結論:腹痛・神経障害・高血圧・皮膚所見を「中型血管の虚血」でつなぐ

結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)は、主に中型・小型筋性動脈を侵す壊死性血管炎です。腎臓、消化管、末梢神経、皮膚などに虚血を起こしますが、糸球体腎炎や肺毛細血管炎は典型的ではありません。

臓器虚血、動脈瘤破裂、腸管穿孔が疑われるときは、診断の完成を待たず救急・IVR・外科・膠原病科を同時に動かします。

PANを疑う組み合わせ

  • 説明できない発熱、体重減少、筋痛、関節痛
  • 食後腹痛、消化管出血、腸管虚血
  • 急な左右差を伴う運動・感覚障害、多発性単神経障害
  • 網状皮斑、皮下結節、潰瘍、指趾虚血
  • 新規または増悪する高血圧、腎梗塞
  • 精巣痛
  • 腹部内臓動脈の狭窄・閉塞・多発微小動脈瘤

ANCA陰性でも血管炎は否定できません。むしろPANは通常ANCA関連血管炎ではありません。

最初に評価する緊急病態

  1. ショック、腹腔内出血、急速なHb低下
  2. 腹膜刺激徴候、乳酸上昇、腸管虚血・穿孔
  3. 急速に進む末梢神経障害
  4. 腎梗塞と重症高血圧
  5. 冠・中枢神経など重要臓器虚血

疑えばCBC、凝固、腎・肝機能、CRP、乳酸、尿検査、血液型・交差適合を病態に応じて提出し、造影CTまたは血管画像を急ぎます。

診断アプローチ

1. 血管炎らしい臓器分布を確認する

単一臓器だけでなく、皮膚、神経、腎、消化管、筋骨格の所見を並べます。尿蛋白・血尿があっても、赤血球円柱や急速進行性糸球体腎炎が前景ならANCA関連血管炎などを再検討します。

2. 二次性原因と類似疾患を探す

  • B型肝炎、C型肝炎、HIV
  • ANCA関連血管炎
  • クリオグロブリン血症性血管炎
  • リウマトイド血管炎
  • 感染性心内膜炎・感染性動脈瘤
  • 分節性動脈中膜融解(SAM)
  • 線維筋性異形成、塞栓症

特にHBs抗原、HBc抗体、HBV-DNAを治療前に評価します。免疫抑制前の感染症スクリーニングは治療安全性にも直結します。

3. 画像または生検で裏付ける

腹部・腎血管のCTA、MRA、血管造影では、狭窄、閉塞、梗塞、多発動脈瘤を評価します。末梢神経障害があれば、神経伝導検査と、症候性部位の神経・筋生検を検討します。皮膚病変があれば、十分な深さの皮膚生検が診断につながります。

ACR/VFガイドラインは、疑われるPANで診断を確立するため、症候性部位の深い皮膚生検や、末梢神経障害がある場合の神経と筋の併合生検を条件付きで推奨しています。

重症度で治療を分ける

臓器・生命を脅かすPANでは、高用量グルココルチコイドとシクロホスファミドによる寛解導入が標準的に検討されます。臓器障害を伴わない非重症例でも、グルココルチコイド単剤より、適切な非グルココルチコイド免疫抑制薬の併用が検討されます。

治療と同時に次を行います。

  • 虚血・出血部位の外科またはIVR評価
  • 血圧管理
  • 感染予防とワクチン計画
  • 骨粗鬆症、消化管、血糖、血栓リスク管理
  • 神経障害のリハビリと疼痛管理

HBV関連PANでは、抗ウイルス治療を軸に専門的治療戦略が必要です。通常の特発性PANと同じ免疫抑制を漫然と行いません。

経過観察は症状と臓器機能で行う

CRPだけでなく、腹痛、皮膚所見、筋力・感覚、高血圧、腎機能、画像上の血管病変を追います。新しい腹痛やHb低下は、動脈瘤破裂や腸管虚血として再評価します。

よくある落とし穴

  • ANCA陰性を理由に血管炎を否定する
  • 腹痛をステロイドで隠し、腸管虚血・穿孔を見逃す
  • 微小動脈瘤を見てPANと即断し、SAMや感染性動脈瘤を検討しない
  • HBVを確認せず免疫抑制を開始する
  • 糸球体腎炎や肺胞出血をPANらしい所見と考える
  • 神経障害の左右差と分布を記録しない

FAQ

PANで肺病変は起こりませんか?

肺毛細血管炎や糸球体腎炎はPANの典型像ではありません。肺胞出血があればANCA関連血管炎など別の診断を優先して再検討します。

生検が陰性なら除外できますか?

病変は分節性で、検体部位により陰性になり得ます。臨床像と血管画像を合わせて判断します。

適用範囲

成人の全身性PANを想定した初期診療の整理です。小児PAN、皮膚限局型、HBV関連、遺伝性自己炎症疾患が疑われる場合は、該当専門科の方針を優先してください。