結論:発熱がなくても、持続する限局性脊椎痛と炎症反応で疑う
化膿性脊椎炎(成人のnative vertebral osteomyelitis)は、診断が遅れると硬膜外膿瘍、脊髄圧迫、敗血症、脊椎不安定性につながります。ところが、発熱がそろうとは限りません。
新規または増悪する頸部痛・背部痛・腰痛に、CRP/赤沈上昇、菌血症、感染リスクのいずれかが加われば疑うのが実践的です。安定している患者では培養を取ってから治療しますが、敗血症、循環不全、進行する神経障害があれば、培養採取と並行して抗菌薬・外科的評価を急ぎます。
疑うべき場面
- 数日から数週続く限局性の頸部痛・背部痛・腰痛
- 夜間痛、安静時痛、体動・叩打で増悪する痛み
- 原因不明のCRP・赤沈上昇
- 黄色ブドウ球菌菌血症、感染性心内膜炎、最近の菌血症
- 透析、糖尿病、免疫抑制、注射薬物使用
- 尿路・皮膚軟部・血管内デバイスなど別部位の感染
- 最近の脊椎手技・手術
痛みは多くの患者にありますが、発熱や白血球増多は欠けることがあります。「熱がない」「X線で異常がない」だけで除外しないでください。
最初に確認するRed flag
次があれば、MRIと脊椎外科への相談を緊急化します。
- 新規筋力低下、感覚障害、歩行障害
- 尿閉・失禁、会陰部感覚低下
- 急速に悪化する痛み
- 敗血症、低血圧、意識障害
- 脊椎変形、強い正中叩打痛
神経診察は「麻痺なし」で済ませず、上肢・下肢の主要筋群、感覚、反射、直腸膀胱障害を記録します。頸椎病変では上肢所見も忘れません。
初期検査のセット
1.血液培養2セット
IDSAは、疑う全患者で好気・嫌気の血液培養2セットを推奨しています。抗菌薬投与前が理想です。黄色ブドウ球菌菌血症と典型的MRI所見がそろえば、椎間板腔穿刺を省略できる場合があります。
2.CRP・赤沈
診断を単独で確定はできませんが、疑いを高め、治療反応の基準になります。白血球数が正常でも否定できません。
3.造影MRI
第一選択は病変が疑われる脊椎のMRIです。椎体・椎間板だけでなく、硬膜外・傍脊柱膿瘍と脊髄圧迫を評価します。禁忌や入手困難なら、核医学検査、CT、PETなどを放射線科と相談します。
発症早期のMRIが非典型でも、臨床的疑いが高いままなら診断を打ち切らず、画像診断医と再確認し、時間を置いた再検を検討します。
生検はいつ行うか
血液培養で原因菌が分からず、患者が血行動態・神経学的に安定している場合は、画像ガイド下生検で細菌培養と病理を提出します。結核、真菌、Brucellaなどを疑う疫学・宿主背景があれば、専用培養や検査を追加します。
初回生検が陰性でも、標本量、抗菌薬先行、検査項目を見直します。疑いが強ければ再生検や外科的採取を感染症科・脊椎外科と検討します。
抗菌薬は「早ければよい」ではない
| 状況 | 抗菌薬開始の考え方 |
|---|---|
| 循環・神経所見が安定 | 血液培養と可能なら生検で原因菌を確保してから開始 |
| 敗血症・ショック | 培養採取後、遅らせず経験的治療を開始 |
| 重症または進行する神経障害 | 培養と並行し、抗菌薬・緊急外科評価を開始 |
安定患者で先に抗菌薬を始めると培養感度が下がり、長期治療の標的が分からなくなります。一方、不安定患者で「生検待ち」をするのも危険です。
経験的治療は黄色ブドウ球菌(MRSAを含む可能性)とグラム陰性桿菌を意識しますが、院内耐性率、感染経路、腎機能、アレルギーで変わります。施設の感染症科・抗菌薬適正使用チームに相談してください。
治療期間とフォロー
多くの細菌性化膿性脊椎炎では、IDSAは静注またはバイオアベイラビリティの高い経口薬を含む合計6週間を推奨しています。ただし、原因菌、膿瘍、手術、免疫状態、反応不良などで個別化します。
フォローの中心は疼痛、神経所見、CRP・赤沈の推移です。臨床的に改善している患者へルーチンのフォローMRIは推奨されません。骨所見は遅れて改善し、画像だけが悪く見えることがあるためです。症状や炎症反応が改善しない場合に再画像を考えます。
外科へ早く相談する条件
- 進行する神経障害・脊髄圧迫
- 脊椎不安定性、変形、制御困難な疼痛
- 大きな硬膜外・傍脊柱膿瘍
- 適切な抗菌薬でも菌血症や感染が持続
- 診断用組織が必要で経皮生検が不十分
上級医への報告例
「2週間続く増悪性腰痛で、発熱はありませんがCRP 12 mg/dLです。L4に強い叩打痛があり、下肢筋力は保たれていますが尿閉はありません。血液培養2セットを採取し、造影MRIを緊急依頼します。血行動態は安定しているため、感染症科と相談し生検前の抗菌薬は保留する方針です」
よくある失敗
- 発熱がないため筋筋膜性疼痛と決める
- 単純X線やCTが目立たないため除外する
- 神経所見を記録せず、悪化を比較できない
- 安定患者で培養前に抗菌薬を開始する
- 敗血症患者で生検を待って治療を遅らせる
- 改善中でもMRI所見だけで治療失敗と判定する
Take-home message
- 持続する限局性脊椎痛と炎症反応があれば、発熱がなくても疑う
- 血液培養2セット、CRP・赤沈、MRIが初期評価の柱
- 安定患者は原因菌確保を優先し、不安定・神経障害例は治療を遅らせない
- 多くの細菌性症例は6週間治療だが、患者ごとに調整する
- 症状と炎症反応が改善していれば、ルーチンの再MRIは不要