この記事の結論

皮疹を診るときは、病名当てから始めず、いつ、どこから、何が、どう広がったかを記載します。一次疹の形態、色、境界、表面、配列、分布、粘膜病変、全身症状をそろえると、鑑別と皮膚科への相談内容が明確になります。

最優先は、アナフィラキシー、髄膜炎菌感染、壊死性軟部組織感染症、SJS/TEN、DRESS、重症水疱症などを見逃さないことです。押して消えない紫斑、皮膚痛、粘膜びらん、水疱・表皮剥離、急速な拡大、発熱や臓器障害はレッドフラッグです。

皮膚写真は患者の同意と院内規則に従い、個人端末へ保存しないでください。本記事の画像・病名の説明だけで自己判断せず、患者全体を診察します。

最初の10分で行うこと

  1. 気道、呼吸、循環、意識と発熱を確認する
  2. 皮膚痛、粘膜病変、水疱、紫斑、急速拡大の有無を見る
  3. 全身を露出し、頭皮、口腔、眼、陰部、手掌・足底まで確認する
  4. 最初の部位、発症日、拡大方向、掻痒・疼痛を聞く
  5. 直近2か月の新薬、増量、市販薬、サプリ、ワクチン、感染を時系列化する
  6. 代表病変を形態・分布で記載し、スケールと定規を添えて記録する
  7. 重症薬疹や感染を疑えば被疑薬対応と皮膚科・救急相談を急ぐ

まず使う形態の言葉

  • :平坦な色調変化
  • 丘疹:小さく隆起した充実性病変
  • 局面:広く平らに隆起した病変
  • 結節:より深部に及ぶ充実性病変
  • 膨疹:一過性で浮腫性の隆起
  • 小水疱・水疱:液体を含む病変
  • 膿疱:膿性内容を含む病変
  • 紫斑:血液が皮外へ漏出し、圧迫しても消えない色調変化

二次変化として鱗屑、痂皮、びらん、潰瘍、裂溝、苔癬化、瘢痕も記載します。病名ではなく「体幹優位に左右対称の紅色丘疹が融合し、一部に鱗屑」のように書きます。

分布と配列を見る

  • 局在か全身か、左右対称か片側か
  • 体幹、四肢伸側・屈側、間擦部、露光部
  • 皮節性、線状、輪状、標的状、網状、群生
  • 毛包性か非毛包性か
  • 手掌・足底、爪、頭皮、口腔・眼・陰部粘膜

同じ形の病変でも、皮節性なら帯状疱疹、露光部なら光線過敏、手掌・足底なら梅毒や感染症など、分布が鑑別を変えます。

レッドフラッグ

  • 呼吸困難、喘鳴、血圧低下、喉頭・舌の腫脹
  • 発熱と押して消えない紫斑、意識変容
  • 見た目以上の激痛、急速な腫脹、握雪感、壊死
  • 皮膚痛、広範な紅斑、水疱、表皮剥離
  • 口腔・眼・陰部のびらん
  • 顔面浮腫、リンパ節腫脹、好酸球増多、肝・腎障害
  • 免疫不全者の急速な播種性水疱・壊死

この場合は外来で軟膏だけを処方せず、蘇生、隔離の必要性、被疑薬中止、緊急手術・皮膚科・眼科・感染症科相談を進めます。

鑑別の組み立て

急性の掻痒性紅斑・丘疹

蕁麻疹、薬疹、ウイルス性発疹、接触皮膚炎、疥癬などを考えます。個々の膨疹が24時間以内に跡なく消えるか、接触部位に一致するか、夜間掻痒や同居人症状があるかを確認します。

水疱・びらん

帯状疱疹、単純疱疹、伝染性膿痂疹、自己免疫性水疱症、SJS/TEN、熱傷を鑑別します。皮膚痛、粘膜、薬剤歴、皮節性、免疫状態が重要です。

紫斑

血小板減少、凝固異常、血管炎、感染、塞栓を考えます。隆起する紫斑、壊死、腎・腹部・関節症状、血算・凝固・尿所見を確認します。

鱗屑を伴う慢性局面

湿疹、乾癬、白癬、皮膚リンパ腫などを考えます。真菌検査前にステロイドを開始すると白癬を修飾するため、辺縁の鱗屑を採取します。

薬疹を疑うとき

処方薬だけでなく、頓用、注射、造影剤、市販薬、サプリを発症前2か月程度さかのぼります。薬名と開始・増量・中止日、発疹日、発熱、粘膜症状、好酸球、肝腎機能を一枚の時系列にします。

重症薬疹が疑われる場合は、薬を「全部中止」または「一つも変えない」と機械的に決めず、必要性と因果関係を上級医・薬剤師・皮膚科と検討します。再投与は重篤化の危険があるため、安易に確認試験をしません。

検査と生検

  • 血算・分画、肝腎機能、CRP:全身症状や薬疹がある場合
  • 凝固検査、尿検査:紫斑・血管炎を疑う場合
  • KOH直接鏡検:白癬・カンジダを疑う場合
  • 細菌培養:膿・滲出液があり結果で治療が変わる場合
  • ウイルス検査:水疱、免疫不全、妊娠などで診断が重要な場合
  • 皮膚生検:血管炎、水疱症、腫瘍、非典型・難治性病変

生検部位と検体の固定方法は疑う病態で異なります。免疫蛍光法が必要なら、処置前に皮膚科・病理へ確認します。

治療の原則

原因への治療と、皮膚バリア・掻痒・疼痛への対症療法を分けます。感染を除外せず強力な外用ステロイドを使う、アナフィラキシーに抗ヒスタミン薬だけを使う、壊死性感染で画像待ちにする、といった遅延を避けます。

よくある落とし穴

  • 病変を見ず「発疹あり」とだけ記載する
  • 服を脱がせず、粘膜と手掌・足底を見ない
  • 褐色皮膚で紅斑が目立ちにくいことを考慮しない
  • 押して消えるか確認しない
  • 新薬を直近1週間だけ聞く
  • 病変の端でなく中央から真菌検体を採る
  • 患者同意なしに個人端末で撮影する

よくある質問

Q. 写真だけで皮膚科に相談してよいですか?

写真は有用ですが、経過、全身症状、薬剤歴、触診、粘膜、分布が必要です。代表像と全体像を院内規則に沿って記録し、文章を添えます。

Q. 薬疹ではどの薬を止めますか?

重症度、開始時期、既知のリスク、代替可能性で優先順位を決めます。生命維持に必須の薬もあるため、重症例は上級医・薬剤師・皮膚科と直ちに判断します。

Q. 皮疹が消退傾向なら安心ですか?

重症薬疹や血管炎では皮膚所見と臓器障害が一致しないことがあります。発熱、粘膜、血算、肝腎機能、尿所見を再評価します。

適用範囲

成人の新規皮疹の初期評価を対象とします。小児、妊娠、重症免疫不全、熱傷、眼病変では各専門領域の手順を優先してください。

まとめ

皮疹診療では、形態、分布、経過、粘膜、全身症状を共通言語で記載します。押して消えない紫斑、皮膚痛、表皮剥離、粘膜病変、急速拡大は、その場で全身管理と専門科相談へ進むサインです。