この記事の結論

脱水・循環血液量減少の診断を、口腔乾燥、皮膚ツルゴール、BUN/Cr比、下大静脈(IVC)径のどれか一つで決めてはいけません。病歴、バイタル、身体所見、尿量、検査値の時間変化、必要なら超音波を組み合わせ、補液などの介入後に再評価して確度を上げます。

研修医が最初にすることは次の4つです。

  1. ショックと緊急治療が必要な状態を認識する
  2. 喪失量と摂取不足、体重変化、時間軸を聞く
  3. 低容量だけでなく心不全・敗血症・出血などを並行評価する
  4. 補液を「診断名」ではなく目的と再評価条件付きの治療として行う

本記事は医療者向け教育資料です。実際の輸液量・速度・組成は、ショックの種類、心腎機能、電解質、出血、年齢、妊娠、施設手順に合わせて調整し、重症例では上級医へ早期相談してください。

最初の10分で行うこと

1. ABCとショックを確認する

  • 気道、呼吸数、SpO2、呼吸仕事量
  • 血圧だけでなく、脈拍、末梢冷感、毛細血管再充満、意識
  • 尿量、最終排尿、乏尿の時間
  • 活動性出血、黒色便、吐血、腹腔内出血の可能性
  • 発熱、悪寒、感染源、皮疹
  • 心電図モニター、静脈路、必要な採血

低血圧がなくても、頻脈、意識変化、冷汗、乏尿、乳酸上昇があれば循環不全を疑います。

2. 「入らない」と「出ていく」を聞く

  • 嘔吐、下痢、発熱、発汗、多尿、出血、ドレーン
  • 食事・飲水量と、摂れなくなった理由
  • 利尿薬、下剤、SGLT2阻害薬など
  • 口渇、立ちくらみ、失神
  • 普段の体重と現在の体重
  • 心不全、CKD、肝硬変、腎性・中枢性尿崩症

体重の短期変化は、測定条件が近ければ体液変化を推定する有用な手掛かりです。

3. 低容量以外のショックを外さない

敗血症性、心原性、閉塞性、分布異常性ショックは、脱水と同時に存在し得ます。呼吸苦、胸痛、頸静脈怒張、ラ音、片脚腫脹、発熱、感染源などを確認します。

身体所見は組み合わせて使う

所見 読み方 限界
口腔・舌の乾燥 摂取不足や水分欠乏の手掛かり 口呼吸、薬剤、酸素投与でも乾く
毛細血管再充満遅延 末梢灌流不良の手掛かり 寒冷、照明、測定部位に影響される
起立性変化 症候性低容量を支持することがある 自律神経障害、薬剤、臥床でも起こる
腋窩乾燥 低容量を支持する所見の一つ 単独で除外診断はできない
頸静脈圧 右房圧・うっ血の評価に役立つ 技術と体位、呼吸に依存する
末梢浮腫・ラ音 うっ血を示唆 血管内低容量と共存し得る
皮膚ツルゴール 体液欠乏の手掛かり 高齢、皮膚状態で不正確

一つの所見が陰性でも脱水を否定できません。逆に口が乾いているだけで輸液適応とは決められません。

鑑別:水分欠乏と循環血液量減少は同じではない

「脱水」はしばしば曖昧に使われます。臨床では次を分けると方針が明確になります。

  • 水分欠乏:自由水不足が主体で、高Na血症を伴うことがある
  • 循環血液量減少:Naと水の喪失で、有効循環血液量が低下
  • 有効循環血液量低下:心不全・肝硬変など、全身の水分が多くても灌流が低い
  • 分布異常:敗血症などで血管拡張・透過性亢進が主体

同じ「補液が必要そう」に見えても、原因と投与後のリスクは異なります。

レッドフラッグ

  • 意識障害、収縮期血圧低下、末梢冷感、著明な頻脈
  • 乏尿・無尿、急速なCr上昇
  • 活動性出血、消化管出血、破裂性大動脈瘤を疑う所見
  • 呼吸不全、頸静脈怒張、肺うっ血
  • 発熱、感染源、乳酸上昇など敗血症の所見
  • 著明なNa異常、K異常、酸塩基異常
  • 高血糖、ケトン、浸透圧利尿
  • 高齢者・心不全・CKDで、少量の輸液でも呼吸が悪化する

