostridioides difficile感染症、耐性菌選択につながります。
まず重症度を再評価し、ショックや新たな臓器障害があれば培養採取と蘇生、適切な経験的治療を急ぎます。安定していれば、タイムラインを作り直す時間があります。
まず1枚のタイムラインを作る
- 入院日、発熱開始、培養採取日
- 抗菌薬の開始・変更・中止と投与量
- 解熱した期間と再発熱時刻
- カテーテル、手術、処置、輸血、新規薬剤
- 腎機能、白血球、CRP、酸素需要、血圧の推移
「何日目の発熱か」だけでなく、患者の臨床状態が改善しているか悪化しているかを確認します。肺炎では画像所見や炎症反応の改善が遅れるため、発熱単独で失敗と決めません。
1. 原感染の治療失敗を見直す
抗菌薬が病原体・部位に届いているか
培養結果と感受性、投与量、腎機能、体格、吸収、相互作用、感染部位への移行を確認します。重症MRSA感染に対するバンコマイシンは、現在はトラフ値15〜20 mg/Lを一律に狙う方法ではなく、AUC/MIC 400〜600を目標とするモニタリングが推奨されています。薬剤師・感染症チームと施設手順に沿って調整します。
感染源コントロールができているか
膿瘍、膿胸、閉塞性尿路感染、胆管炎、壊死組織、感染デバイスでは、抗菌薬だけでは改善しません。再画像、ドレナージ、デバイス抜去・交換、外科評価を検討します。
2. 新しい感染症を探す
入院中には、カテーテル関連血流感染、院内肺炎、尿路感染、C. difficile感染症、褥瘡・手術部位感染が加わります。新しい局所症状が乏しくても、ライン挿入部、口腔、背部、会陰部まで診察します。
培養は「とりあえず全種類」ではなく、臨床疑いに合わせて適切な部位・本数で採取します。無症候性細菌尿や定着菌を新しい感染源と誤認しないことも重要です。
3. 非感染性発熱を考える
- 薬剤熱・重症薬疹
- 深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症
- 輸血反応
- 偽痛風など結晶性関節炎
- 血腫、組織壊死、褥瘡
- 腫瘍熱、自己炎症性疾患、中枢性発熱
薬剤熱には決定的な熱型や検査所見はありません。比較的元気、相対的徐脈、皮疹、好酸球増多は手掛かりになり得ますが、なくても否定できません。原因薬開始からの時間、感染症の経過、他の有害事象を検討し、安全に中止できる薬剤を整理します。
抗菌薬を変える前の5問
- 患者は不安定か。新たな臓器障害はあるか
- 原診断と感染部位は正しかったか
- 培養・感受性、用量、投与経路は適切か
- ドレナージやデバイス対応が必要ではないか
- 新規感染または非感染性原因を示す変化はないか
よくある落とし穴
- CRPが高いままという理由だけで抗菌薬を変更する
- 培養陰性を感染否定、培養陽性を必ず感染と解釈する
- 広域化を繰り返し、感染源コントロールを遅らせる
- すべての薬剤を同時に中止し、原因も必要治療も不明にする
- 旧来のバンコマイシントラフ目標を重症例すべてに適用する
適用範囲
本稿は成人入院患者の再発熱・遷延発熱の教育用アプローチです。不安定な患者では検査の完了を待たず、敗血症診療と感染症専門家への相談を優先してください。