検査の組み立て方

血液検査

  • 血算:貧血、感染、血液濃縮の手掛かり
  • Na、K、Cl、HCO3、BUN、Cr、血糖
  • 必要に応じてMg、Ca、P、乳酸、血液ガス
  • 出血や感染が疑わしければ原因に応じた追加検査

BUN/Cr比は消化管出血、蛋白異化、ステロイド、腎機能などの影響を受けます。「比が高い=脱水」とは限りません。

尿検査

尿量と時間経過は重要です。尿比重、尿浸透圧、尿Na、FENa、FEUNは病態推定に役立つことがありますが、利尿薬、CKD、敗血症、造影、急性糸球体疾患などで解釈が崩れます。数値単独で輸液を決めません。

超音波

心臓、肺、IVC、膀胱などを組み合わせるPOCUSは、うっ血、心機能、尿閉、腹腔内病変の評価を助けます。IVC径や呼吸性変動は、人工呼吸、自発呼吸努力、右心不全、腹圧、体格の影響を受け、単独では輸液反応性を確定できません。

受動的下肢挙上(PLR)と心拍出量・一回拍出量の変化は、適切に測定できれば輸液反応性の予測に役立ちます。ただし「反応しそう」と「輸液すべき」は同義ではなく、肺水腫や出血など全体の利益と害を判断します。

補液は少量ごとに再評価する

ショックや補液蘇生が必要な場合は施設手順に従い、晶質液を用いて迅速に評価・治療します。心不全、CKD、高齢者では特に、投与量を小さく区切り、次を繰り返し確認します。

  • 血圧、脈拍、意識、末梢灌流
  • 呼吸数、SpO2、ラ音、呼吸苦
  • 尿量
  • 乳酸や腎機能など目的に応じた指標
  • 投与量、排出量、累積バランス、体重

反応がなければ、さらに輸液を重ねる前に、出血、敗血症、心原性・閉塞性ショック、副腎不全など診断を見直します。

よくある落とし穴

  • 口腔乾燥だけで脱水と確定する
  • 正常血圧だから循環不全を否定する
  • IVCが細いだけで大量輸液する
  • BUN/Cr比やFENaを絶対視する
  • 浮腫があるから血管内低容量はないと考える
  • 補液前後の再評価項目を決めない
  • 尿閉を乏尿と誤認する
  • 出血や敗血症を「脱水」でまとめる

申し送りの型

「3日間の嘔吐で摂取困難、体重は普段より3 kg減少。頻脈、起立時症状、口腔乾燥、乏尿があり、肺うっ血と頸静脈怒張はありません。出血・感染も並行評価し、少量の晶質液投与後に血圧、脈拍、呼吸、尿量を再評価します」

病名より、根拠、代替診断、介入、再評価条件を伝えます。

よくある質問

Q. BUN/Cr比が20を超えたら脱水ですか?

比は参考所見ですが、消化管出血、異化亢進、薬剤、腎機能などで変化します。病歴、診察、尿量、他の検査と合わせます。

Q. IVCが虚脱していたら輸液しますか?

IVC所見は呼吸条件や右心系・腹圧に左右されます。心肺所見、灌流、動的評価、輸液の害を統合して判断します。

Q. 補液に反応したら脱水で確定ですか?

改善は循環血液量不足を支持しますが、敗血症などでも一時的に反応します。原因診断と反応の持続性を再評価します。

適用範囲

本記事は成人の救急外来・一般外来・病棟で体液量を評価する研修医向けです。小児、妊娠、熱傷、大量出血、集中治療、透析患者では別の管理手順と専門的判断が必要です。

まとめ

脱水・循環血液量減少は、単一の身体所見や検査で診断しません。ショックを先に認識し、喪失と摂取の時間軸、バイタル、身体所見、尿量、検査、必要なPOCUSを統合します。補液は目的と再評価条件を決め、小分けに反応と害を見ながら進めることが安全な診療につながります。